第5話 誕生日パーティー

 ☆夕也視点☆


 ──学園中庭──

 

 本日4月10日は亜美の誕生日。

 部活の後に俺の家に集合して、俺と亜美のために誕生日パーティーをやることになっているが、バレーボール部1年の6人全員が参加するため、家がギュウギュウになりそうだ。

 9日後の俺の誕生日会を兼ねているのは、短期間に2回もやるのは面倒だという理由だ。

 俺の誕生日なんてついでで良いし構わない。


 現在は昼休憩である。

 俺の昼飯はいつも亜美か希望ちゃんが入れて持ってきてくれている。

 毎朝、朝食を作りに来てくれるだけでなく昼の弁当まで用意してくれる幼馴染に感謝だ。


「はい、夕ちゃんのお弁当」


 今日は亜美が入れてくれたらしい。

 俺達は晴れた日は中庭に出て昼食を食べることが多い。


「中庭にランチスペースあるのいいよね」


 そう、中庭には結構な数のテーブルが置かれているランチスペースがあり、晴れた日は取り合いになるぐらいには賑わっている。


「そういえば亜美ちゃん。 今日はお昼休憩はフリーなんですの?」

「あ、うん。 代わりに放課後に3人いるけど……あ、部活ちょっと遅れちゃうかも?」

「大変ねー……私も今日は3人だけど。 短い休憩時間に2人はなかなか大変だったわ」

「んー2人とも相変らず凄いね」

「中学の時あれだけ相手したのにまだいるなんてねぇ……」


 女子連中が話しているのは、今日何人の男子に呼び出されたかの話だ。

 亜美と奈々美は中学の頃からこんな感じで結構な頻度で呼び出されていた。

 一体何人男子居るんだよこの学校! おかしいだろ!


「夕ちゃんと宏ちゃんは?」

「あー俺は今日は無しだった」


 宏太は今日は呼び出されてないのか。 勝ったなガハハ。


「俺はこの後呼び出されてるわ」

「夕也くんも佐々木くんも凄いよね」


 俺は知らないが宏太はモテるからな。


「希望ちゃんも良く呼び出されてるだろ?」

「た、たまにだよ……」


 俺とか希望ちゃんが一般レベルでのモテるってやつなんだろうな。

 いや、俺は知らないが。


「何から何までハイスペック集団ですわね、あなた達」


 半分呆れたように奈央ちゃんが呟いた。

 いや、君も大概ハイスペックですけどね。

 容姿がお子様なこと以外は。




 ──部活終了後── 


 部活を終えた俺達は校門で女子組を待っている。

 女子組はシャワーを浴びて出てくるので、俺達は大体いつも待つ側だ。

 しばらく待っていると女子組がゾロゾロとやってきた。


「2人ともお待たせー」

「おう、じゃあ帰りますか」


 と、校門を出た所で希望ちゃんが声を上げる。


「亜美ちゃんと夕也くんは2人で先帰ってて」

「え? どして?」

「うちらパーティー用にお菓子とかケーキ買いに行くから、2人は先に帰って準備しといてよ」

「あ、そうなんだ。 うーん、わかったよ」


 亜美は納得したらしく「じゃ、先に帰ってよ夕ちゃん?」と俺に振り向く。


「おう」


 他の6人と別れて先に家に戻る事にする。




 ☆買い出し組☆


「希望、本当に良かったのこれで?」

「うん。 誕生日くらいは亜美ちゃんには自分のことを優先して欲しいもん」

「ま、あの子が誕生日に夕也と2人になったからって、夕也に甘える様な気はしないけど」

「亜美ちゃん、あれで頑固だからねー。 希望ちゃんも健気で可愛いけど!」

「わわ!? 紗希ちゃん、胸は触らないでよー!」

「何やってんのよ……ほら、行くわよ」

「俺、この中にいていいのか……」

「佐々木も触りたいってさ」

「は、遥ちゃん何言ってるの?! あ、佐々木くん!ダメだからね?!」

「触りたいけど触らねーよ!」

「宏太、あとでぶん殴るからね?」

「げっ?! 奈々美さま?! 許して下さい!」

「はあ……賑やかですわねー」






 ☆亜美視点☆


 ──帰り道──


 希望ちゃんだな、こんなこと考えるのは。

 折角、先週のデート上手くいったっていうのに、私に夕ちゃんを譲るようなことしちゃって。

 まあ、いっか。 2人になったからって別にどうなるってことはないし。


「ねぇ、夕ちゃん。 ちょっとそこの公園で話しでもしない?」

「ん? 良いけど珍しいな」

「まぁね」


 私は自然に夕ちゃんの手を取って公園へ向かった。 ブランコに腰掛けて夕ちゃんとお話しを始める。


「ここのブランコってこんな小さかったっけ?」

「お前がでかくなっただけだろ」

「そっか……」


 昔はよくこの公園で遊んだなぁ。

 ゆっくりとブランコを漕ぎ出す。


「希望ちゃん、週末楽しかったって言ってたよ」


 ふふふっ、ここで希望ちゃんの話題を出して華麗にアシストしてあげよう。

 私っていいお姉ちゃん。


「なんか、ネックレスもプレゼントしたんだって?」

「あぁ、あれな……ふむ、丁度良い。 ちょっと待ってな」


 と、言って鞄の中から何か包装された箱を取り出す夕ちゃん。

 えっ? それってもしかして?


