第15話
「つるが消えてる……」
門を覆っていたつるはどこかへ消えていた。これでやっと城の中へ入る事が出来そうだ。門の前に立つとぎぃっと鈍い音を響かせながら扉がゆっくり開いていった。
「お……お邪魔します」
城の中はしんとしており薄暗かった。
「静かだな……誰かいそうなものだけど」
どこからか微かに甘い匂いが漂ってきている。
「この匂い……お菓子?」
匂いの元を辿るとキッチンのような場所に着いた。ぐつぐつと煮えたぎる鍋の前に何者かがいるようだがその姿が見えない。あるのは宙に浮くコック帽と服だけ。透明人間なんだろうか。料理人らしきその人物は忙しいのかせわしなく動いている。
「……あの、すみません」
どうみてもおかしな住人の姿にもう戸惑わなくなってきた自分に少し衝撃を感じつつ声をかける。料理人がこちらに気付いたようだ。包丁を持っていた手を止める。
「おや? 君、こんな所で何をしているんだ? ここは関係者以外立ち入り禁止で……」
「えっと、鏡のある部屋って知ってませんか?」
「はぁ……鏡? 鏡なんてそこらじゅうにあるさ。 それよりも丁度いい、手伝ってくれないか」
料理人が目の前までやってきて僕の腕は掴まれたようだ。腕を引かれキッチンの中まで引き摺られる。
「えっ……そんな事してる場合じゃ」
「いいからいいから! 試食して貰うだけでいいんだ!」
「試食……?」
「私は女王様の専属料理人なんだけど女王様の口に合うスイーツというものがなかなか作れなくてねぇ……困った事に気に入らないと女王様は暴れ出して手が付けられないのさ」
料理人が大きな冷蔵庫から何かを取り出してきた。そして料理人が2つのクロッシュを持ち上げると豪華なケーキが目の前に現れた。
「ザッハトルテとラズベリーケーキを作ってみたんだが……両方試食してどちらがいいか意見を聞かせてくれないか」
「えぇ……」
「はっはっは! 毒なんて入ってないからそんな顔しないで!」
僕はあなたの表情が読めないから余計怖いんですけど……
僕は2つのケーキに目を落とした。つやつやとした黒に少しだけかけられた金箔が上品なザッハトルテ、まるでルビーの宝石のように輝くラズベリーのジュレが乗せられたラズベリーケーキ。2つとも見た目には特に変な所は感じられない。まずはザッハトルテから食べてみる事にした。恐る恐るフォークの先をケーキに刺し入れる。そして、1口。
「……美味しい」
毒は……なさそうだ。とろりとした少しビターで濃厚なチョコレートにしっとりとした食感。なんだろう……ほんのりと変わった味がする。
「こっちも食べてみてくれ」
「あ……はい」
今度はラズベリーケーキの方を見る。ラズベリーケーキというものを食べる機会があまりない為か先程よりも警戒してしまう。とりあえずこちらも1口食べてみた。色味の派手さとは裏腹に甘酸っぱく爽やかな口当たりでプチプチとしたラズベリーの果肉が入っていた。
「ど、どうだい?! どっちの方がいいだろう?!」
「どっちも美味しかったですけど……」
「両方じゃ駄目なんだよ!」
料理人の勢いに気圧され、2つのケーキを睨み付けるように交互に見る。さて、どちらが良かっただろうか……?
choice
『ザッハトルテ』→ep.16-1
『ラズベリーケーキ』→ep.16-2
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます