翠川蘭子ファンブログ

小高まあな

翠川蘭子ファンブログ

 翠川蘭子は、あとがきが長いことで有名な作家だった。

 文庫本で平気で五ページぐらいはあとがきだったりする。しかも、内容が本編とは関係ない、本人の近状報告なのだ。そして、それがやたらに面白い。作品は幻想的なファンタジーなのだが、そこからは連想できない笑えるあとがきだった。

 ブログでもやれ、と言った声もあったが、あとがきを楽しみにしているファンも一定数いて、翠川蘭子のあとがきは継続されていた。本編は読んだことがないが、あとがきだけ読むという「アトラー」も数多くいた。

 あとがきは紙の本にしかついていなかったので、電子書籍ではなく紙の本がばかすか売れることで有名だった。

 そう、翠川蘭子の本は売れていた。

 翠川蘭子は速筆で、三ヶ月に一作が出版された。そのどれもが面白くて、人気だった。

 なのに、ある日翠川蘭子は死んだ。

 自宅のマンションから飛び降りた。

 ただ一言、「最初の言葉」と書かれたメモが意味ありげに机の上に残されていたという。だが、それが遺書なのか、何かのメッセージなのか、ただのメモなのか、誰にもわからなかった。

 皮肉にも翠川蘭子の最後の本は売れた。これまでで一番、売れたのだ。


 さて、「最初の言葉」とは何なのか。

 それを探るために、翠川蘭子の本を眺めていた私はあることに気づいた。

 あとがきの最初の文字を刊行順番につなげると、ある言葉になるのだ。

「世の中で一番無駄なものは何でしょうか」

「界面活性剤とは何なのか、実は未だにわかりません」

「のんびりと過ごすのも疲れるものです」

「終了式だったのでしょうか、大荷物を持った小学生が家の前を通っていきました」

「わりばしを割るのを失敗しました」

「リンスとコンディショナーって、何が違うんですかね」

「をを頑なに、おと表記する知り合いがいました」

「警察の職務質問に初めてあいました」

「告解というものに憧れて、意味もなく教会にいきました」

「すずらんの花は妖精のコップだそうです」

「るという音は、しりとりで厄介です」

「私法と公法について、この作品を書くにあたって調べました」

「ガンジーは断食をしたそうです」

「死んだ蝉がベランダで大暴れしました。そう、生きていたのです」

「ンガルンガバンガという言葉を知っていますか? 私が夢の中で聞いた言葉で、意味は子育てだそうです」

「だんご虫って、何歳のときから触れなくなるんですかね?」

「五等分にケーキをするのが苦手です」

「年貢の納め時かと思います」

「後藤さんという知り合いがいるのですが、彼が最近骨折しました」

「にわとりの鳴き声が最近するので何かと思ったら、近所の人が飼いはじめたらしいです。この住宅街で」

「この前話したにわとり達のたまごをもらいました。たまごかけご飯にしようと思います」

「ノストラダムスの大予言って、本当に外れたんですかね?」

「世界地図を壁にはりました。行ったところに印をつけようと思ったのです。なお、まだ日本だけです」

「はりきってパソコンを立ち上げたら、更新プログラムを大量にインストールしはじめました」

「終末の予定を友人から聞かれました。週末では?」

「わなげって、そういえばしたことがありません」

「ルーペ、ルート、ルクセンブルク……。しりとりで使える“る”の言葉、たくさん教えてくれてありがとう」

 これらをつなげると「世界の終わりを警告する 私が死んだ五年後にこの世は終わる」になるのだ。

 もちろん、偶然の可能性もある。だが、覚えておきたいとは思う。

 これが本当か否かはさておいて、狙ってやったとしたのならば、翠川蘭子のあとがきは最高傑作と言わざるを得ない。私はそう思うのだ。

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