第24話 説明責任ですか……



 土下座していて顔を上げる事ができない。


 珠貴が慌てた様子もなく、落ち着いた所作で上半身を起こしたのが気配から分かった。


 果たして、珠貴は俺を許してくれるのだろうか。


 それとも、それとも警察に電話をするのだろうか。


 いずれにせよ、珠貴がどう思っているか次第だ。


「……ええと、三田さん、顔を上げてください」


 落ち着き払う口ぶりだった。


 あんな事をされたのだから俺に怒声を浴びせかけたり、糾弾してもいいものなのに。


「は、はい……」


 俺は珠貴の言葉に従い、恐る恐る顔を上げる。


 珠貴はすっかり上気した顔をしている。


 俺と視線を合わせるのが嫌なのか、それとも恥じらいからなのか、俺を見ようとしてはいなかった。


 何を見ているのかと思って視線の先を探ると、玄関の前で横になりながらも、目を細めてじっとこちらを観察しているたまがいた。


 俺と珠貴の動向を探っているような雰囲気だ、たまの方は。


 もしかして俺が珠貴に何かをしないか見張っているのか?


 もしかして、俺の頭の上に乗ってきたのは、俺が珠貴をいじめようとしていると思って止めようとしていたのか?


 猫語が話せたら分かるのに……。


 たまと話し合えないのがもどかしい。


「さすがの私でも混乱します」


 頬の赤みがさらに増したように見えた。


「は、はい。申し訳ありませんでした」


 申し開きなどできようがない。


 そういう行為をしてしまった後なのだから。


「わ、私を押し倒したのは偶然だった事は分かります。三田さんの頭の上にたまが飛び乗った勢いで、私の唇に触れてしまった事も分かります。それに、たまが落ちそうになっていて、三田さんの頭に爪を立てたのも見ていたので分かります。ですが……」


 珠貴は言いにくそうに唇を噤んだ。


「は、はい……」


「あの時、唇をすぐに離そうと思えば離せたのに……そのまま唇を故意に求めてきた理由が分かりませんし、私の胸を掴んだ理由が分かりません。えっと……説明してはもらえませんか?」


 珠貴は先ほどの事を思い出したのか、耳まえカアッと赤くさせて、たまに助けを求めるように顔の角度を変えた。


「それは……」


 俺はどう説明すべきか。


 素直に言うべきなのだろうか。


 それとも、誤魔化すべきなのだろうか。


「祖父が先ほどドアを開けて、私と三田さんがキスをしている場面を目撃してしまって、すっかり誤解してしまったようです。きちんと説明してもらえないと祖父にも説明ができません。説明責任を果たしてください」


 途中で入ってきたのは、やっぱり珠貴のおじいちゃんだったのか。


 俺が珠貴を押し倒してキスしている場面をしかと目撃している。


 あの様子だと、俺と珠貴が付き合って、そういう間柄だと勘違いしていそうだ。


 さて、これはどうするべきか。


 どうしたら、いいんだ、俺?!



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