第19-1話『タンスの中へ隠れる』

 悠長に仕掛けなんか解いていたらその前に部屋に入ってきてしまう。それにもし鏡の奥に入れたとしてその先にいるのがバレる可能性がある。それだけは絶対に避けなければいけない。僕は即座に隣にあった洋服タンスの中へ音を立てないように入った。扉を完全に閉めてしまったので外の様子は分からない。僕は耳を澄ませる事にした。扉の開く音がして部屋に誰か入ってきたようだ。


「はぁ……アリスはこそこそ逃げ回るのが上手いのね! 一体どこに行ってしまったのかしら」


 女王がぶつくさと文句を垂れているのが聞こえてきた。何やらがさごそと探し物をしているようだ。


「アリスを見付けたらすぐに作業に取りかかれるようにしておかなきゃ!」


 一瞬この洋服タンスを開けられたらどうしようと不安が過ぎったが、タンスの扉を開けるような雰囲気はなさそうだ。女王はしばらく部屋を物色した後再び僕を探しに行ったのか忙しなく部屋を出ていったようだった。すぐに出ていく事はせず念の為もう一度耳を澄まし部屋に誰の気配もしないか確かめる。


「……出ても平気そうだな」


 僕は甘ったるい香水の香りの充満する洋服タンスから逃げるように出た。女王は何をしていたんだろうとベッドの方に目をやると、色々な器具のようなものがぞんざいに置かれていた。なんだかよく分からないがろくでもない用途ではあるんだろうなと何となく感じた。じっくり見て用途を理解するのが怖いのですぐに目を離す。


「さっさと仕掛け解かなきゃな」


 気を取り直し、鏡のボタンを右左左左右左と正確に押していく。するとガタンと音がして鏡が扉のように開いていった。


「よし、合ってた。 しかし暗いな……」


 鏡の奥は暗い細い道が続いており先に微かに光が見えている。この先の部屋には明かりがついているみたいだ。僕は足元に気を付けながら鏡の奥へと足を踏み入れた。

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