第4話
草の隙間をくぐり抜けただひたすらに真っ直ぐ突き進む。扉を抜けても身体の大きさは元には戻らなかった。どこを向いても巨大な雑草が森のように生い茂っているばかりだ。変わらない景色にうんざりしかけた頃、どこからか薄桃色の煙が流れてきた。強烈な香水のような匂いの煙に思わずむせ返る。
「ゲホッ……なんだこれ」
袖で口を多い、煙の流れる方向へと歩を進める。すると巨大なきのこがあちこちに生えた場所のその中に丁度ベッドサイズのきのこの上で水パイプをふかしているイモムシがいた。現実ではないだろうとは薄々感じてはいたが有り得ない光景に暫し唖然としてしまった。声を掛けるべきか否か迷っていた僕の存在にイモムシは気付き大きな頭を徐に持ち上げこちらを見た。実際目かどうか分からないので見ているのかは確認出来ないけれど。
「おやぁ……そこにいるのは『アリス』じゃあないか……」
アリス?僕の事を言っているんだろうか……
「人違いです」
「もしかして迷ってんのか~い?」
「あの……」
「これ? これは水パイプだよ~君もやってみる? 気持ちいいよ~?」
……人の話を聞かないイモムシだな。
「ここは一体どこなんだ?」
「まぁ敢えていうなら『鏡の世界』だなぁ……」
「『鏡の世界』?」
「そ~後は私もよくは知らないから知りたきゃ自分で勝手に調べなよ~」
イモムシは吸った煙をふぅと僕の顔に吹きかけた。激しく咳き込みながら口を押さえぱたぱたと手で煙を散らす。文句の一つでも言ってやろうかとも思ったが、そんな事で時間を潰すのも勿体無い。
「……じゃあ元の大きさに戻りたいんだけど、方法を知ってる?」
「そこのきのこをひと欠片だけ食べてみるといい」
イモムシは水パイプで僕の後ろの方にある小さめな青いきのこを差した。見た目からして食欲が失せる色だ。
「不味そ~……」
相手はイモムシだが、嘘をついている感じには見えない。とりあえず信じてみても良さそうだ。
「あの……教えてくれてありがとう」
「ありがとうなんて久しく聞いたなぁ」
イモムシはそれだけ言い再び水パイプをふかし始める。食べるのに多少躊躇してしまうが僕は勇気を出し、きのこを毟り取り口の中へ放り込んだ。口の中がぱさぱさする……あんまり美味しくない。さっさときのこを飲み込んだ。するとまた先程のような頭痛に襲われた。気付けばすっかり身体は元の大きさに戻っていた。イモムシがいたであろう場所を振り返ってみたがそこにはイモムシの姿もきのこも無かった。
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