「ほい、誕生日おめでとう。 それと日頃の感謝も込めて」

「あ、え?」


 ぽんっと手渡される。

 夕ちゃんの顔を見ると、こくっと頷いた。

 私はゆっくりとそれを開ける。

 これは……。


「希望ちゃんのと同じネックレス?」

「あぁ。 お揃いのほうが良いかと思ってな」


 うわ……凄く嬉しい。

 そりゃ希望ちゃんもあの日、嬉し涙を流しながら帰ってくるわけだ。

 私も泣いちゃいそう。


「ね、夕ちゃん、着けてくれる?」

「ん? あぁ、貸してみ」


 夕ちゃんは私の後ろに回ってネックレスを着けてくれた。


「ど、どう?」

「うん、似合ってるし可愛いな」

「あ、ありがと……凄く嬉しい」


 あぁ、ダメだ。

 好きな気持ちが抑えられない。

 今日だけ……今日だけは許してね希望ちゃん。

 私は心の中で希望ちゃんに謝りながら、夕ちゃんの胸に飛び込んでそのまま抱きついた。


「おっと……」

「……」


 夕ちゃんは何も言わずに私を抱きしめくれた。

 まずいなぁ、夕ちゃんの事、どんどん好きになっちゃうよ。

 明日からいつも通り、希望ちゃんの応援出来るかなぁ?

 

 時間にして10秒ぐらいはそうしていたと思う。

 私は夕ちゃんから離れてもう一度お礼を言った。


「気にすんな。 日頃の感謝の気持ちだから」

「ふふっ、夕ちゃんのそういうとこ、好きだなぁ」

「お、惚れたか?」

「さあ? どうでしょう?」


 私は、はぐらかすように言った。


「もう、ずっと前から惚れてるよ……」


 そう言えればどんなに良いだろう。


「ささ、そろそろ帰って準備しないと」


 誤魔化すように言って夕ちゃんの手を握る。

 よし、誕生日の今日だけは、自分の気持ちを優先しよう。

 それで明日になったらいつも通り、希望ちゃんを応援する。


 私は家に着くまで、夕ちゃんの手を強く握って離さなかった。




 ──今井家リビング パーティー中──

 

 時刻は19時を過ぎたところ。

 私達は誕生日パーティーを楽しんでいる。


「へぇ、そのネックレス、今井からのプレゼントなんだ?」


 夕ちゃんからのプレゼントを皆に見せたあげた。

 遥ちゃんが「やるねぇ、今井」と夕ちゃんをイジって遊んでいる。


「あー、可愛い亜美ちゃんが更に可愛くなってしまった!」


 凄い速さで私の背後に回った紗希ちゃんが胸を触ろうとしてくる。


「わわ、ちょっとやめて?! 紗希ちゃん!」

「紗希、またやってるし」


 うわ、宏ちゃんがじーっと見てる!


「こ、宏ちゃん見ないでぇぇ!」

「佐々木も触りたい? 亜美ちゃんの胸」

「触りたっぐぇっ!?」


 奈々ちゃんのチョップが宏ちゃんに炸裂した。

 うわ、痛そう……。


「きゃははは! 佐々木くん大丈夫ー?」

「奈央、お嬢様がそんな下品な笑い方しない!」


 奈々ちゃん、相変わらずキレがいいなぁ。


「今井君はどう? 触りたい?」

「さ、紗希ちゃん?!」

「奈々美のチョップ怖いからやめとく……」


 あ、これは本音だ。

 隣で頭を押さえて蹲る宏ちゃんを見るとねぇ。


「安心しなさい。 あんたは誕生日プレゼントって事にして大目に見てあげるわよ」

「なんで夕也だけ! ズルいっぐあっ?!」


 うわ……いいの入った。

 宏ちゃん白目剥いて泡吹いてるけどだいじょぶかな?


「亜美の胸を触る権利を夕也に上げよう!」

「えー! 奈々ちゃん?! 冗談だよね?!」


 ああ! なんか紗希ちゃんに羽交い締めにされた!

 夕ちゃんは夕ちゃんで遥ちゃんと奈々ちゃんに捕まってるし!


