第11話
出口だ!
慌てて扉へ駆け寄りドアノブを回す。しかし、扉には鍵がかかっていた。公爵夫人がいつの間にか掛けてしまったのか。
「まじかよッ……! 冗談じゃない……!」
すると公爵夫人の足音がゆっくり近付いてくるのが聴こえた。見つかればきっと終わりだ。僕は柱の影に一旦隠れて様子を見た。
「カタル君……戻ってきなさい……どうして逃げるの……カタル君……」
公爵夫人は虚ろな目をしたまま僕を探し回っていた。右手に鉈を持って。僕は公爵夫人の足音が消えるまで息を潜めていた。
「なんだ、あれ……やば……とにかくどこか別に逃げられる場所を探すしかないな」
僕は片っ端から開いてる部屋へ入ってみる事にした。するとぬいぐるみや人形がたくさんある部屋に辿り着いた。可愛いテディベアや高価そうで今にも動き出しそうな人形、大小様々あった。
「全部公爵夫人のかな……なんか、薄暗いせいもあってか不気味だな……あれ、これなんかチェシャにそっく」
「ばあ!!!!」
「?!?!」
チェシャ猫にそっくりなぬいぐるみはチェシャ本人だったようだ。思わずうわ、と声を上げそうになったのを必死で抑えた。
「チェシャ?! お前……なんでこんなところに?!」
「キシシ! これでもオレっち、飼い猫なんですヨ? ここにいるのも当たり前~でハ?」
「え?! お前、公爵夫人の飼い猫だったのか……?!」
「オゥイェ~ス」
チェシャは僕に首根っこを掴まれたままぱたぱたと手足を動かしている。
「まさか……僕を公爵夫人に売るつもりで?」
「売る? そんな事してオレっちになんの得がありますですカ?」
「でも飼い主なんだろ……?」
「オレっちが喋ると公爵夫人は大層お怒りになられるでース。 罰として口を縫われるのですシ~」
そんな事を他人事のようにニタニタ笑いながら話すチェシャ。口にある荒い縫い糸も今まで公爵夫人に……?
「そんな事よりここから逃げたいんですシ~? 」
「あ、あぁ……」
「だったら秘密の抜け穴を特別に教えてさしあげマショ~♪」
「本当か?」
「相棒の為ですヨ♪」
いつからこいつは僕の相棒になったんだ。
「これを渡しておきマース」
チェシャからどこかの鍵を受け取った。
「これ、どこの鍵だよ」
「ダイヤの窓のついた扉を探すでス」
チェシャは呑気に毛繕いをしている。
「それで外に出られるのか?」
「それハ……」
チェシャは黙り込むと突然僕の身体をぐいぐい押し出した。
「な、何してんだよ!」
「公爵夫人が来るでス……そこで大人しくしとけでス」
僕は急いで人形が飾られた棚の影に隠れた。その後すぐ足音が扉の前まで近付くとゆっくり開かれた。
「あら、シャルル。 貴方、こんな所で何をしているの? また勝手に出ていったのね、悪い子」
「……きしし。 公爵夫人、いつにも増しておっかない顔ですネ」
突然チェシャのすぐ側の床に鉈が振り下ろされ、突き刺さる。
「相変わらずお喋りね? シャルル……また口を縫われたいの?」
「キシシ……」
目が笑っていない公爵夫人とは真逆にチェシャは随分と余裕があるようだった。怖くないのか?
「全く……今は忙しいのよ。 大人しくしててくれないかしら? 私を困らせないで頂戴」
公爵夫人はチェシャの首根っこを掴み部屋を出て行こうとした。するとチェシャがそっと小さく呟いた。
「青の後ろ……右2つ」
足音が遠ざかっていく。公爵夫人はチェシャを連れてどこか別の場所へ行ってしまったようだ。チェシャの最後の言葉は何を示してるんだろう。とにかくダイヤの窓のついた部屋を探そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます