第3話 これはデート?1
☆夕也視点☆
──今井家ダイニング──
今の時間は18時。
台所では亜美が鼻歌を歌いながら肉じゃがを作ってくれている。
希望ちゃんはというと掃除洗濯などをテキパキとこなして今は向かいのソファーで休憩中である。
「ねぇ、夕也くん」
「?」
向かいに座った希望ちゃんから話しかけられたのでそちらに顔を向けた。
「明日か明後日空いてる?」
明日明後日は土日で休みだが特に予定は入っていない。
いやー悲しいなぁ……。
「んとね」
ササッと俺の隣に移動してくる希望ちゃん。
おおぅ……近くで見るとやっぱり可愛らしい顔してるな。
シャンプーの良い匂いも漂ってくる。
普通の男なら一発で惚れちまうなこれは。
「来週の水曜日、亜美ちゃんの誕生日でしょ?」
少しばかり小声になる希望ちゃん。
亜美に聞かれないようにしているのだろう、俺もそれに倣って小声で返答する。
そう来週の水曜日4月10日は亜美の誕生日なのだ。
ちなみに俺は4月19日、希望ちゃんは7月27日だ。
さらについでに奈々美は9月5日 宏太は2月6日。
昔はよく俺と亜美の誕生日が近いおかげで、今井家清水家合同で誕生日会を開いていたもんだ
「そうだな」
「だから、私達2人でなんか買ってプレゼントしようと思うんだけど……」
ああ……それでこの週末にプレゼント買いに行こうってことか。
「何か買いに行くんだな?」
「うん」
「いいよ、明日にしようか」
「うん」
嬉しそうに頷く希望ちゃん。
「あれ、何々2人でくっついて座っちゃってー」
調理が一段落したのかリビングへやってきた亜美がニヤ付きながらこちらを見ている。
まったくこいつは……。
「亜美ちゃん、明日は朝から私と夕也くん2人でお出かけするから」
「えっ、デート?」
「えぇっ?!」
おいおい、なんで誘ってきた希望ちゃんまで驚いてるんだよ。
「うんうん、わかったよ。 ゆっくり楽しんできて」
ニコニコしながら希望ちゃんの背中をポンポンと叩きながら「頑張れ希望ちゃん」とか言っている。
そう言えば、希望ちゃんと二人きりで出かけたことってなかったような気がするな。
いつも亜美が一緒にいるかいつもの5人で行動してるからな。
「う、うん……」
希望ちゃんは少し俯きながら頷いている。
耳まで赤くして可愛い子だな。
「さて、そろそろ肉じゃがもいい感じかなー」
「お、そうか。 じゃあダイニング行くか」
「そ、そうだね」
食卓に並んだ肉じゃがを前に手を合わせていただくとする。
「んむんむ……相変わらず美味いな亜美の肉じゃが」
「えへへ」
「母さんの肉じゃがと微妙に味が違う気がする。 何かアレンジしてる?」
「あー、それは俺も思った。 何かおばさんのと違うよな」
「うーん……ちょっと隠し味があるにはあるけど」
「え、何々? 教えてよー」
「だーめ! これは私のオリジナルなのー!」
「けちー」
こんな風に2人がご飯を作りに来て、一緒に食卓を囲んでくれるおかげで、寂しい思いをしなくて済んでいる。
これについては本当に感謝している。
2人は、夕飯を食べ終えて少し談笑した後に自分の家に帰って行った。
「やっぱ2人が帰ると静かになるな」
と、寂しがっても仕方ないので風呂に入って寝ることにする。
☆亜美視点☆
──入浴中──
「はぁー……」
私はお風呂に浸かりながら夕ちゃんの家での事を思い出す。
「希望ちゃんと夕ちゃんがデートかぁ」
正直言ってちょっと驚いた。
あの奥手の希望ちゃんが、夕ちゃんをデートに誘うなんて。
「高校生になって希望ちゃんも、一皮剥けたってことかなぁ」
明日のデートの善し悪しで、もしかしたら希望ちゃんと夕ちゃんはくっつくかもしれない。
「そうなったら、私は今までみたいに2人と一緒に居ない方がいいのかな?」
それはなんかちょっと寂しいなと思う。
2人の事だから、そんなこと気にせずに2人の輪の中に入れてくれそうだけど、もし邪魔になっちゃったらそれはそれで嫌だよね。
「夕ちゃんは希望ちゃんの事どう思ってるんだろ? 少なからず好意を持ってはいると思うけど……でも、夕ちゃんは多分、私の事を好きで……ああっ、もう! 私の事はどうでもいいんだってば! 私の事は二の次! 希望ちゃんの幸せ優先でしょ!」
もう何度も繰り返してきた自分を気持ちを抑えつけるための魔法の言葉。
お湯を頭から被って頭の中を切り替える。
希望ちゃん頑張れ! 応援するからね!
