第9話 俺と三毛猫たま

 もしや……


 何かが肩に乗っかってくるなんて事が普通にあるのか?


 いや、普通の日常生活を送っていたらそんな事があるしかない。


 ずっしりとした重み。


 背中で質量がある物体がもぞもぞと蠢いている。


 これが事故物件の……真相?


「にゃう」


 そして、『にゃう』と鳴く。


「……にゃう、だと?」


 もうこれは事故物件そのもの……じゃないな。


 幽霊がにゃうと鳴くものか。


 つまり、俺の肩に乗っかってきているのは……


 俺は確かめるように肩に手を伸ばす。


 すると、俺の手にぽむと何やら押しやられた。


 なんであろうか?


 指先でそのぽむっとした何かを振れると、ふにふにとして弾力感に溢れている。


「はっ!?」


 なんだ、この新触感の柔らかいゴムともシリコンとも違う、振れているだけで幸せになれる肌触りは?!


 脳天がしびれるような愉悦!?


 馬鹿な、俺の五感、いや、第六感までが直撃を受けている?!


 なんだ、なんだ、なんだ、なんだ、なんだ、なんだ、なんだ、なんだ、この感覚は!!!


 顔が……顔が自然に緩んでくる……。


 口元が緩んでくる……。


 何故だ?


 何故そうなる?


 俺はここまで猫が好きだったのか?


 そんなはずは……分からない……分からない……。


 俺は本当は猫が好きだったのか?


「……三田さん?」


 お伺いを立ててくるような声で俺はハッと我に返った。


 慌てて顔を引き締めて、俺に声をかけてきたであろう珠貴を見やる。


「変な顔を……」


 俺は珠貴が何か指摘しようとしている事を察知して、その言葉を遮るように、


「珠貴さん、パンツが見えていますよ。さっきからずっと」


 さっきから気づいていましたけど、あえて指摘しませんでしたとばかりに口にする。


「えっ?! あっ!! み、見ないでください!!」


 するとやはり顔を真っ赤にさせて、焦燥に突き動かされるように上がっていたスカートの裾を元に戻そうとする。


 しかし、体勢からしてパンツが見えてしまう格好である事に気づいて、上体を起こしたままの体勢からひょいっと華麗に立ち上がった。


「ひ、酷いです。ずっと見ていただなんて……」


「ずっと見ていたワケでは……。すぐに起き上がるのかと思っていましたし、指摘するのは失礼かと思いまして」


「むぅ……」


 珠貴は俺と正面から向き合うも、赤面したままだ。


 しかも、頬を膨らませて、俺の事を責めるような視線を送っていて怒っていますという素振りを見せている。


 どうやら俺がガン見でもしていたと勘違いしていそうだ。


 この誤解は解くべきかどうなのか……だな。

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