第16話 一人の夜


 夜になった。


 退院してすぐのせいもあるし、新居に退院してすぐに転がりこんできたせいもあるのか、新しい部屋に慣れないでいた。


「う~ん?」


 今までの社宅とは勝手が違うのもある。


 居心地がどうしようもなく悪い。


 そのうちにこれが日常になって気にならなくなるのだろう。


「そろそろ夕飯時か……」


 時間が経つのが遅いようにも感じて、スマホで確認すると、午後七時を回っていた。


 意外と時間が進んでいる事も驚きつつも、腹の具合を確かめる。


 意識してみると、空腹感があった。


 新しい部屋に来た緊張感からだったからなのか、その辺りの感覚に鈍感になっていたようだ。


「コンビニに弁当を買ってくるか」


 珠貴に連れられて新居に来る途中で確かコンビニが数軒あったはずだ。


 そんなには遠くはなかったはずだから迷わずに行けるだろう。


 外に出ようと思ったところでふと気づく。


「あれ? 鍵はどこだ?」


 どこかに置いたかな?


 そう思って、至る所を探してみるも、この部屋の鍵は影も形もない。


「もしかして……」


 思い返してみると、珠貴からこの部屋の鍵を受け取っていないような気がする。


 珠貴は鍵を渡し忘れたのか。


 しっかりとしているところもあれば、こういう抜けたところもあるんだな、珠貴は。


「電話か、メッセージでも送って、鍵を持ってきてもらうか。いや、俺の方が取りに行くのがいいのかな?」


 スマートフォンを手に取って操作しようとしたのだが、画面が真っ暗なままでうんともすんとも言わない。


「げぇ!? バッテリー切れかよ」


 充電をすればすぐに使えるようになるだろう。


 充電用のコードを探すも、引っ越しの荷物を整理している際にどっかやってしまったらしく発見することができなかった。


「……付いてないなぁ」


 俺は頭をぼりぼりを掻いて、どうすべきかぼんやりと思案する。


「そうだ。まずは腹を満たしてから考えよう」


 盗まれたとしてもなんとかなる物ばかりだろうし、鍵をかけずにコンビニに駆け込もう。


 弁当以外にも、充電用のケーブルも買えばいい。


 そうすれば、珠貴に連絡が取れるから鍵を持ってきてもらうもよし、取りに行くもよし、と。


 そうだ。


 それが一番だ。


 俺はそういう結論を下すなり、財布だけを持って鍵をかけずに部屋を出ようとした。


「……む?」


 手に取った財布がやけに軽い。


 中身が入っていないのではないかと思って中身を確認すると、


「千円が一枚。それと、一円玉が数枚……と」


 入院している間、ATMなどでお金を下ろしていなかった。


 だから、当然財布の中にはお金が入ってはいない。


「コンビニにATMがあるし、そこで下ろせばいいか」


 口座の残高がいかほどか。


 記憶がもの凄く明瞭ではないが、一ヶ月くらいは暮らせる額はあるだろう。


 ……たぶん。




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