第23-1話『自分に従う』

 僕はずっと耐えてきた。耐えて耐えて耐えて耐えて……その先に何があった?何かいい事があっただろうか。僕は報われていただろうか。もし僕が死んだところでこいつらは少しも後悔なんてしないだろう。それどころか自分達は僕の事なんか忘れてのうのうと生きていくに違いない。僕が死んでも誰もこいつらに罰を与えてはくれないんだ。


「その顔……いいねぇ。 じゃあ僕は行くよ。 またね、アリス」


 ふっと周りの空気が変わるとニコラスの姿はなくなっていた。三村達の動きが戻る。


「おい! 聞いてんの……か」


 どうせ死ぬならこいつらにも同じ痛みと苦しみを味合わせてやらないと。僕は三村の腹に深くナイフを突き立てていた。再び時が止まったかのように空気が凍る。


「何、をッ……?」

「自分で確認してみろよ」


 三村の身体を突き飛ばす。その腹から鮮やかな紅が広がっていく。


「あ、あぁ……ッ」


 何が起こったのか分からないという風なやつらの間抜け面を見ていると爽快な気分になった。


「ひッ……?!」

「うわぁ!! くるなぁ!!」

「やめッ……うあああ!!」


 他の3人にも同じように刺した。状況を察して逃げようとしたやつもとっ捕まえて何度か刺して動けなくする。人というのは突然の事にはすぐに対処出来ないものだ。あっという間に僕の足元には4人が転がっていた。


「うぅぅ……死にたく……ないよぉ」

「こ……ろさないで……」


 まだ4人とも息がある。楽になんか死なせてやるもんか。僕はやつらを何度も何度も刺す。僕の全身が返り血に染まる頃には三村以外の3人は呆気なく息絶えた。


「あはッ……! もう死んだのかよ」

「く、狂ってる……」


 三村が必死に這いつくばって逃げようとしていた。僕はその足に思いきりナイフを突き刺す。


「あがぁッ……!」

「謝れよ」

「ぁ……」

「早く謝れ」


 ナイフに力を込め、より食い込ませてやる。


「ひ、ぅ……ご、ごめんなさ……!」


 歯をガチガチと鳴らしズボンと床を濡らす情けない三村を見下ろし僕は笑う。そしてとどめにすっかり朱に染まったナイフをその脳天に勢いよく振り下ろした。


「……あははははハハハッ!」


 なんだ、思っていたより簡単じゃないか。こんなに呆気ないと面白くない。そうだ、もっと殺せばいい。こいつらだけじゃ足りない。今まで感じた事のない高揚感。あれだけ冷たかったナイフは命を持っている生き物のようにあたたさを帯びていた。


End6.『狂いアリス』

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