第14-2話『赤薔薇達を殺す』

 なんとなく腰のナイフに触れる。そして赤薔薇達を見て思ってしまったんだ。こいつらは血を流すのだろうか、と。普通だったらそんな思考には至らない。だけどこの時僕はこの世界ならばと考えてしまったんだ。気付けば僕は近くにあった赤薔薇にナイフを振り落としていた。甲高い悲鳴が上がり僕の足元に赤薔薇がひとつ落ちる。切り口から赤い液体が滲む。


「花殺しよ……!」

「恐ろしいわ! 人でなし!」


 赤薔薇達はがたがたと身体を震わせる。気にせず僕は落ちた薔薇を拾い上げた。当たり前だが薔薇はもう言葉も話さないしぴくりとも動かない。こうなればただの花だ……赤い液体を流す事以外は。先ほどの赤い液体は絞ればまだ出て来そうだ。僕は再びナイフを握り締めた。あちこちで赤薔薇達の劈くような悲鳴が上がる。僕はただ無心でナイフを振り続ける。いくつか薔薇を切り落とした後、僕はナイフをホルダーに戻し薔薇を集めていった。残った赤薔薇達はただ黙り込んでいた。


「……悪いな」


 僕は赤薔薇達に背を向け白薔薇の元へ戻った。


「おい」

「あら……戻ってきたの」

「これでどうだ?」


 白薔薇は僕の手の中にある薔薇を見て微笑んだ……気がした。


「……素敵ね」


 僕は赤薔薇を握り潰し赤い液体を白薔薇の根元へ垂らした。白薔薇は赤い液体を吸い上げ徐々に赤く染まっていく。全ての薔薇から赤い液体を絞り出す頃には白薔薇はすっかり赤くなっていた。


「ふふふ……美しい赤色……ありがとうアリス」

「どういたしまして……約束、守ってもらうぞ」

「勿論よ。 門のつるは退かしておくわ」


 白薔薇もとい赤薔薇を後にし、僕は城の入り口へ向かった。

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