第28-1話(最終話)『現実の自分を殺す』
僕の心はもう決まっていた。だから……
「ッ……ぐ……」
僕は、自分の胸に深く深くナイフを突き立てた。熱い紅がじわりと拡がり胸を濡らしていく。痛みははっきりとある。心臓が生命の終わりを警告するように鼓動しているのも感じている。だけど何故か飛び降りた時のような寂しさと孤独感はなかった。僕の中には満ち足りた気持ちだけが残っていた。
『お前はよく頑張ったよ』
立つ力がなく、倒れ込んでいた僕の背中にひんやりとした手の感触を感じた。霞んでゆく視界の中に鏡の僕の足が見える。それは鏡越しではなく、そこにあった。
「ふ……ふふ……ふふふふ」
誰かが笑っていた。違う、笑っているのは僕だ。僕は何故笑っているのだろう。情け無い自身を嘲笑っているのかそれとも……
だけどその答えはもう誰にも本人すら分からない。
『……なんともまぁ馬鹿だなぁ。 もしかして、自分が死ねば鏡の住人になれると思ってたのか? それとも今なら解放されると? まぁどちらにせよ、ここで死んだら今までの苦労は全て水の泡。 全部無駄。 魂は永遠にこの空間に囚われて苦しみ続けるんだから』
鏡の僕が現実の僕を同情するように見つめる。
『お前はこの世界に負けたんだ。 この狂った世界にまんまと弄ばれた……まぁ、いい暇つぶしになったよ。 さようなら……有栖川 語』
________
「ねぇ、知ってる? あの噂。 少し前にこの学校の屋上で飛び降り自殺した男子生徒がいたらしいの。 その子の自殺の原因はいじめだったんじゃないかって言われててね? 暫くニュースにもなったんだけど、結局学校がうやむやにしたりして真相は分からず仕舞いになっちゃったんだって。 でね、ここからが本題なんだけど……それ以来この学校の鏡の中でその男子生徒の姿を見たって生徒が度々出るようになったの。 しかも男子生徒を見たって人の中にはナイフで自分の胸を刺してたって証言してたりするんだって。 おかしいと思わない? 飛び降りて自殺したはずなのにナイフだなんて。 噂によるとね……男子生徒の魂は『鏡の世界』に閉じ込められたんじゃないかって。 え? 鏡の世界って何って? ……聞きたい?『鏡の世界』の話。 なら教えてあげる。 これはあくまで噂の話……」
Normal end.1 鏡の噂
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