第70話 王都までの道のり

 結婚式という大イベントが終わった2週間後、リオと双子は入試のために王都へ向かうことになった。

 北部の地域が雪で閉ざされる前に入試があるので、この時期なのだ。

 

 行程は来た時と同じように、3日間はイマール家の馬車、王都付近からマイヤーの手配した馬車となる。

 もちろん、プイッとしてから、あまり話さなくなった双子も一緒だ。


 本当、拗ねたら拗ねっぱなしなんだから。かと思ったら普通に話しかけたりしてくる。

 こりゃ、将来彼女になる子は振り回されるね、可哀想に。いや、もっと振り回すような彼女だったら…子虎とか?


 そんなことを思いながら、王都までの馬車の中で、双子を睨む。

「何、睨んだんだよー、リオよー」

「あぁ、そうか。睨んだ顔も可愛いよ」

 そう言って、ゲラゲラ笑い出す。

 いやいや、君たちがはじめにプイッって膨れっ面したんだからね?


 本当何が『そうか。可愛いよ』だよ。そんな言葉望んでいませんと、リオも双子を見習ってプイッとする。

 君たちが所属したがっている、第三騎士団の底光りする瞳のカイル隊長に、雷でも落として貰えば良いのに。

 …でもこういう奴らに限って、案外上手くやるんだろうなぁと思う。


 リオが余計なジレンマに悩まされている間に、3日間は何事もなく宿屋に到着した。

 イマール領地内、最後の一泊をして、マイヤーが用意した、クッション多めのメルヘン馬車に積荷を載せ替える。

 やはり、馬車はピーターが御者席にいた。


「お嬢様、立派になられて」

 立派も何も、そこまで一緒にいた仲じゃないのにと思いつつも、貴族社会のルールだと受け止める。

「ピーターさんもお変わりなく」

「なんだ?知り合いか?」

 ケニーが聞いてきたので、行きに送ってもらった事を告げた。

「ふーん」

 気のない返事だったし、ずっと冷たい態度をとられていたので、馬車内が居心地悪く、前のように御者席に乗せてもらうことにした。


 少し走ると、中からサントスが、

「何故、御者席に乗るのだ!」

 と騒いだので、一旦馬車を止める。

「色々な景色が見えるし、ピーターさんともお話ししたかったので」

 と言っても、

「景色なら窓から見える!」

 の一点張りで、言うことを聞かない。

「そんなに言うなら御者席乗れば?」

 と、言ったことが原因で、今4人とも御者席にいます。


「こんなに見晴らしが良いと思わなかったぁ〜、リオちゃ〜ん」

「リオ、なんで早く言わなかったんだよ〜ぅ」

 その気持ち悪い甘え方、やめて下さい。そりゃ、一時、君たちがヘコんだ時には、調子の良い状態が恋しいなぁとは思ったけど、そうじゃない。

 ピーターはそんな2人に苦笑しながら、過去の騎士団の話をする。

 

