第69話 ジョバンニとメイリンの結婚

 早朝、ユーリが王都へ旅立ったとディアナから聞いた。急な王都からの招待だったようだ。

 時期に雪に閉ざされる季節になるので、その前に呼び出しがあって良かったと、ダルトンも安堵していた。


 ユーリとは、それまでに何回か話す機会はあったが、自分よりも親や兄弟と話したいだろうと遠慮していた。


 それでも少し話せたのは、必ず試験に受かって王都へ行くことを約束したことだ。その時も、ユーリはリオに何かを言おうとするのだが、ただ優しく微笑んだだけだった。


 多分、ユーリは兄貴として何か気の利いた事を言いたい気持ちがあったのかも知れない。

 しかし突然出来た妹に、どう接して良いものか分からないような表情だったかな?とリオは思う。


 でも、良く考えたら急に兄貴が出来て、こちらもすぐに妹っぽくなれないように、向こうとしてもすぐに兄貴になれるわけではないのだろう。それでも何かと気をかけてもらったのだ、とても有難いと思った。


 昼食後、戸口から聞こえたノックにメイリンが早く来たのだと思い、ドアを開けた。

 立っていたのはダルトンの執事。

「こちら、ユーリ様からでございます」

 執事が手渡してくれたものは、山や森の中でしか取れない、草や木の実、花のドライフラワーだった。

 乾燥も丁寧にされているのか、色褪せずに自然さも保たれていた。

「ありがとうございます!」

「いえいえ、それはユーリ様に」


 ドライフラワーの加減から、草花は約1週間前に摘み取られた物と推測する。

 そんな前から用意してくれていたなんて…。

 リオはすぐに机の横の帽子かけに吊るして飾った。


-------------⭐︎-------------


「リオ、俺たちも王都へ行くんだぜ?」

「何驚いた顔してんだ?鳩みたいだぜ」

「「鳩!!!あはははは」」

 ケニーとサントスは相変わらずリオに絡んでくる。


 あれから2年経ち、日々の努力の賜物で、双子はダルトンにも認められる存在になっていた。

「それを言うなら、鳩が豆鉄砲食らったような顔でしょ?!じゃなくて、王都へ行く?」

その事を聞いたのは、テストを受ける年の春になった時だった。


 リオも双子も15歳になっていた。低年齢入試ができるギリギリの年齢だ。

「研究員として行くの?」

「いや?俺らは騎士団として。ユーリ兄さんは王直属騎士団でエリートだけどな」

「俺らの希望は調査隊希望だから第三かな?」

 第三騎士団ならリンクがいる部署だ。

 懐かしいなぁ、とリオは思った。

「とにかく色々なところへ行ってみたいんだよな」

「そうそう、小さな村から大きな都市まで、とにかく行けるところなら何処でも」

 すごい!2人とも夢がある。その前にまずはテストに受からないと。


「じゃあ、問題。エルレティルノ国、東部侯爵家の名前は?」

「こんなのは出来て当たり前だよね」

「ウィンストーン家」

「正解!」

 そんな風にお互い問題を出し合ったりして子供達とサロンで過ごしたりした。


-------------⭐︎-------------


 今夏は、ジョバンニとメイリンの結婚式があった。

 ジョバンニ、メイリン共に19歳の初々しい新婚夫婦である。

 王家と教会への報告、また儀式等は大人達だけで済ませる風習だ。ユーリもこの時は1日ほど戻ってくる予定となっていた。


 子供達全員へは庭園のガーデニングパーティでお披露目される。

 緑の葉が生茂る庭園で、薄い青色のドレスを着たメイリンは清涼感があり、とても綺麗だ。

「メイリン先生、おめでとうございます」

 10歳になったミリィと共に庭園で育ててきた、ピンクのスイトピーを花束にしたものを渡す。

「うわぁ、可愛らしい色ね、ありがとう」

「こちらこそ、お勉強を根気よく見てくださってありがとうございました。大変お世話になりました」

