第10話 熱い何か・・・

翌日から、俺とエメルダはリオノーラと模擬戦の様な訓練を始めた。

さすがにランクCの冒険者は、桁違いに強い。まるで、大人と子供だ。


初日は、何もさせてくれなかった・・・というか、一方的に叩きのめされた。

実際には大きなケガはなかったが、毎日擦り傷や打撲は当たりまえだ。


だが、ケガをしても治癒の魔法は使えないし、治癒のポーションを買っている余裕は無い。なので、いかにケガをしない様にするか、俺達は頭をフル回転させる日々だった。




そんな厳しい訓練を一週間、二週間と続けていくと、次第にケガをする事が少なくなってきた。

といっても、そんなに急に強くなるわけではないのが、もどかしい・・・。


ただ、訓練だけしていても金にならない。金にならないと、飯が食えないし宿代が払えない。なので、合間にギルドに行っては依頼をこなしていた。


ただ、採取物の割合が以前より少なくなり、今は討伐物の依頼が四割を占めている。これも、リオノーラが入ってくれたおかげだ。


「よし、今日はこれに行こう」


そう言って彼女が見せてくれたのは、『ランクE推奨 グレイハウンドの掃討』とある。グレイハウンドは大型犬なのだが、野生化して群れを成し村や人を襲うことがある。


一匹一匹は大して強くないが、群れると途端に厄介になる。この辺り、ゴブリンなどと同じだ。

油断すると大ケガをするので俺達は、装備や所持品を確認して早速街を出る。


街の門には、ダンさんがいた。もう一人はサージェスさんではなく、初めて見る人だ。


「ダンさん、これから依頼をしに行ってきます。今日は夜遅くか、泊りになるかもしれません」


「お、そうなのか?。今回の依頼は何だ?」


「グレイハウンドです。この町の近くに出没して、旅人や商人のキャラバンに被害が出てるそうなので」


「そうか、まあその姉ちゃんがいれば大丈夫だと思うが、くれぐれも気をつけろよ!」


「はい!、では急ぎますので・・・。行ってきます!」


「頑張れよ―――!」


背中に声援を受けて、三人は目的の場所に向かった。



           ◇



「依頼によると、この辺りだな・・・。エメルダ、何か感じるか?」


「・・・・・・・・・・・・・・ううん、今のところ何も感じない。近くに動物の気配も感じない」


「となると~・・・・・・、やっぱ長期戦かな?」


勿論、そういう可能性もあって簡単な野営の準備までしてきている。

グレイハウンドは縄張り内を巡回する習性がある。そして慎重でしかも鼻が良い為、縄張りに侵入者が来ると警戒しながら襲ってくる。


俺達は、またこの場所に戻ってくるまでここで見張るのだ。

ちなみに、グレイハウンドは魔物ではなく害獣なのだが、毛皮は買い取ってもらえる。

つまり、依頼達成の褒賞の他に毛皮分の収入も入る為、ランクが低い冒険者達には美味しい獲物なのだ。


「でも、ここらは獣臭いな。間違い無くここに縄張りがある」


「リオノーラがそういうなら、間違いない。それなら、ここに拠点を置いて周りを見て回るか」


「では、これから散開して探索するが、くれぐれもお互いに目の届く範囲で行動するのだ。見つけたら、必ず大声を出すこと!。決して一人でやろうと思うな!」


「「了解!」です」


俺達は街道から外れた林の中を、五メートルぐらい離れて手掛かりを探し始めた。



しかし、三時間ほど探索したがグレイハウンドの形跡を見つける程度で、本体を見つけることは出来なかった。

なので取り敢えず拠点に戻り、遅めの昼食を取る。


今回のターゲットは鼻が良いので、火を使って料理をするのではなく、レーションの様な短時間で簡単に空腹を満たせ、エネルギーも補給出来る物にした。


そして、少し休憩を取った後、再び警戒を始めた。

今回はむやみに探索するのではなく、街道沿いを見張るような作戦にした。


そして一刻ほど、街道を通る商人達や旅人達を見守っていたその時・・・

少し先から、悲鳴のようなものが聞こえてた!


俺達は慌てて声のする方に向かった。そして、そこで見たものは・・・

少し前に見掛けた旅人達が、グレイハウンドに襲われていた。


「エメ!リオ!、二人は周りにいる奴等を!。俺は襲われてる人達のとこに!」


二人は目で合図アイコンタクトをしてから、敵に向かっていく。

エメルダなら、リオノーラがいれば安心だろう。


俺は、襲われてる旅人の元に向かい、左足に噛みついてるヤツの首に剣を突き刺した。そいつは、ギャンッ!!と一声鳴いて事切れた。


敵は大体十五~六匹ってところだった。

俺は続けて襲ってきた二匹を首を刎ねて倒した。他の二人をチラッと見ると、既に四匹は倒していた。


既に七匹は倒されているのだが、敵は一向に逃げる気配が無い。

まあ、こちらは全て駆逐するつもりだったので、問題は無いのだが・・・


「こっちはどうだ?」


リオノーラが声を掛けてきた。

彼女は息切れ一つしていない。エメルダも大して疲れた感じはしない。これも、リオノーラとの訓練が生きているのかもしれない。


「まだ奴等は、俺達を食おうとしてるぞ。気を抜くなよ!」


「分かってるわ!。片付けちゃいましょ!」


その後、三十分もしない間に俺達はグレイハウンドを殲滅した。

そしてケガをした旅人に簡単に手当てをした後、俺達は討伐証明の剥ぎ取りを行った。


今まででは、まず逃げていた相手に俺達はあまり苦労しないで倒すことが出来たのだ。これは大きな自信になった。俺達は今、冒険者をしているのだ!という実感が湧いて来る。


この胸の奥から湧き上がる熱い想いで、俺の心の中はいっぱいになるのだった。

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