「いや……ダメ! ダメーーーー!」






「うっ……ぐすんっ」


 触られた……10秒ぐらいがっつりと……。


「私、汚れちゃった」

「なーに言ってるのよちょっと胸触られたぐらいで」

「そうよ、彼氏とヤリまくってる紗希なんてどうすんのよ?」

「うぅ……うわーん!」

「あー、これ本気で落ち込んでるやつだわ」

「み、皆さすがにやり過ぎだよっ! 早く謝る!」


 希望ちゃんは常識人だなぁ……。


「な、なんか、ごめんなさい亜美、夕也……」

「ごめんなさい、悪ノリし過ぎたかも……」

「申し訳ない……」


 奈々ちゃん、遥ちゃん、紗希ちゃんが頭を下げてくる。

 謝るぐらいならやらなきゃいいのに……。


「俺は別にいいんだけど、亜美が……」

「ぐずっ……もういいよ、許してあげる……」


 3人はペコペコと頭を下げて謝り続けていた。




 ──パーティー終了後──


 パーティーを終えて片付けを済ませた後は各自解散になった。

 明日も学校だしね。


 最後には皆から誕生日プレゼントも貰った。


 奈央ちゃん、遥ちゃん、紗希ちゃんからは可愛い色のリップ。

 奈々ちゃんと宏ちゃんからはちょっと高そうなショルダーバッグ。

 希望ちゃんと夕ちゃんからは、私が欲しいと思っていた白いワンピース。


「この間、希望ちゃんが持ってた洋服は私へのプレゼントだったんだね」

「そうそう、バレるかと思って冷や冷やしたぞ」


 今は皆帰ってしまって誰もいない。

 希望ちゃんも気を遣ってなのか先に家に戻ってしまったので夕ちゃんと2人きりになった。


「さっきはごめんな」

「え?」

「だからその……胸触ったの……」


 思い出すとまた恥ずかしくなってくる。


「あ、あれは遥ちゃんと奈々ちゃんに無理矢理やらされただけだったし、夕ちゃんは何も悪くないよ? あ、でもちょっと揉み揉みしたよね? 夕ちゃんもちょっと悪い!」

「うう……」

「でも……別に嫌じゃなかったんだよ? 夕ちゃんになら別にいいというかなんというか……」


 ちょっと気持ちよかったし……。

 うう、もしかして私ってちょっとえっちな女の子なのかも?!


「あんなに嫌がってたのにか?」

「うん、恥ずかしかったけど、嫌ってわけじゃなかったんだよ」


 夕ちゃんはそれ以上は何も言わなかった。


 無言のまま時間が過ぎていく。

 このまま家に帰ったら今日が終わっちゃう。

 明日になったら、また希望ちゃんの恋を応援するいいお姉ちゃんに戻らないといけない。


「ねぇ、夕ちゃん」

「ん?」


 今日は私の誕生日。 

 今日だけは希望ちゃんの事は忘れてしまおう。 

 目一杯、夕ちゃんに甘えよう。


 欲しい物は全部貰おう……。


「えっとね……プレゼントね、もう一つ欲しいものがあるんだけど」

「贅沢なやつだなー。 今言われても店どこも開いてないぞ? また今度でいいか?」


 私は夕ちゃんの話も聞かずに立ち上がって、夕ちゃんの目の前に座った。

 私が欲しい物は、お店なんかで売っているものでじゃない。


「ううん、今から貰うから大丈夫」

「え? 今からもら……んんっ?!」

「んんっ……んむ……」


 夕ちゃんの唇に自分の唇を重ねる。

 そのまま夕ちゃんを押し倒してキスを続ける。

 こんなこと、誕生日の今日だけしか出来ない。


「んむ……んん……んはっ……はぁはぁ……えへへ、夕ちゃんのファーストキスもーらい」

「な、おま、何して……」


 私、きっと顔真っ赤になってるんだろうなぁ……。

 夕ちゃんもちょっと困惑してるみたい。


「多分これが、私と夕ちゃんの最初で最後のキスになると思うから……」

「は? 何言って……」


 私の一生の思い出にしよう。

 これで私の初恋は終わり。

 これでいい……。


「明日からはいつも通りだからね? 変な期待しないようね!」

「変な期待って……なぁ、今のは一体……」

「あはは、さてと。 貰うもの貰ったし帰ろっかな」


 私は、まだ困惑している夕ちゃんを置いて立ち上がった。


「あ、亜美? 今のキスは一体どういう?」

「さっき言ったよ? 変な期待しないようにって。 特に深い意味なんてないよ。 欲しかったから貰っただけ」

「な、なんだよそれ」


 納得いかないって様子で私を見る夕ちゃん。

 それはそうだよね。 あんな情熱的なキスされて「深い意味なんてない」とか言われても納得できないよね。


「うーん。 次、誰かとする時の予行演習ってことにしとけばいいんじゃないかな? お互いにね」

「……」

「それじゃあね、夕ちゃん」

「あ、あぁ、外まで送る」

「うん、ありがと」




 ☆夕也視点☆


 亜美を見送ったあと、混乱した頭のまま風呂に入ることにした俺は、現在湯船で情報処理に追われていた。


「亜美からキスしてきたけど、変な期待はするなって何だ……その気も無いのに自分のファーストキスを俺に捧げたのかあいつは」


 それに……。


「俺とは最初で最後のキスになる? これから先、俺とキスするような事はもう無いって事か?」


 それって、俺はフラれたってことになるのか?

 女心わけわからん……。


 今度、奈々美にでも相談してみるか……。

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