第11話 ランクアップ

グレイハウンドの剥ぎ取り処理を終えて、俺達は野営の準備に入った。

というのも、長期戦になる覚悟で準備してきたが、初日で終えてしまったのでこのままでは荷物になると思い、この判断とした。要は、荷物を減らすのが目的だ。


また、折角ここまで来たので半分は楽しみとして、なのだが・・・。

三人は分担して野営の準備を進める。俺は簡易テントを張るので地面を整地したり、テントを固定する杭を打ったりと力仕事がメインだ。


エメルダは、夕食の準備をしている。彼女は、前のパーティで雑用をさせられていて、当然食事の準備もさせられていたいのだ。なので、ここは安心して任せられた。


リオノーラは、俺達が準備をしている間の警戒をしてくれている。

彼女なら、ここら辺りに出るモンスターなら苦も無く倒してくれるだろう。

幸いな事に準備が終わるまで、そういった類は出なかった。


「みなさ~ん、食事の準備が出来ましたよ」


「おー!、出来たのか~。良い匂いがしてるじゃん~」


「うん、確かに食欲をそそる匂いだな」


俺達は焚火の周りに集まり、各々好きなものを皿に盛り、食事を始めた。

エメルダが作ってくれたのは、買ってきたライ麦パンを厚めに切って焼き、そして干し肉を少し厚めに切って、これまた時間をかけて作った野菜スープと一緒に煮込んだものだ。


簡単だが、やはり温かい食事というのは体も心も温めてくれる。

俺達はにこやかに食事を終えて、就寝に入る。といっても、見張りはどうしても必要になるので皆で相談した結果、俺が最初の見張り役になった。


見張りは各々、2時間づつ交代で行う。

俺は二人がテントに入ったのを確認して、火を絶やさずに周りを警戒する。


正直、俺は寝ろと言われても寝れなかったかもしれない。

自分でも分かるほど、興奮状態だったのだろう。このパーティで、多数の敵を倒したという達成感、三人の連携プレー、そしてこうやって皆で和やかに食事をとる。


それは、今まで無かった事だし絶対に出来なかった事なのだ。

それが今日、纏めてやってきたのだから、興奮で寝られないのは無理ない事だろう。


そこで俺はテントに目を向けた。

彼女たちは、ちゃんと寝れているのだろうか? 俺のように目が覚めているんじゃないか・・・


いかんいかん、ちゃんと周りを警戒しなければ・・・

改めて、俺は気を引き締め、目の前で燃えている薪に目を落とした。


         ◇


翌朝、あの後2時間後にエメルダに交代してが、やはり疲れていたのか簡単に寝れてしまった。

4時間後に再度起こされて見張りをした後は、そのまま次のエメルダと話をしながら最後まで起きていたのだったが、思ったほど眠くない。


そして、俺達は帰途に就くために片付けを始めた。

火の始末だけはしっかりと行い、ゴミ等も片付ける。ゴミを目当てに新しい獣やモンスターが来る可能性もあるからだ。


「じゃあ、街に戻ろう!」


その掛け声を機に、俺達は意気揚々と歩き出した。


         ◇


街に戻ってきた三人は、早速ギルドに報告に向かった。

相変わらずの喧騒・・・では無かった。なんだ?、いつもと雰囲気が違う・・・。


いつもこの時間には割合多くの冒険者たちがいるはずだが、今は閑散としている。

少し違和感を感じながらも、俺達は受付に向かった。


そこには、いつもシーナさんがいなかった。ま、いつもいる訳じゃないし構わないか、と少しあたふたしてる感じの受付嬢さんに声を掛けた。


「すみませ~ん、依頼達成の報告に来ましたー!」


「あ、はい!。では、依頼書を見せて下さい」


俺は、昨日剥ぎ取った依頼書を渡した。

彼女はそれを一通り確認すると、


「では、達成証明の部位を見せて下さい」


と言ったので、数があるため1つ2つ革袋から出して見せた。


「はい、間違いなくグレイハウンドですね。それでは、全部見せて下さい」


グレイハウンドの素材は、それなりに多かったので、隣の物品引き渡し場所にて全て渡した。

数えたら、16匹分あったのでかなり良い金額になるだろう。


暫く待っていると、さっきの受付嬢が来て報酬と何かを一緒に持ってきた。


「グレイハウンド16匹分ですね。討伐報酬と毛皮の買取金額合わせて、金貨3枚になります」


「え!?、そんなにですか?」


「はい、今この毛皮の需要が多くなっておりまして、いつもより少し買取金額が上がってるんです」


「そ、そうなんですね~・・・」


俺は初めて金貨というものに触れて、少し緊張してしまった。

もう、俺は叫びたいぐらい嬉しかった!。やっと冒険者としてやっていけると初めて感じたからだ。


「あの、それとアル様とエメルダ様のギルドカードですが、出して頂けますか?」


「ん?、俺達のカードですか?。はぁ・・・・どうぞ」


俺とエメルダは、揃って自分の白色のギルドカードを受付嬢に渡した。

それを預かるとそそくさと奥に引っ込み、暫くして出てきた受付嬢が手にした物を俺達に渡した。


「お待たせしました。はい、どうぞ~」


そう言われて渡されたギルドカードを見ると、手の上にギルドカードが乗せられていた。のギルドカート・・・そう、ランクEのカードだ。


「こ、これは・・・」


「おめでとうございます。アル様とエメルダ様は、ランクアップされました」