 結局、4人とも御者席に乗ったまま、王都近くまで辿り着き、流石に王都では変に思われるので、馬車の中へ戻る。

「いや、なかなか、変わったおなごのするこたぁ、違いますな」

『むむ?変わったおなごは私の事ですかい?』

 心の中で質問して、ケニーを睨み見る。

「ですな。でも、変わっているからこそ、見える視点も違う。な、リオ」

「んだなー。俺たちが騎士団行っても、会うことはあるだろうし、兄弟だから仲良くしようぜ!」

 何となく上手く纏められてしまったが、仲良くするに越したことはない。


 しかし、今まで君たちの態度は解せん事が多かったので、一発かましてやらんと気が済まない。

「ま、王都はわたくしの方が先輩ですけど、どうぞよろしく」

 双子はツーンとすましたリオを見て、一瞬ポカーンと口を開けた後、大笑いした。


「はいはい、着きましたぞ?」

 ピーターに言われ、双子が先に降りる。ぼけーっと高い塀周りを見渡し、2人は顔を見合わせた。

 懐かしの王宮前である。

「ケニー様、サントス様は騎士団寄宿舎の方へ、お嬢様は研究員の女子寮ですかな?そちらの方へ。あ、マイヤー様の執事が参りますから、お嬢様はこのままお待ち下さい」

 ピーターはキョロキョロする2人を促して荷物を持ち、寄宿舎の方へと向かっていった。


 ピーターは、そうじゃ!と振り返って

「お嬢様が武運を!」

 と言って軽くウインクした。

 双子2人もにこやかな顔で振り返って、

「試験落ちるなよー!」

「またなー!頑張れよー!」

 と、大きく手を振った。

「2人も頑張ってねー!」

 そんなリアクションされるとは思ってなかったので、リオも慌てて手を振りかえした。

「「おう」」

 2人は顔を見合わせて、クスクス笑いながら遠ざかった。


 気配を感じて振り返ると、マイヤーの執事が真後ろに立っていたので、リオは驚いてキャっと声を上げた。

「あ、驚かせてしまいましたね、すみません」

「いえいえ」

「では、参りましょう。お荷物はこちらですね。お持ちします」

 執事はダンディな微笑みを向ける。

「ありがとうございます」


「試験は明日の朝からです。今からお部屋の入り口までご案内致します。試験時間、場所につきましては、カウンターに受付がおりますのでお声掛け下さい」

「はい」

 ダンディ執事の後からリオは付いて行く。以前より少し景色が変わったように見えるのは、背が高くなったからだろうか。


 騎士団女子寮と研究者女子寮の間の中庭を抜け、玄関前に立つ。

「では、リオ様、どうぞご武運を」

「ありがとうございます。マイヤー先生によろしくお伝え下さいませ」

「主人も会いたがっておりました。どうぞ、お時間をお作り頂きますよう」

「はい、是非に」

 深く一礼してからニコリと微笑み、去って行った。


--------------⭐︎--------------


「リオ・イマール様、お待ちしておりました。お部屋にご案内致します」

「よろしくお願いします」

 二階に続く廊下は少し様変わりしていて、正面の絵画や花瓶の配置などが違っていた。

 見知ったところでも3年経てば別世界になるものねと、そんな風にリオは思った。


「こちらのお部屋でございます」

 通されたのは、以前の平民用小部屋から離れた、より位の高い貴族の部屋の近く。

「ありがとうございます」

「お部屋内部の設備、魔術パネルについてはご存知でしょうか?」

「はい、存じております」

「左様ですか。では何かお困りの事がございましたら、受付までお申し出下さいませ。本日夜7時に夕食が参ります。また明日は研究棟第四実験室にて朝8時半から受付開始、9時から試験開始にございます。7時半時頃に朝食が参りますので、それまでにご用意下さい。それでは失礼いたします」

 受付はそう言い切った後、一礼し、そそくさと部屋を出て行った。

 リオは忘れないうちにメモする。

「えーっと、第四実験室に8:30から受付、9時からテスト、今日7時にご飯。あー!朝ごはん何時だったっけ?」

 もうすでに記憶テストで試されている気分だ。


 今、何時だ?

 部屋の時計を見ると14時。お昼食べてない…、でも一食くらい良いかと旅行鞄から、羊皮紙と草を取り出し、涼しそうなところへ置いた。ずっと鞄の中に入っていたから、草がグズグスになって湿気る事が気になっていたのだ。


 これで心置きなく御宅拝見なみに部屋をチェックする。

 前回はワンルームに衣装部屋が付いた感じだったけど、今回は小さなキッチンダイニングの部屋とベッドルームが分かれており、一部屋増えて内装もすごく豪華になっていた。

 衣装部屋に持ってきたフリフリの服を掛けようと扉を開けた。

 

 中には、ローブが3着とシンプルな足首丈ワンピースが5着。棚の上に紙が置いてあり、何か書いてあった。

『おかえりなさい、リオ。ディアナの服の服のセンスは分かっているわ。あれでは仕事に差し障りがあるので、この服を着て下さい。試験、がんばってね。マイヤーより』


 マイヤー先生、ありがとうございます。調合する時、フリフリの袖では確かに難しかったです。


 でもディアナ厳選のフリフリワンピースも衣装部屋に掛けておく。時間があればフリフリ部分を外して、リフォームするつもりだ。

 でも今はそんなことより試験よね。


 リオは鞄に入っている紙綴りを取り出し、今まで習ったことを再確認した。

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