第22話 珠貴のファーストキスは突然に
「俺は……もふもふ……を?」
子供の頃、とは言っても小学生の頃にネコを抱きしめたりした事はある……気がする。
しかし、今頭に浮かんだ感触は、過去のもふもふなのか?
いや、そんなはずがない。
そんな大昔のもふもふを、たまをもふった事と思い違いをするはずはない。
「もふもふ……ですか?」
珠貴がキョトンとした顔をしたまま、俺の顔をのぞき込んでいる。
「俺はもふもふを知っている。何故だ?」
「もふもふとは、どのもふもふの事ですか?」
「だから、俺が知っているもふもふなんだ。なんで、俺はたまのもふみを知っているのかと不思議でならないんだ」
「それは簡単な話ですよ。三田さんがたまを抱きかかえていたからではないですか?」
「え? 抱きかかえていた? いつ? 俺が? 抱きかかえていた? たまを?」
俺にそんな記憶はない。
そんな印象的な事があれば、きっと俺は覚えているはずだ。
絶対に忘れないし、たまのもふもふ感を思い出して何度でもにやにやしていたはずだ。
だから、俺が忘れるはずなんてない。
絶対にあるはずがない。
「あるはずがないんだ!!」
俺は珠貴が嘘を吐いているような気がしてならなかったのもあるし、もしそれが事実であるのならば教えて欲しい。
それがいつの出来事であったのかを。
「きゃっ?!」
珠貴の顔がぐっと目の前に来た。
来たんじゃない。
俺が前に出たんだ。
目と鼻の先に珠貴の顔がある。
そんな状態なのも忘れて、俺は珠貴の肩に手を伸ばして、ぐっと掴んでいた。
「珠貴は何を知って……!」
しかも、勢いがつきすぎたせいもあったのか、珠貴をそのまま押し倒してしまっていた。
「えっ?!」
「えっ……」
珠貴の背中が床に打ち付けられたドタンという大きな音で、俺は我に返った。
俺は何をしてしまったんだ?
珠貴の顔が真っ赤になる。
ここはどう取り繕うかと考えながら、珠貴の目を見つめる。
珠貴がすっと俺から目を反らせる。
「……三田さんは強引です。私、まだ心の準備が……」
もしかして、俺が感情を抑えきれずに押し倒したって思われている?!
「珠貴、これは違うんだ、違うんだって」
「初めてのキスが……こんなにも強引なやり方でも……私、嬉しいです……」
珠貴の頬が真っ赤から紅潮へと移ろった。
「……え?」
今の言葉はどういう意味なんだ?
「三田さんは……三田さんは……強引なのが好きなのですね……」
この状況を打破しようとした時だった。
珠貴の目が何かの動きを捉えたかのようにすうっと流れるように動いたと思ったら、俺の頭がぐんっと重くなった。
何か重しを頭に乗せられたかのような動き。
それがあまりにも不意打ちだったため、その重さに抗う事ができず、気づいた時には、唇が何かに触れていた。
柔らかくて、どこか温もりがある何か。
珠貴が再び俺の目を見つめてきたと思ったら、幸せそうに目を細めて、そして、その幸福感を抱きしめるようにきゅっと目を瞑った。
何かじゃない。
これは珠貴の唇だ。
なんで俺は珠貴にキスをしている?
どうして俺は珠貴にキスをしてしまったんだ?
分からない。
どうしてこんな展開になっているのかが。
「みゃう」
俺の頭の上で何かが鳴いた。
いや、何かじゃない。
たまだ。
俺の頭に乗ったのか、たまが。
たまに乗られたせいで、俺は偶然にも珠貴の唇を奪ってしまったのか。
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