第27話 猫とは、ディスコミュニケーションなのか?

「……たま」


 頭の上にたまが乗った珠貴が頭を上げようとする。


 けれども、たまを気遣って、ゆっくりと、ゆっくりと頭を上げようとするのだけど、たまがドヤ顔で降りようともせずに乗り続けている。


 何故、たまは珠貴の頭の上に乗ったのだ?


 猫語が分かれば、たまの行動の意味を訊くことができるのに。


 いや、待てよ?


 そういえば、猫が背中に乗ったりするのは、相手を格下とみているとかそんな理由があったはずだ。


「もしかして、たまは珠貴さんを下に見ているんですかね? 背中に乗っかるのは、格下とみている証だとか、そんな通説を唐突に思い出した」


「たまが……えっと……私を格下と見ている……と?」


 珠貴の事などお構いなしに、たまが頭の上で大きなあくびをしてみせた。


 たまの様子からすると、やっぱり珠貴の事を下に見ている証拠なんじゃないか。


「そうらしいです。猫の言葉が分かる訳ではないので本当かどうかは分かりませんが」


 猫語が分かれば、はっきりとするはずだ。


 最近は猫の言葉を翻訳するアプリなど出ているらしい。


 それが機能しているのならば、猫を……いや、たまをもっと理解できるはずだ。


 いや、いや、待てよ?


「背中じゃなくて、珠貴さんの頭の上に乗っているので、別の意味があるかもしれない」


「べ、別の……意味……ですか?」


 珠貴の頭の上で、たまが大きなあくびをした。


 たまは滅茶苦茶くつろいでいないか?


 もしや、これは……


「たまは珠貴さんの事を遊び場か何かと思っているんじゃないか?」


 そうだと仮定すると、たまが珠貴に対しての行動が説明できそうな気がする。


「私が……遊び場……ですか?」


 頭の上にたまを見ようと目を動かしながら珠貴が言う。


「でも、説明できない事もあるのでそう思っているかどうかはたまに直接訊くしかないと思う」


「……はぁ」


 珠貴が気のない返事をした。


「……たま、そう思っているのか? 珠貴さんの事を遊び場か何かと勘違いしているのか?」


「……」


 当然、たまは俺の言葉を無視して、また大きなあくびをしただけだった。


 やはりそうだ。


 猫語が理解できなければ、たまとコミュニケーションを取ることはできそうにはなかった。


「珠貴さん、付かぬ事を窺いますが」


「は、はい!」


 珠貴の背筋がしゃきっとした気がした。


 たまが頭の上に乗っているので、背筋を伸ばしたワケではないのだが、俺にはそう見えた。


「猫の言葉ってどうすれば話せるようになるんですかね?」


「猫の言葉……ですか? そうですね、猫になれば、猫の言葉が分かるようになると思います」


 言われてみれば、至極真っ当な答えだった。


 しかし、どうやって猫になれ、というのだろうか?


 方法が無いわけではないよな?」


 トラックだ。


 トラックに轢かれて……転生か?


 転生なのか?


 あの時、トラックにひかれていたら、俺は猫に転生できたのではないか?


 しかしだ。


 あの時、トラックに轢かれていたら、俺はたまと出会わなかったではないか。


 それでは意味がない。


 どうすれば、俺はたまときちんと対話できるようになるのだろうか?


 その方法をちゃんと考えないといけないのかもしれない。


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俺と、もふらせない三毛猫と、無防備なJKの奇妙な三角関係 ~ 異世界転生しようとトラックに飛び込んだら、何故か猫とJKを助けてしまい、転生できませんでした ~ 佐久間零式改 @sakunyazero

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