第25話 言い訳が思いつかない
俺は頭をぼりぼりとかきながら考えをまとめる。
珠貴はゆっくりと待つかのようにその場で正座をして、そんな俺の答えを静かに待っている。
たまも玄関先でこちらの様子を窺っている。仲直りできるかどうか心配しているのかもしれない。
「珠貴さんの唇を奪ってしまったのは本当に偶然で……その後は……あ、ああの……珠貴さんの唇が柔らかかったのでつい出来心で……」
ちらっと珠貴の様子を窺う。
唇の事を言われて気にしだしたのか、口元を確認するようにもぞもぞと舌先で確認したりしだした。
「唇を味わいたくて……。まあ、あれなんですよ。パッと離すのも失礼かもしれないとか思っていたりいなかったりして……終いには、舌を……舌をですね」
「……舌……ですか?」
珠貴が唇を確かめていた舌を引っ込めて、確認するように言う。
「舌を入れて……ですね、珠貴さんの唇を割って、舌を絡め合うのもありかななんて思ったのですが、さすがにそれはできなくて……」
「舌を入れるのですか?」
戸惑うような表情をして珠貴が問いかけてきた。
「入れようと思いました。ですけど、できなかったというか、やっちゃ駄目かなって思ったんですよ。偶然にもキスをしてしまったものだから珠貴さんが恐怖から身体を強ばらせたんじゃないかって思って」
「き、キスをされたら……わ、私は頭がほわってしてきて、何も考えられなくなっていただけです」
「本当は怖かったんじゃないですか? 俺みたいな年上のよく分からない男にキスなんてされたら絶対に嫌ですもんね」
俺は自嘲気味に笑った。
「……そ、そんな事はありません。私は祖父が部屋に入ってきた事に気づいても、誤解されてもいいとさえ思いました」
「ええとそれは……これまで誤解されるような事をしてきたからとか? 珠貴さん、綺麗だし、モテそうですよね。こんな現場を何度も見られていたんですかね?」
珠貴は清楚そうに見えても結構男遊びをしてきたのかもしれない。
最近の若い人は小学生くらいから恋愛だとかしているという噂だしね。
それに、祖父に現場を何度か見られているからと想定すると、大仰に騒がずに祖父はあんなふうにさっと身を退いたのも理解できる。
「そうではありません!!」
心外だと言いたげに、珠貴は叫ぶように否定するなり、自分の声に大きさに気づいたのか、
「あっ……わ、私は……その……男の人とは交際した事はありません。三田さんは勘違いをしています……」
と、口元を隠すようにして、シュンとしながらかき消されてしまいそうな小さな声で呟いた。
珠貴の声でたまが一瞬だけピクッとして目を細めて俺を睨み付けてきたけど、何もないと分かると眠そうな目を細めていた。
「ええと……つまりそれは……さっきのキスはファーストキスだった……とか?」
口元から手を離して、俺の事を若干上目遣いで見るような素振りを見せつつ、言葉ではなく首肯で返してきた。
「あ……」
ここは慰めておくべきなのか?
俺みたいな得体の知れない男にファーストキスを奪われて、平静を装ってはいるものの、心の中では動揺しまくっているのかもしれない。
多感な十代のこむす……いや、女の子に俺はどう対応すべきなのだろう?
言葉に窮した俺は珠貴から視線を逸らして、たまを見やる。
俺が困っている事など歯牙にもかけてはいないのは当然で、目を閉じて今にも眠ってしまいそうな雰囲気をして玄関先に佇んでいた。
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