翌朝、ちょっぴりオシャレをした希望ちゃんをドアの前まで見送った。
「頑張れ!」と背中を押してあげると「あはは……」と微妙な笑みを浮かべていた? どうして?
☆希望視点☆
んー、亜美ちゃん完全にデートだと思ってるみたい。
まあ、亜美ちゃんの誕生日プレゼント買いに行くとは言えないし仕方ないよね。
私はスマホを取り出して発信履歴から夕也くんの番号にかける。
3コールくらい鳴ったところ電話が繋がった。
「あ、もしもし夕也くん? 今家出たよ」
『ん、了解。 すぐ出るからちょっと待っててくれ』
それだけ話して電話を切る。
30秒ほどで夕也くんが出てきた。
「早っ?!」
「お待たせ。 じゃあ行きますか」
「う、うん」
2人で並んで通い慣れた駅までの道を歩き始める。
「何か亜美が欲しがってる物とかに心当たりある?」
「ふふふ、それは任せてよ!」
この間、亜美ちゃんと奈々美ちゃんの3人でお買い物行った時に、欲しいって言ってたワンピースがあるんだよね。
あの時は亜美ちゃん、財布の中に手持ちがあまりなくて諦めてた。
その後、買ったって話は聞いてないから大丈夫なはずだ。
「そっかじゃあ任せよう。 割り勘だよな?」
「うん、ちょっと値が張るよ? だいじょぶ?」
「昼とか食べるし、多めには入れてきた」
「そかそか」
目的の物は最寄駅から三駅離れた場所にある女性向けの洋服店にある。
まだ置いてあればいいけど……。
「しかし、こうやって2人だけで出かけるのって初めてじゃないか?」
「あーそうかもしれない」
んーと、確かにどこに行くにも亜美ちゃん達がいたような。
改めて考えるとこれは本当にデートみたいだ。
……意識すると緊張してきた!
無言で歩き続けて駅までやってきた。
はぅぅ、無言は気まずい……。
何か会話を!
「ででで、電車の時間は」
「ぷっ……」
「な、何?」
「何、緊張してるんだよ?」
「ベ、別に緊張なんか……亜美ちゃんの誕生日のプレゼント買いに行くだけだし」
「そうだな、デートじゃないからな」
「そ、そうだよ!」
「ははっ、別にデートでも良いけどな」
「へっ?」
「ほら、電車来たぞ」
「え、あ、うん」
今、夕也くん、デートでも良いって言った?
うーん、きっと深い意味は無いよね……
うん。 夕也くん、そういうとこあるし。
やってきた電車に乗り込み空いた席に座る。
「それで、亜美へのプレゼントって何を買うんだ?」
「ワンピースだよ。 亜美ちゃんがこの前欲しがってたのがあってそれを」
「そっか。 それなら大丈夫か……」
ん? 何が大丈夫なんだろ? お金の心配かな?