「何言ってるの、リオちゃん。これから姉妹になるのよ?」

「そうですね!今後ともよろしくお願いします」


 次々と子供達からメイリンへの挨拶が交わされ、ケニーとサントスが邪魔だとばかりにリオを横へ押しやる。

「先生のマチェットの使い方忘れないよ!」

「先生、元気な赤ちゃん、産んでよね」

「サントス、それはまだ早いわよ」

 白いフリフリのドレス姿のディアナが、後ろからサントスを見上げている。

 双子はディアナを充分見下ろせる高さとなっていた。今、ディアナと同じ身長なのは10歳のミリィである。


 リオもそこそこ長身で、これがイマール牛ハンバーグの威力かと思わせるほど、体格も良くなっていた。ジェリスほどではないけれど。


 ほら、あの人は、この世界の不二子ちゃんだから。


 これじゃあ、男装して地方を回ることは出来ないなと思った。

 あの時、男装薬師として全国を回る旅について『出来る・出来ない』で言い合ったルーカスは、先見の明に長けていたのではないだろうか。


 お披露目式は子供達で歌を歌ったり、作文を読んだり、ケーキを食べたりして、とても和やかな雰囲気だった。


 家庭的な可愛らしいお披露目式に少し感動していると、後ろから声を掛けられた。

「リオちゃん?」

 振り向くと、少し日に焼けた男性が立っていた。身長も高く、体型もガッチリしている。王都騎士団の白い制服を着ていた。もしかして?

「ユーリお兄様??」

 この世界にスマートフォンがあったら、写真を送ってもらって成長を段階的に見ることが出来るのだが。

 ミリィが縦横共に2人入りそうなほど、大きくなられて…。

「ユーリ兄さん、久しぶり!」

「兄さん、すごいマッチョになって!」

 双子がユーリの肩や腕を触って、筋肉の状態を確かめた。驚異的に胸板が厚くなって、細かった手足は何処へやら、どこをどう見ても立派な騎士です。

「随分鍛えられたからね。あー、それとウィガー副隊長がリオちゃんによろしくって」

 ウィガー?誰だっけ。第一騎士団といえば…あ、キツネ目のフラッとした人!

「こちらからもよろしくおっしゃって下さい。そういえば、ユーリお兄様。ハンバーグ祭りはありましたか?」

「あったあった、4回あった」

 ユーリはキラキラとした笑顔で、以前のようにクスクスと笑った。

 1回目、2回目共にチーズ、3回目は玉子、4回目デミグラスソースだったと話してくれた。

 リオがウィンナーを当てたことを言うと、次は当てる!とユーリは意気込んでいた。

 双子は興味津々にそれを聞き、ますます行きたくなったような顔をしていた。

「でもイマール牛の方が美味しいですよ!」

 そう言ってみんなで笑い合った。


 ユーリはお披露目式後、またとんぼ返りで王都へ戻っていった。

「王都の騎士団は人使いが荒いのねぇ」

 ディアナはとても不満そうにユーリを見送った。

 

 夜は結婚披露式…式典ばかりだが、朝は儀式有りの親族大人のみ、昼間は子供達が参加できる身内でパーティ、夜は儀式なしで招待客有りの大舞踏会となっていた。

 何処の世界も結婚式は本人もだけど、親も大変だと思う。


 リオと双子はデビュタント前なので参加できず、子供達とサロンにいた。

 お互いに質問を出し合って過ごし、眠たいと思った頃、物凄い金のフリフリのドレスを着たディアナに、

「いい加減、寝なさい!」

 と、怒られたのだった。


 双子は金のドレスを見て一瞬怯んだ後、事もあろうか金豚と茶化して笑っていたけど。

「頑張って、みんなを出産したから体型がなかなか戻らないのよ。お母様に感謝しなさいよね!」

 リオの言葉をどう思ったのか、双子はプイッと膨れっ面を背けて部屋へ帰っていった。

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