第3-1話 『飲む』

 せっかくだし飲んでみようか?こんな場所にこれだけを置いているなんて何かきっと意味があるはずだ。少し鼻を近付け匂いを確認する。ほのかに甘いお菓子のような香りが漂ってきた。今まで嗅いだ事のない香りに思わず唾を飲み込む。これを飲み干したら瓶を割って鍵を取り出そう。僕はそっと小瓶に口を付け、ゆっくりと喉へ流し込む。どろりとした食感。けれど、思ったよりもしつこくない甘さ。


「……なんだ、特に何も起こらな……」


 ぽたりと何か赤いものが床へ垂れた。さっきの液体だろうか。


「……え?」


 違う、これは、僕 の 鼻 血 だ。


「おか、しいな……あれ……?」


 ぼたぼたととめどなく溢れてくる。僕の目の前はすぐさま紅く染まっていった。


「何っ……これ……止まらなッ……?! う゛……っ! おえ゛ぇ……うぐぅッ」


 胃の中が焼けるように痛み、身体が拒否反応を起こす。痛みと同時に脳を直接弄られるような気持ちの悪い感覚が襲い、内容物を全て吐き出した。


「え゛、ぅッ……!」


 頭がぐらぐらして前が見えない、身体に力が入らない、息が出来ない。寒い。


「や゛……た、だすげッ……」


 苦しい怖い怖い嫌だ助けて怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


「じ……、だぐな……」


 弱々しく伸ばされた手はぱたりと糸の切れた人形のように落ちていった。


End.1『idiot』

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