第7話 三毛猫登場



 入ってすぐのところにキッチンがある。


 広さ的には、四畳半といったところだろうか。


 社宅で使用していた冷蔵庫と電子レンジ、それと、食器でも入っていそうな段ボールが床にいくつか置かれている。


 その先には、木製のドアと壁がある。


 俺が予想するに、引き戸で仕切っていた場所を壁とドアにした雰囲気だ。


 そのドアが開けられていて、その先を玄関から望むことができる。


 ドアの先にある部屋の広さは八畳くらいだろうか。


 その部屋の先にはベランダがあるので、もっと広く見える。


 リフォームしたばかり内装を見るに、当たりの物件にしか思えない。


「良い部屋じゃないか」


 俺が素直にそう感想を述べると、


「私もそう思います。祖父が所有しているアパートの中でも、ここはリフォーム後、とても素敵になりました」


 と、千手院珠貴も同意見らしい事を口にする。


「住みやすそうだし、間取りも悪くはないし、何よりも綺麗だ」


 この部屋ならば、仕事が見つかった後、賃料などを支払う段になったとしても住み続ける事を選択できそうだ。


 珠貴が靴を脱いで、部屋へと上がる。


 俺も靴を脱いで、部屋に上がる。


 ふさっ……。


「……?」


 部屋に上がった時、背後で何かの気配がした。


 まさか……。


 そう思いながら、ゆっくりと振り返るも、閉じかけていたドアがあるだけで人影などありはしなかった。


 チリン……。


 ホッと胸をなで下ろし、顔を元の位置に戻そうとした時に、視界の隅を何かが蠢いた。


 え?!


 今、何か音がしなかったか!?


 音がして、何かがいたように思えた方向に視線を投げるも、何もいなかった。


 俺の気のせい?


 そう思って再び視線を戻そうとした時、その視界の片隅で何かが高速移動をして、俺の前にいた千手院珠貴の背中へと突進していた。


 あっ!!


 気づいた時には、何者かが珠貴の背中に飛びついていて、無防備だった珠貴はそのまま押し倒されるようにして前につんのめっていった。


「きゃうっ?!」


 ビタンという痛そうな音と共に、珠貴は床に倒れ込んだ。


 珠貴の制服のスカートがめくれてしまっていて、白い下着を見事に晒してしまっている。


 ついで言えば、素足もこれでもかとばかりに見せてしまっている。


 だが、俺はそんな珠貴には一瞥をくれた程度で即座に興味を失った。


 なにせ俺の目の前に……


 珠貴に背中に飛びついた主がむっくりと起き上がった。


 そして、珠貴の背中の上で立ち、自分が乗っかっている珠貴を見て、鼻で笑うような仕草をした。


 一旦お尻の辺りまで歩いて、お尻をぐにぐにとその肉球でやった後、つまらなさそうな顔をして、ぷいっと顔を背けるなり、身体の方向まで変えて、今度は頭の方へと向かっていく。


 珠貴の頭に乗ると、満足そうに足蹴にして、ふんと息巻いたように俺には見えた。


「……ね、猫?!」


 それは猫だった。


 三毛猫で威風堂堂とふてぶてしい態度を取り、自分が珠貴よりも上と誇示するように振る舞っている。


 俺の前には、その三毛猫がキラキラと光っているように見えた。


 その三毛猫が動く度に光彩が増していくように俺には見えて仕方がなかった。


 しかも、その三毛猫の表情や一挙手一投足に目が離せず、その姿を追うことが俺の使命にさえ思えるほどだ。


 終いには、心臓がこれでもかと脈動している。


 どうしてしまったんだ、俺は。


 これでは……これでは……これでは……


 まるで……まるで……まるで……


 この三毛猫に恋をしてしまっているようではないか!!



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