第4話 これはデート?2
☆夕也視点☆
──ファミレスで昼食中──
ファミレスで昼を食べながら希望ちゃんと会話していると、俺の誕生日の話になった。
「19日だよね? 何か欲しい物とかあるの?」
「今のところはこれと言ってないなぁ」
「んー……そっか」
いざ、何か欲しい物は無いかと訊かれると困るな。
「じゃあ、亜美ちゃんと話し合って、何かプレゼントするね」
「おう、それでいいよ」
2人に任せておけば大丈夫だろう。
使い道のわからない変な物は買ってこないはずだ。
誕生日の話ついでに希望ちゃんにも何か欲しい物は無いか訊いてみた。
すると希望ちゃんは首を横に振り、大きく溜め息吐いた。
「ダメだよ夕也くん、ダメダメ」
「何が?!」
「女の子に直接、『何プレゼントして欲しい?』みたいな事を訊くのはナンセンスだよ」
「さっき俺には訊いたのに?!」
「それは別にいいんだよ」
何か理不尽だ!
「女の子はね、何も言わなくも普段からの会話とか態度から察してくれる男の子に、ときめくものなんだよ」
「難易度高くね?」
「夕也くんなら、私が一番欲しい物を察してプレゼントしてくれるって信じてるよ」
グッと親指を立てて突き出してくる。
やべぇ、ハードル上げちまった、どうすんだ7月の希望ちゃんの誕生日。
「まあでも、夕也くんから貰える物ならどんな物でも嬉しいよ」
と、優しい希望ちゃんがハードルを下げてくれた。
最近は希望ちゃん、前向きで明るくなったな。
怖がりで気弱なところはまだまだあるけど、奥手だったのはかなりマシになった。
2人で出かけようなんて誘い、ちょっと前の希望ちゃんからは考えられないからな。
その後も、のんびりと話しながら昼飯を食べ終えた。
希望ちゃんはしっかりとデザートのチョコパフェまで注文して幸せそうな顔をして食べていた。
──映画館──
ファミレスを出た俺達は、予定通り映画を見るために映画館へやって来た。
どうやら希望ちゃんが観たい映画はガチガチの恋愛物らしい。
俺達はチケットを買って隣同士の席を確保。
時計を見ると、上映開始までまだ20分程ある。
ふむ……20分あればいけるか?
「希望ちゃん、上映開始までまだ時間あるし、ちょっと外出るわ」
「え? 何処か行くの? 私もついてく」
「あ、いや。 座って待ってていいよ、すぐに戻ってくるし」
「あー、おトイレだ?」
いや、まぁ全然違うんだけど、この際それでいいか。
「そういうことだから待っててくれ」
「わかったよ、いってらっしゃい」
笑顔で手を振りながら座席に座る希望ちゃんを見届けてから、一度映画館を出た。
「さて、俺は俺の目的をだな果すとするか……」
映画が始まるまでには戻ってこなければいけない。
猛ダッシュで目的地へ向かった。
☆希望視点☆
夕也くんと一旦別れた私は、言われた通りに席に着いた。
夕也くん、何か隠してるなぁ。
トイレって事にしてたけど、あれはトイレに行く感じじゃないよね……。
はぅぅっ?! もしかして私と恋愛映画観るのが嫌になって1人で帰ったんじゃ?!
「まま、まさかね……?」
時計を見ると上映開始まで15分──。
「だ、大丈夫。 夕也くんはそんな薄情な男の子じゃないし……」
信じて待つ事にしよう。
刻々と時間が過ぎていく……。
落ち着かない……。
時計を何度も確認してしまう。
あれからもう10分が経った。
上映開始まであと5分──。
「どうしよう、本当に私を放って帰ったんじゃ……」
不安になってくると良くない方にばかり考えが向いてしまう。
残り3分──。
私はいてもたってもいられなくなり席を立つ。
そのまま劇場の出入り口へ向かって歩く。
扉を開けて劇場を出ようとして取っ手を掴んだ時、勢いよく扉が開いて私はバランスを崩した。
「わっ?!」
「おっと?!」
向こう側から扉を開けた人の体に倒れ込んでしまった。
「あ、あのすいません!」
咄嗟にその人から離れて頭を下げて謝る。
「ん? 希望ちゃん?」
「……え?」
顔を上げると目の前には夕也くんがいた。
急いで戻ってきたのか、汗をかいているようだ。
「え、ちょ、何で泣いてるんだ?」
私は無言で夕也くんに抱き付いた。
「ぐすっ……すっぽかされたのかと思った」
「あー……そうか。 ごめんな?」
「ううん……私の方こそ、信用できなくてごめんなさい」
ポケットからハンカチを取り出して涙を拭きながら謝る。
「そろそろ上映始まるだろ? 席に座ろう?」
「うんっ……」
うぅっ、恥ずかしい……こんなことで泣いちゃって。
席に座ると夕也くんが、また何度も私に謝っていた。
「ちゃんと戻って来てくれたし……もういいよ、ぐすっ」
夕也くんは、わたしの頭をぽんぽんっと軽く叩いてから最後にもう一度だけ「ごめんな」と謝った。
☆夕也視点☆
まさか、そんな不安にさせることになるとは思わなかったな。
悪い事した。
と、反省していると部屋が暗くなって上映が始まった。
映画の内容は小さい頃に離れ離れになった仲良しの男女が、大学生になり再開して恋に落ちると言った良くありがちな純愛物だ。
希望ちゃんは真剣に見入っている。
うおっ、いきなりベットシーンが始まった!
