第13話 珠貴とたま、去る



「そういう物を見てしまうのは修行のようなものですよ」


 言った俺自身が疑問に思うのだが、修行なのだろうか?


 人生の修行と言い得て妙かもしれない。


「修行……? そういった珍事にも対応できるようになれ、という事ですね」


「……う? うん」


 快活な珠貴の反応に対して、俺は曖昧に頷く。


「何事も修行……と。分かりました。そう心がけながら生きていくようにします」


 理解しましたとばかりの満面の笑みに、俺は幾ばくかの罪悪感を抱く。


 そうは言っても、珠貴がよしとしているのだから今更否定するのは止めておこう。


「……ん?」


 なんだか視線を感じる。


 じと目で見ているように感じて、たまに視線を送るも、すぐに顔を逸らされてしまった。


 猫は何を考えているのか分からないと言われているけれども、その通りなのだな。


 猫なんて飼ったことはなかったし、道ばたでたまに野良だか、飼い猫だか分からないのと戯れる程度だったから、尚更に理解しえない。


「それでは、三田さん、布団はすぐに出せると思いますので静養してくださいね」


 珠貴は人を思いやっているのが一目で悟れるような微笑を見せるなり、珠貴は俺の横を通り過ぎる際、一礼してから出ていった。


「あれ?」


 珠貴が去ろうとしているのを見てか、俺の肩に乗っかっていたたまがぴょんと肩から飛び降りて、シュタッと華麗に床に着地をするなり、出て行く珠貴の後を追いかけていた。


「対話は?」


 俺は拍子抜けしてしまった。


 俺に懐いていたのではなく、珠貴の方こそが本命の懐き相手だったのか?


「にゃ~」


 珠貴がドアを開けると、たまが俺の方を振り返って一鳴きした。


「お、おう……またな」


 俺がそう声をかけると、満足そうに目を細めて、顔を正面に向けて出て行った珠貴に続くようにして外へと出て行ってしまった。


「猫は気まぐれというか……」


 俺は二人というか、一人と一匹が出て行った玄関の方に顔を向けながら、


「意味不明だ」


 そう独りごちた。


 もし猫語を話せるようになったとしても、俺は猫の全てを理解できないかもしれない。


 人と同じような感覚で接してしまうと、猫そのものを知る事ができないのかもしれない。


「けれども、俺は知りたいな、たまの事を」


 何故そう思うのか。


 何故たまに拘るのか。


 本来ならば、できすぎている人間の珠貴の方に好意を抱きそうなものなのに、何故たまなのか?


 入院する前の俺だったらそのはずだ。


 惚れっぽいし、優しい女子には好意を抱いてしまうし、で。


「俺の何かを変えてしまう何かが、たまにはあったという事か」


 何かあったとすればあの事故の前後だ。


 俺は記憶の糸を辿ろうとするも、本当に記憶そのものが欠落しているかのように些細な事さえ思い出す事ができず、


「……解せぬ」


 つまり俺は訳も分からずに、たまに惹かれているということなのだろうか?




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