第16-1話『ザッハトルテ』

 ここは無難な方にしておこうか……


「僕は……こっちの方が美味しかったと思います」


 ザッハトルテの方を指差す。なんとなくだが料理人が笑った気がした。


「本当かい? 実はというと自信作だったんだ! とっておきの隠し味を使っていてねぇ」

「隠し味……?」

「ああ……女王様の好物の一部を使ってみたんだ」

「一部って……」


 言い方に違和感を感じ顔を歪める。料理人が徐ろにザッハトルテのど真ん中を切り始める。そして切り口をこちらに向ける。よく目を凝らすと何か塊のようなものが見えている。


「……うっ?!」


 人の……眼球だった。黒いチョコレートクリームに塗れたそれがごろりと僕の前に転がってきた。じゃあ……僕の食べたものは……


「この眼球はワイン漬けにしているんだ! ん~でもやっぱり眼球は上に飾り付けするべきだっただろうか? 君は少ししか食べていなかったからこれまでは到達していなかったみたいだが……実は眼球以外にも血液も練り込んであるんだ」

「う……うえぇっ……!」


 こいつ……迷い込んできた人間の身体を使ってケーキを作ったのか?気持ち悪い……血の入ったケーキを美味しいなんて……


「おや? どうして吐くんだい? 酷いじゃないか、さっきは美味しいと言ってくれたのに」

「じょ……冗談じゃない!」


 料理人を突き飛ばしドアノブに手をかける。


「か、鍵が……!」

「逃げちゃ駄目じゃないか。 今から君には材料になって貰わないといけないのに……君なら今まで以上にいいケーキが作れそうな気がするよ」

「い、嫌だ……」

「手伝ってくれてありがとう……女王様もきっとお喜びになる……!」


 料理人は包丁を僕目掛けて振り下ろした。


End.4『至高のスイーツ』

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