青は藍より出でて藍よりゴミゴミ

小高まあな

青は藍より出でて藍よりゴミゴミ

「はっはっは! 地球をゴミだらけにしてやる!」

 ゴミの力が集まって生まれた怪物集団ゴミダラケー。その戦闘員アキカンダーは空き缶を、道行く人々や建物にぶつけていく。

「待て!」

 それを制止する声。アキカンダーが振り向いた先には、赤・青・黄。それぞれの色の全身スーツと仮面を身にまとい、ポーズを決める三人組。

「ゴミはゴミ箱に! リサイクル戦隊トラッシャー!」

「でたな、トラッシャー! 今日こそ貴様らをごみ捨て場におくってやる!」

 アキカンダーはそう告げ、手下のヘドロンたちを呼び出した。トラッシャー対ゴミダラケーたち。それは、何度も繰り返されてきた光景だ。様々な攻防が繰り広げられた結果、

「覚えておけ!」

 捨て台詞を残し、アキカンダーとヘドロンたちは姿を消した。

 レッドは周囲の人々に「もう大丈夫ですよ」と声をかけた。


 山中にある不法投棄の聖地がゴミダラケーの基地だ。

 大きなイスに腰掛けたボス・リ=デュースは、跪くアキカンダーに声をかけた。

「椅子に座れ。パワハラみたいじゃないか」

「ですが」

「いいから、報告をしろ」

 アキカンダーは椅子に座ると今日の作戦について報告を始めた。

「今回の敗因は?」

「トラッシャーを呼んでしまったことです。正直、私の実力では、トラッシャーに勝つ事は出来ない。現れる前に片をつけるか、気づかれないように進めるべきでした」

「そうだな、お前は自分のことがしっかりわかっている。冷静になったらきちんと反省できる。ただ、いざ現場にでると頭に血が上り、感情で行動してしまう。それが、弱点だ」

 立ち上がり、アキカンダーの肩を励ますように、軽く叩いた。

「反省できるのなら大丈夫だ。今日はもう帰ってゆっくり休め。次に期待しているぞ」

 柔らかい声に、アキカンダーは思わず涙ぐむ。

「勿体無いお言葉、ありがとうございます」

 アキカンダーが部屋から出て行くと、隅で待機していた秘書を呼んだ。

「今回、怪我をしたヘドロンは?」

「治療中です。労災についても手続き中です」

「さすがだな。ありがとう」

「また、サンパーイへの出産祝い、手配しておきました」

「ありがとう。君もあがっていいぞ。残業させて悪かったな」

 秘書は一礼すると部屋を出た。部下を気遣い、叱るときはきちんと叱る。そんなリ=デュースは部下たちからのあつい信頼を寄せられていた。


 一方、

「なんで逃げられてんだよ、このクズッ!!」

 ゴミ処理場の地下にあるトラッシャーの基地。総司令であるリ=ユースが、三人を正座させた上で、怒鳴り散らしていた。

「お前らも、ゴミダラケーも、ゴミの力を使っている点では同類だ。だがお前らには、力を増幅させる機能のあるスーツがある! なんで、負けんだよ!!」

「それは、向こうの方が数が多く」

「言い訳してんじゃねーよ、クズが!

 足元にあったゴミ箱を蹴ると、レッドの頭に当たった。レッドは短く呻いた。

「同じ力を使い、華麗に勝つ! それがヒーローってもんだろうが!」

 リ=ユースの話は、三時間も続いた。散々怒鳴って疲れたのか、やや肩で息をしながら、

「今日の失敗の分は、給料から引いとくからな。始末書を書いてから帰れよ」

 最後にもう一度、クズが! と吐き捨ててから出て行った。

 その足音が消えてから、

「もう、いやだよ」

 イエローが小さく呟き、体を丸め、泣き出す。

「もう少し頑張ろう。ゴミダラケーを倒すために」

「もう少しってどれぐらいだよ」

 レッドの言葉に、ブルーが冷たく言う。

「ピンクもグリーンもいなくなったのに人員が補充されない。五人で勝てなかったものが、三人で勝てるわけがない」

 淡々と事実を指摘するブルーの言葉。レッドは何かをいいかけ、結局何も言えなかった。

「僕も、辞めたい」

 泣き声の合間に、イエローが呟く。

「グリーンみたいに大怪我する前に、ピンクみたいに辞めて転職したい。今、ゴミダラケーのところで、秘書やってるんだって。ちゃんと給料でるし、労災もおりるし、定時で帰れるし、有休もとれるって。僕も、あっちに行きたいよぉぉぉ」

 号泣。レッドはただ、その背中をなでることしかできなかった。

 ピンクが夜逃げするように辞めてから、自分たちの体内には自爆装置が埋め込まれている。辞めようとした瞬間、死ぬことになるだろう。

 ブルーがしびれた足をかばいながら、ぼやく。

「リ=デュースは総司令の弟なんだろ? 結局俺らは壮大な兄弟喧嘩に巻き込まれてるだけじゃねーか」

 それからイエローの頭を撫でると

「泣いてても帰れないんだから、さっさと始末書かこうぜ」

 イエローの頭を撫でる。

「うん」

「帰りに飯おごるよ」

 そうして三人は、やたらと細かいフォーマットの始末書を埋める作業に取り掛かる。結局帰れたのは、終電ギリギリだった。

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青は藍より出でて藍よりゴミゴミ 小高まあな @kmaana

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