第71話 研究員への試験 1
『はぁ、緊張する…』
受付嬢に言われた時間通りの予定をこなし、シンプルなワンピースを着て、研究棟第四実験室に来たわけだが…。
扉を開けると円形状の講義室で、下段中央に講義台があった。
あ!ここは昔、可視テストをしたところだ。懐かしい!
教壇にシャインが居て、あそこからルーカスが入ってきて、あそこにリンクがいて、後ろでジェリスと共に見ていた…。そしてジェリスに絡むキツネ目の副隊長。
あの日のことが、もう随分前のことのように思える…。
両手を組み、キラキラと目を輝かせ、懐かしいのポーズ!
と、思ったけど、後ろに人が並んできたのでキョロキョロしながら、受付した時の番号の席を探す。
58番、58番…。
結構、後ろの方の席だった。
リオで58番ということは、58人は試験を受けるってこと?毎年2、3人しか受からないって聞いたから、ものすごい難関じゃない?
フード付きコートを脱いでから、58番の席にリオは座った。筆記用具を出し、要点を纏めた紙綴りに目を通す。
隣の席の57番の子が座った気配があったが、要点を見返していた。
何となく視線を感じたので、隣を見る。
「どーも」
黒髪の男の子は、微笑みながらそう挨拶した。凄く大きい瞳の綺麗な、整った顔の子だった。低い声を聞かなかったらショートカットの女の子と間違えそう。
「…よろしくお願いします」
何をよろしくなんだかよく分からないけど、小声でそう言っておく。
「ねぇ、それ何が書いてあるの?」
筆記用具以外、何も持ってきて居ないのか、机に片膝をついてリオを見ていた。
「今まで習ったところの要点…です」
「へぇ?結構真面目な感じ?…そんな声だったんだ、可愛い感じだね」
ん?どういうこと?リオの雰囲気から、真面目じゃなさそうと推測していたとか?
いやいや、それより、何?声の可愛い感じって。ダミ声を出すと思われてた?
気を取り直してリオが再び要点に目を通していると、隣からぶつぶつ聞こえる。
「一問目、同盟破棄の年代。二問目、薬物調合法の第8条について、三問目、連立方程式について、四問目、魔術属性の…」
リオは思わず57番を見た。目が合うとニコリと笑う。
危ない奴じゃないでしょうね…?
とは思ったものの、リオは57番の言葉が何となく気になって調合法第8条を見返す。これ、よく引っ掛け問題になっているからとメイリンが指摘してた問題だ。
連立方程式は大丈夫だから、あと何を言っていたっけ?同盟破棄の年代?
リオは57番の呟いていた要点を見返し、正面を向いたところで試験監督が入室してきた。
みんなバタバタと紙綴りを仕舞う。
「頑張ろうねぇ〜」
57番が小さな声で笑いながら言った。
問題用紙が配布される。
「試験監督は開始時刻を合図するまで開けないでください」
なんだか前世のセンター試験のようだ。
「解答用紙を配布します。配布された方は、受験番号、氏名を記入すること」
うわー、緊張する。
リオはネックレスの指輪達をギュッと握って力を下さい、とお願いした。
「はい、始めて!」
号令がかかると同時に、みんな一斉に試験問題を開いた。
え、何これ…。
さっき、57番が言っていた問題がそのまま出題されている。
試験問題を事前に盗み見たとか?
とにかく今はそんなこと言っている場合じゃないから、とにかく問題を解いてしまわないと。
--------------⭐︎-------------
記入式試験は終わり、昼からは面接試験。
メイリンが友達の研究者から聞いていた内容がそのまま出題されたので、考えていた通りに話した。
まるで就活時の面接のようだった。
次は隣の実験室に移動して、ダンス。何故かダンスがある。だからケニーの足を踏みながら頑張って来たのだが、今頃あの2人はどうしているのかなと考えた。
試験を無事解けたのだろうか?実技の剣技は真っ当なものを出せたのか、心配になる。サントスは、あのぶよぶよの剣とか出してないでしょうね?
「あ、今、思い出し笑いした?」
57番がリオを見てニヤニヤ笑う。
「兄弟のこと考えてる?大丈夫だよ、多分ね」
「!」
リオの反応を見て、更にニヤニヤする57番。
君はいったい何者なんだ。もしかして、脳内を読み取る能力者とか?
え、なにそれ怖い。
いやいや、ここは漫画の世界だとしたら、なきにしもあらず…ですよね?
何かの実を食べたら、そうなったとかあるかも知れない。そういう漫画がありましたよね?
脳の中実の能力者現る?!でも、脳の中実っていう果実があったら、なんだかモニャモニャしていて気持ち悪くない?
とか、考えてたら筒抜けになる?
この57番の子は、まだあどけなさの残る可愛い顔して、実は諜報部員で闇の魔術を追いかけてるとか?
それなら困るので、カピバラがチョウチョを追いかける映像を頭の中で流しとこう。
そして読み取った57番に、なんて素敵な平和な映像、って思わせておこう。
リオはウムムと唸って、順番が回ってくる間中、カピバラを頭の中で踊らせ続けた。
「ほら、次の番だから」
1番と2番がダンスの組み合わせ、となると、57番と58番はダンスの組み合わせとなる。
リオは57番に手を取られて、中央に立ち、審査員に礼をしてから体勢を整えた。
57番にキュッと腰を支えられる。
びっくりするほど顔が近くにあって、少し胸にもたれるように俯いた。
「行くよ?」
「よ、よろしくお願いします」
身長差がちょうど良いのか、支え方が良いのか。リオはクルクルと上手く踊れる。サントスよりも上手い。
隙を見て見上げると、すかさずこちらを見て灰色の瞳を細める。
その…、なんだか懐かしそうな顔で見るのはやめてください。
ハッと下を向くと「姿勢、姿勢」と小声で注意される。だからただただ、心を無にして見つめる。
2周ほどぐるりを回り終え、一礼してフロアから離れた。
「ありがとうございました」
リオが挨拶すると、
「こちらこそ」
と言って微笑んだ。
今日の試験はこれで終わり。この試験に受かった者が、次回の試験を受けることが出来るという説明を受けた。結果は明日の昼に分かるので、1日置いて次の日が、また試験だ。
リオが寮に戻ろうと立ち上がった時、57番が小さくウインクした。
「またねぇ〜」
大きめのフード付きコートを着ているのか、手を萌え袖にして4本だけ指を出してバイバイをした。
ささ、立ち上がって、帰りましょう。今、無心だったと思うけど、もしかしたら何か心を見透かされているかも知れなくて、それが怖い。
リオは曖昧に笑って、一礼をして寮へ向かった。
もちろん、脳内はカピバラがチョウチョを追いかける映像である。もう、脳内のカピバラも元々あまり活動的じゃないのでヘロヘロよ。
実験室から部屋に戻るまで想像し続けて、リオはくたびれた。
明日、結果は受付嬢が手紙を持ってくるとの事。
リオはワンピースを脱いで部屋着に着替え、ベッドの上に大の字になった。
ご令嬢はそんなことしてはいけません。メイリンの声がきこえてくるようだった。
こんな格好だけど、メイリン先生、ありがとうございました。多分、記入問題については大丈夫だったと思われます。
本日は、全力を尽くしたので燃え尽きてしまいました。
また明日から頑張ります。
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