これは気まずい。
チラッと希望ちゃんを見てみる。
「じーっ」
めっちゃ真剣に見てる!
ちょっと顔が赤いけど、決して視線を外さない。
希望ちゃん、こういうのに興味あるんだろうか。
希望ちゃんは俺の視線に気付いたのか、こちらに顔を向ける。
そして即座に俯いてしまった。
あ、やっぱり気まずいんだな。
映画を観終えた俺達は休憩スペースで映画の感想を話していた。
「ハッピーエンドで良かったよぉ……」
なんか感動して涙を流してらっしゃる。
良かったっちゃ良かったけどそこまでか?
「えっちなシーンがあるのは聞いてたけど、あそこまで濃厚なものだとは思わなかったよ……」
「そのシーン、めっちゃ見入ってたよな?」
「そんなことないよ?!」
「いやいや、じーっと見てたじゃん」
「はぅー、別にいいじゃない……」
「ま、まあな」
しばし沈黙が続く。
「さて、どうしようか」
「どうしようって?」
「まだ14時半だぞ。 まだ遊べるぞ?」
「そうだねぇ。 というか夕也くん、そんなに私とデートしたいの?」
いたずらっぽく小首を傾げて聞いてくる。
「まあ、せっかくだからな」
「え? 本当にデートだと思ってるんだ?」
「男女が一緒に映画観たりするのはデートみたいなもんだろ?」
「そっかそっか、えへへ」
なんか希望ちゃんの機嫌が凄く良くなったような気がする。
「じゃあ、次はゲームセンターでも行こっ。 一緒にプリクラ撮りたい!」
「ゲーセンかぁ。 そうすっか」
俺達は近くにあるゲームセンターへ移動することにした。
「ねね、プリクラ撮ろっ」
「はいはい」
ゲーセンに着いてからも希望ちゃんは上機嫌だ。
あちこちのプリクラ機を梯子させられて少し疲れたが、希望ちゃんが楽しそうなのでまあ良しとしよう。
ゲーセンで一通り遊んだ後はその辺の喫茶店で休憩。
時間は16時半になっていた。
「ゆっくり帰れば、いい時間になりそうだな」
「うん。 帰ったら亜美ちゃん夕飯の準備してるかな?」
「夕飯までに帰るってことは言ってあるのか?」
「うん、ちゃんと伝えてあるよ」
「んじゃ、用意してくれてるかもな」
喫茶店を出て、2人で並んで駅までの道を歩いていく。
「あ、あの……」
「ん?」
「……ううん、何でもない」
「そうか?」
「うん」
家に着く頃には17時を少し過ぎていた。
──今井家──
「ただいま」
「あ、2人ともおかえり」
「亜美ちゃん、夕飯の準備手伝うよ」
「あ、大丈夫だよ。 ゆっくりしてて」
「で、でも」
「いいからいいから」
無理矢理リビングへ連行されていく希望ちゃん。
「あ、それ新しい服? 夕ちゃんに買ってもらったの?」
「え? あ、うん。 そ、そうなの」
「へぇ、着てみせて!」
「え?! あー……これは次のデートに行く時に着ようかと」
「ええ?! もう次のデートの約束したの?! 順調だね!」
なんか話が変な方向に行ってるけど大丈夫か? 上手くバレずに切り抜けられるか希望ちゃん。
「あー、うん。 あはは」
「そかそか。 そういうことなら仕方ないね。 今度着た時に見せてね」
「う、うん」
ちょっと危なっかしかったが、なんとか亜美へのプレゼントだということは隠し通せたらしい。
希望ちゃんもホッとした表情している。
「あ、夕飯は麻婆豆腐だよ。 下ごしらえは終わってるから時間言ってくれたらさっと作っちゃうね」
「おー、サンキュー」
夕飯の時間にはまだ早いな。
3人でTVを見ながら談笑しているうちに時間もいい感じになってきたので
亜美が夕飯の調理を始めた。
「あ、そうそう。 今日の夕飯、私は家に帰って食べるから」
「え? どうして?」
いつもは3人で食べているのに、今日に限って何故か家に戻って食べるという亜美に希望ちゃんが不思議そうに問いかける。
「父さんと母さん、いつも2人だけだと寂しいかと思って」
「まあ、そうだけど……」
「それにせっかく初デート上手く行ったんだし、もうちょっと2人でイチャつきたいでしょ?」
また亜美は意地悪な顔をしてる。 希望ちゃんをイジるの本当に好きだよなぁ。
チラチラと希望ちゃんが視線を俺に向けて助けを求めてきているようだ。
「まあ、いいんじゃないか?」
「はぅ……わかった」
麻婆豆腐を作り終えた亜美は「後はお若い2人に~」とか言う決まり文句を残して先に家に戻っていった。
「はぁ」
大きく溜め息を吐く希望ちゃん。
「いつも亜美にやられっ放しだな」
「ほんとそれだよ……はむ、美味しい」
確かに今日の麻婆豆腐も美味い。
料理まで完璧とかどうなってるんだあいつ。
「亜美ちゃんには困ったものだよ……」
「最近、特に顕著だよなー希望ちゃんイジり」
「うん。 あ、いや、それもあるんだけどもっと別の事で」
「別の事?」
はて?