「それで、目的の物買って昼飯食べた後はどうする?」
「え? 帰るけど」
特に何も考えてなかった。
亜美ちゃんへのプレゼント買って、お昼食べて帰るぐらいの予定のつもりだったんだけど……。
「あのなぁ、せっかく休日に電車乗って出てきてるのに、それだけじゃもったいないだろ」
「そ、そうだけど……」
「何処か行きたいとことかないのか?」
「んー……じゃあ観たい映画があるんだけど付き合ってくれる?」
丁度、先日公開されたばかりの恋愛映画がある。
暇な時に亜美ちゃん誘って行こうと思ってたけど、せっかくだから今日観ちゃおう。
あれ? それってもうただのデートなのでは?
「映画だな? OKOK」
「あ、ありがと」
電車に揺られて約10分で目的の駅に着いた。
お店はここから歩いて5分ほどの場所にある。
夕也くんと他愛ない会話をしながら歩いて、店の前に来た。
お店の雰囲気を見て入りづらそうにしている。
女性向けのお店だからしょうがないと言えばしょうがないのだけど。 嫌がる夕也くんを無理矢理引っ張って入店。 店員のお姉さんが微笑ましそうにこっちを見ていた。
私達って恋人同士に見えるのかな? だったらちょっと嬉しい。
「これこれ。 よかったーまだあって」
目当てのワンピースを手に取って確認する。
亜美ちゃんに良く似合いそうな白を基調としたワンピース。
「それか。 亜美に似合いそうだな」
「だよねー。 白が良く似合うんだよね亜美ちゃん」
これを着た亜美ちゃんの姿をイメージしてみる。
うわー可愛い。 清楚なお嬢様みたいだ。
セットで白い帽子とか被せるともっといい感じなりそう。
「お決まりですか?」
「え? あ、はい」
後ろから店員に話しかけられたので一瞬びっくりした。
「とてもよくお似合いになると思いますよ」
「あ、いえ・・・これは」
「彼氏さんからのプレゼントですか?」
「ふぇっ?! か、かかか……」
不意打ちでそんなことを言われて少し慌ててしまった。
やっぱり私達、恋人同士に見えるんだ・・・。
「えへへー」
「おーい希望ちゃーん、帰ってこーい」
「はぅっ!」
嬉しすぎて一瞬意識がどっか行っちゃってた。
「よろしければご試着などされてみては?」
「あ、いえ、これに決めてますのでこのまま会計お願いします……」
「ありがとうございます、ではこちらへ」
店員さんの後へついていき会計へ。
「希望ちゃん、とりあえずここは俺が全額出しとくよ」
後ろから小声で夕也くんがそんなことを言う。
「でも割り勘って」
「店を出てから半分返してくれればいいよ」
「?」
どうしてそんな面倒なことをするんだろう? と、思ったけどすぐに夕也くんが答えを教えてくれた。
「ここは俺にカッコつけさせてくれ」
「カッコつけるって?」
「あの店員さんの前でぐらい彼氏になってやるってこと」
「──っ!?」
頭がパニックを起こしかけているのがわかった。
顔が熱いよぉ、絶対真っ赤になってるやつだよこれ。 夕也くんこういうとこあるから困るんだよね。
本人自覚無さそうだけど、とんでもない女たらしだよ。
「わ、わかった……後で返すね」
「あぁ」
さっと私の前に立った夕也くんは会計を済ませて洋服を受け取り、私に袋を手渡してくれた。
チラッと見えたサイフの中身に結構な金額が入っていたように見えたけど、そんなに使うと思ってたのかな?
店を出て少し離れたところでちゃんと半分の金額を返した。
「その……」
「ん?」
「カッコよかった……」
「そっか。 ならよかった」
ああ、また好きになっちゃうなぁこれは。
話題を変えるためにスマホを取りだし時計を見る。 時刻は11時を過ぎたところだった。
「ちょっと早いけどお昼にする?」
「ん? そうだな。 どこかファミレスでも入るか」
「うん」
私達は近場にあるファミレスに入ってお昼を食べることにした。
目的の買い物は済ませたし、ここからはフリータイム。
夕也くんは、今日のこれをデートだと思ったりしてるのかな? 少し気になる。
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