第3話 JKの言葉に甘える俺って……
「では、早速祖父を説得してきます」
珠貴は嬉々とした表情で、スキップするように俺の前から去ろうとする。
何がそんなに嬉しいのか分からないが、恩返しか何かの一環ができてよかったとでも思っているのだろう。
「いや、そんなにがんばらんでもいいぞ。俺は大丈夫だ」
珠貴が足を止めて、俺の方を気遣うような顔をして顧みる。
「大丈夫、大丈夫と呟きながら意識を失ったのは、どこのどなたですか?」
「何の話だ?」
「あの時、私が何度も何度も呼びかけたのは覚えています?」
「いや、全然。会社を出てからの記憶が曖昧だし……。もふ……あ、いや、何でもない」
あの日のもふもふ感だけは子細に覚えている。
しかし、何のもふもふであったのかまでは思い出せない。
あれは、ただの夢だったのかもしれないけれども。
「でしたら、三田さんの大丈夫は信用出来ません。私は大丈夫なようにしておきますので、病院でゆっくりと静養していてください」
「あ、いや、でも……」
無職になったんだからお金の心配もしないといけない。
入院費用だって馬鹿にならないんだぞ。
「入院費も心配いりませんよ。私達が出します。私の命の恩人ですから当然の責務ですから」
珠貴は俺の事を気遣うように柔和に、諭すように言う。
できた子だな、珠貴は。
「いや、だけど、それじゃ……」
「今は何も考えずに休んでいてください。それが三田さんにとって最善の選択です」
「でもな……」
珠貴は俺の方にすっと戻ってくるなり、ベンチに座っている俺と視線を合わすために腰を屈めて、俺の目をじっと見つめてくる。
「休んでいてください」
「しかしだな……」
「養生していてください。そうしないと危険なんですよ?」
珠貴は俺の目をじっと見つめていて、視線をはずそうとはしてはくれない。
俺はそんな珠貴から視線を逸らす事ができず、見つめ返す事しかできない。
「……分かりましたね?」
「……は、はい」
どっちが年上なのか分からん。
過労死寸前までの状態だったから精神が不安定になっているのかな?
今は、今の俺よりもしっかりとしていそうな珠貴の言うことに従うとしよう。
うん、そうしよう。
「今は私に甘えてください。それが最善だと思いますよ。神経衰弱の状態かもってお医者さんだって言っていたのですから」
「……はい」
「それでは祖父を説得してきます。きっと数ヶ月は無償で貸してくれるはずです。朗報を期待してください」
珠貴はそう言って、俺の元から鼻歌でも歌いそうなほどの笑顔を見せながらスキップするように、俺の前から去って行った。
良い子だな、珠貴は。
珠貴の後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、俺は天井を仰ぎ見た。
「ああ、無職」
たかが十日ほど会社を無断欠勤しただけで、懲戒解雇になるとは……ね?
たかが十日。
されど十日。
意識がなかったんだから連絡のしようがないからとはいえ、それで懲戒解雇……か。
俺、これからどうしよう?
退院したら職を探さないとな。
懲戒解雇してきた会社に事情を説明しないといけないんだろうけど、あそこに戻る気力はもうわかないし。
説明は一応しておいて依願退職ってことにしてもらおう。
その後は、どうしようかな、俺。
まずは、体調を万全にしてから考えようか、今後の事については。
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