第17話 忠猫たま?


 鍵をかける事ができないまま出かけたのはいいが、家の事が気になり、何度も何度も立ち止まっては家の方を確認するという行為を繰り返してしまった。


 何者かが鍵がかかっていない事を知っていて、しめしめとか言いながら侵入して俺の荷物を外へと運び出しているのではないか。


 そんな映像が浮かんでは消え、浮かんでは消えといった感じで、コンビニまでの道のりが意外にも長かった。


 本来ならば徒歩数分だったのだろう。


 それが何故か十数分かかってようやくコンビニに辿り着いた。


 コンビニに入るなり、まずは設置されていたATMの前まで行き、口座に残っている金額を確認する。


「むぉ……」


 残高は、五桁しかなかった。


 四捨五入すると、切り上がる方ではなく、切り捨てられる方なので、仕事が見つかって給料が振り込まれるまで生存できているかどうか怪しい。


 しばらくは生活を切り詰めていかないと餓死したり、行き詰まったりする可能性がある。


 気を引き締めて生きていかなければならないようだ。


 断腸の思いで諭吉さんを二枚ほど口座から引っ張り出した。


 その後、一番コスパが良さそうな惣菜を吟味して、今日の晩飯と明日の朝食を購入してコンビニを出た。


 カップラーメンなどの常備食も買おうかと思ったものの、お金が入るまでは節約しなければならないだろうから多少でも安く売っているであろうスーパーで明日買えばいいと思ったのだ。


 帰路は早足だった。


 鍵がかかっていない部屋に一秒でも早く戻りたいからだ。


 行きとは違い、おそらくは三分ほどでアパートに戻れた。


「よし!」


 俺の部屋の前まで行き、ドアノブに手をかけて、一気に開け放つ。


 鍵は当然かかっていないから勢いよく開いた。


 誰か侵入してはいないかと確認しようかと思って家に入ろうとしたところ、


「みゃう」


 俺の帰りを待っていたかのように、たまが律儀にも玄関に座っていた。


「……へ?」


 俺はたまに会えた喜びを甘受するよりも先に、この状況の不自然さに疑問を抱いた。


 ドアに鍵をかけないで出たはずだが、ドアを開け放ったままの状態で出た覚えはない。


 ちゃんと閉めたはずだ。


 それなのに、どうしてたまが俺の部屋に入ってきているのか。


「何故いる?」


 俺がそう問いかけると、たまは本当に小首を傾げて、愛おしそうに俺の事を睨み付けてくる。


 たまは、器用にドアノブを回して、この部屋に入ってきたとでもいうのだろうか。


 ドアを開けられる猫というものがこの世の中にいることは知っている。


 たまもその類いの器用な猫なのだろうか。


「たま、お前が開けたのか?」


 俺が質問すると、今度は逆の方向に首を傾げて、何を言っているの? と言いたげな無愛想な瞳を返してくる。


 猫語だ。


 やっぱり猫語が必要だ。


 たまの真意を知るためには……。


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