「うん……」
希望ちゃんは深刻そうな表情で頷いたあと、少し考えてから話し出した。
「私が両親を事故で亡くして清水家に養子として来た辺りぐらいからかな? それまではそんな事なかったのに、急に私に何でも譲ってくれたり、何事も私を優先で考えるようになったのは」
「あー、確かにそんな節あるな」
そういえば昔は、希望ちゃんと物を取り合ったりして喧嘩してたこともあったな。
今でこそそんなことも無くなったけど、もしかしたらそういう背景があるのかもしれない。
「私としてはありがたいと思ってるし、素直に嬉しいよ?」
「だけど……」と、話を続ける希望ちゃん。
「亜美ちゃん自身の心を抑えつけてまで、私の事を優先しようとはしてほしくないかな」
「それを亜美に伝えたことは?」
「ううん。 喧嘩になりそうだし」
「そっか」
血の繋がっていない義理の姉妹ではあるが、お互いの姉妹愛が重すぎるんだな、2人は。
「亜美ちゃんが限界になるまでには何とか話し合いたいなぁとは思ってるんだけどね」
「ん? 亜美の限界?」
「うん。 多分そのうちわかるよ」
むう……そのうちか。
食べ終えて2人で皿を洗い終えると希望ちゃんも家に戻る支度を始める。
俺は玄関まで付いていき、靴を履こうとする希望ちゃんを呼び止める。
「希望ちゃん、ちょっと待って」
「ん?」
俺はポケットに隠し持っていた箱を取り出す。
「これ、日頃の感謝の気持ちにと思って希望ちゃんに買ったんだ」
「え?」
希望ちゃんにその箱を手渡す。
「……あっ、映画館から出て行った時?」
「そういうわけだ」
「そっかぁ、なるほどね。 開けてもいい?」
「いいよ」
希望ちゃんは丁寧に包装紙を剥がして中を開ける。
「うわ、ネックレス? これ高かったんじゃ?」
「まあ、それなりには……」
ハートの装飾が付いた可愛いネックレスだ。
希望ちゃんにはこれが似合うと思った。
「洋服屋さんで財布の中身がちらっと見えたんだけど、やけに一杯入れてるなと思ったらこういうことだったんだね?」
「ま、まあ……」
希望ちゃんは俯いてふるふると震えている。
「……う」
「ん?」
「ありがとう……」
「言ったろ? 日頃の感謝の気持ちだって。 礼を言うのは……」
「んちゅっ……」
不意に頬に柔らかいものが触れた。
え? ほっぺチュー?!
「……これ、大事にするね」
「あ、ああ……」
「日頃の感謝の気持ちってことは、つまりそういうことでしょ?」
あー……バレたか。
希望ちゃんにしてはなかなか鋭い。
「迷ったんだけどペアルックにさせてもらったよ。 多分、似合うだろ」
「そうだね。 似合うと思うよ、亜美ちゃんにも。 それは誕生日に渡すの?」
「そのつもりだけど」
「そっかそっか。 きっと喜ぶと思うよ。 もしかしたら頬じゃなくて唇にキスされるんじゃない?」
それはまあ、ないだろうな。
あいつ、他人の色恋をイジったりするのは好きだが、自分のそう言うことは一切興味を示さない。
「今日は色々ありがと。 楽しかった」
「ああ、俺もだよ」
「また、2人でデートしようね」
「お、おう」
「それじゃ、またね」
希望ちゃんは手を振って出て行った。
まあ、たまには悪くないだろ……。
キスされた頬を撫でながらそう思った。
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