第23-2話『抑える』
僕は三村達に背を向ける。
「おや、仕返ししないのかい?」
「しないよ。 面倒だ……」
こいつらに殺意がない訳でもない。だけど、今はこんな奴らに構ってる場合じゃない。それよりも気になる事があるんだ。階段を降りようとして思い留まる。
「どうしたのかな」
「ちょっと……な」
確かにせっかくの機会だ。何もしないまま離れるのは勿体ない。僕は三村達のズボンのボタンをナイフで剥ぎ取り、チャックを使えなくしてやった。三村達のズボンは完全にずり落ちている。
「ははっ」
間抜けな4人の姿を見られてすっきりした。これで今は追いかけてくる余裕もないはずだ。
「満足した?」
「ああ……」
「じゃあ僕はそろそろ帰るよ。 健闘を祈るよアリス」
わざとらしいお辞儀をするニコラスを横目にその場を離れる。階段を1階分降り切った頃、時間が進み始めたのか4人の叫び声が聴こえてきた。様子は分からないがさぞや慌てふためいていることだろう。笑いを堪えつつ、僕はとある場所へ向かった。それは2年生の教室だった。僕はすうと息を整え教室の扉を開けた。
「失礼します。 宇佐美先輩はいませんか」
教室のざわめきが一瞬だけぴたりと止まる。近くに座っていた女子達が顔を見合わせてから僕の方を見る。
「そんな子……うちのクラスにはいないけど」
いない?僕はクラスを間違えたのだろうと別の教室にも行ってみた。しかし、どのクラスにも宇佐美先輩はいなかった。どういう事なんだ。これじゃまるで最初からいなかったみたいじゃないか。僕は嫌な予感と同時に疑惑が確信へと変わったのを感じた。やはり鏡の世界で何度か見ていたのは宇佐美先輩だったんだ。状況から察するに宇佐美先輩はこの世界の人間ではないのだろう。そしてここに呼んだのも宇佐美先輩のはずだ。会いたいと思った時にいないなんてまさに鏡の世界の住人らしい。
「思い当たる所全部行ってみるか……」
僕を呼んでいたなら必ず会えるはずだ。僕は授業をサボり宇佐美先輩を探し始めたのだった。
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