にっこりと微笑みながら、彼女はそう伝えた。

ま、マジか!?やった――――――――――――!。俺は、今度こそ心の中で叫びながら、小さくガッツポーズをした!。


「「あ、ありがとうございます!!!!」」


2年でやっと、ランクEになれた!。嬉しすぎる!。

エメルダを見ると、彼女も信じられない顔をしてギルドカードを見つめていた。


「あ、あたしがランクE・・?」


エメルダは、目からポロポロ涙を落とし、両手でカードを握りしめたまま口に当てて泣いている。

俺も嬉しくなって、彼女の猫耳を撫でて上げた。


彼女は前のパーティで、あまり良い待遇をされていなかったらしい。それでも、シーフとしてパーティの為に活動したりしていたのが、功を奏したのだろう。


俺も、今まで採取がメインの依頼だけだったが、それがギルドに貢献していた様で、今回の討伐依頼を達成したことで、ランクアップされたのかもしれない。


俺達は受付嬢さんにお礼をして、ギルドを出た。

そして宿屋の酒場で、改めてギルドカードを見せ合った。


その黄色いギルドカードは、確かに自分たちの名前が彫られていた。

顔がニヤけて仕方ない。もう、頬ずりしたい!!。今日はこれを手に持って寝る!絶対!!。


「おいおい、アル・・・なんだ、そのだらしない顔は」


リオノーラは苦笑気味に俺に言った。

そりゃ俺でも分かってる、今はきっとだらしない顔してるんだろう。でも、それを言うならエメルダだって似たようなもんだぞ?、とは突っ込まなかった。


「今日ぐらい、良いだろ~?」


「そうですよね~!、良いじゃないですか~」


リオノーラは呆れたように頬杖をついて、「はいはい~」とおざなりに返事した。

まだ、昼間なので酒は頼まなかったが、昼は少し豪勢にしようと高目のランチを注文した。


注文を取りに来た女将さんに昼食を頼んだ後、女将さんがこんなことを言った。


「あんた達、こんな所でのんびりしてて良いのかぃ!?」


「ん?、のんびりってうちら今、依頼から帰ってきたところだよ?」


「あら、じゃあ知らないのかい?。ここら辺の冒険者は、隣町のデボネア近くにあるダンジョンで魔物暴走スタンピードが起こりそうだってことで、稼ぎに行ったよ!」


「え――――!?、知らなかった!。ギルドでも何も言われなかったし・・・。それも、デボネアの近くでか・・・・・・」


「アル、どうした?。何か気になる事でもあるのか?」


「あ、いや、何でもない・・・」


デボネアの近くってのが少し気にかかる・・・。あいつ、大丈夫かな・・・


「そうか?。しかし、その話が本当ならアル、それは多分・・・うちらじゃ手に負えないと思われたんだろう・・・」


「・・・・・そうですよね~、うちらやっとランクEになれた様な下位の冒険者ですからねぇ~・・・」


「そうだな、俺達が行っても手伝うどころか、あっという間に殺れておしまいって感じだろうな」


俺達は、今までランクEのギルドカードを見て喜んでいたのが、恥ずかしくなってきた。気分まで落ち込んだけど、仕方ないよな・・・俺達は、まだ底辺の冒険者なのだ。せめて、中級冒険者ぐらいであれば・・・


そういや、リオノーラはランクCだから中級冒険者には入るのかもしれないが・・・

・・・あ、そういやリオノーラはダークエルフだったよな・・・忘れていた・・・


「なぁ、リオノーラってさ・・・魔法って使えるのか?」


「ああ、精霊魔法になるが中級までだが使えるぞ。私の得意な属性は、火と風だ。それ以外は適性がなかった」


「えええ―――!?、使えんの?。だって、今まで見せてくれなかったじゃん!」


「そんなの当たり前だろ?。魔法を使う場面がなかったからだ!」


「そ、そうだけどさ~・・・、言ってくれてもいいじゃんか~」


「それは・・・聞かれなかったからだ。それに、大して強い魔法でもないしな」


「そうか・・・、リオノーラは魔法が使えるのか。じゃあ、魔法剣士って奴か?」


「まあ、そうだな・・・。自分としては剣士をメインにしてるんだがな」


「うちらには魔法が使える仲間がいないって思ってたが、リオノーラが使えるなら心強いな!」


「っていうか、私がダークエルフと分かったら普通、魔法も使えると考えなかったのか?」


「いや、すっかり失念していたよ。それよりも、強い剣士が入ってくれたってので嬉しくてさ」


「まあ、これからは必要があれば使うかもな。その時は合図するから、気を付けてくれよ」


「分かった!。その時はお願いする!」


「これであたし達、もう少し強い相手とも戦えるかもしれませんねぇ~」


「そうだな。これからもリオノーラに訓練を付けてもらいながら、戦い方も色々研究してみよう」


「は―――い!」「了解した!」


俺達は、その日はもう依頼を受けずに酒場で、これからのパーティの方針などを熱く語りながら、お互いに部屋に戻った。


ちなみに、所持金が増えてきたのでエメルダは別部屋にして貰った。

エメルダの方が、えー?私は同じ部屋で買いまいませんよ?とか最後まで言っていたが、このままじゃ俺がヤバいんで強引に別部屋に移ってもらった。


俺は久しぶりに一人でベッドを独占し、これからのパーティの事を考えながら眠りに落ちていった。

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