第64話 スイングウィップ

 さて、裏手に回ったものの、誰が1番攻撃を仕掛けるか悩む。というのは、1番に攻撃した人がターゲットになりやすいからだ。

「私、風」

 と、メイリン。

「俺、土」

「俺は水」

 と、双子。

「私、闇」

 と、リオ。


「「「やみー?」」」

 属性をオープンにする事で解決出来るかと思ったけど、私のカミングアウトでさらに困難を来す。

「闇って何?リオちゃん」

「闇って何系よ」

「だから闇系じゃね?」


「あ、でも、今、火も出そう」

 そういえば、火系のトカゲ、サラマンダーのサラちゃんを持っていたことに気付いた。

「「「何それ?!」」」

「そんな、トイレ出そうみたいな…」

 ちょっと潔癖症のサイモンは露骨に嫌そうな顔をする。

「良いじゃん、訳分からんけど、何?火が?出そう?何それ、あはははは」

 最後は楽しければ良いが理念の男、ケニーがお腹を抱えて笑う。


「じゃあ、リオで。火力万歳」

 あらかじめ、弦をかけたところに矢をつがえる。

「こう?こうするの?」

「そうそう。そして狙いを定めて、そうそう、そんな感じでトリガーを引…」


 ビョン!


「おま、あぶねっ!」

 ケニーがリオから飛び去る。

「ははは、ごめんなさい」

 はははじゃねーわ、とサイモンに怒られ、メイリンは目をパチクリさせる。

 

「ヴイーーーーーー!」

 破壊力のある声が草原に轟き、一同が木に視線を向ける。

「「「「動いたーーーー!」」」」

 ミシミシと木の擦れる音をさせながら、上部の葉が揺れている。

「リオ、もう一回、射って!」

「木が屋敷の方に行ってる!」

 リオはケニーに受けた説明を思い返して、弦を掛けるために、ここに乗せて…と、もたもたしながら何とかセットした。


 狙いを定めて、トリガーを引く!

 ビョンッ!


 勢いよく矢が放たれ、木の背中に刺さる。ゆっくりと木の幹にある顔の中心が動いて、目が開いたように見えた。

 その瞬間、モワモワと濃い紫の煙が漂う。

「起きたーー!」

 ぐわんと振り向きざま触手のような腕が一瞬伸びてきて、それがシュルシュルとまた元に収まる。

「うわぁ、伸縮自由自在?」

「そうみたいね。あの腕…?あ、枝か。枝を切らないと、当たると…痛いわよね」

 メイリンが隣で呟く。


「しかし、どうやって枝を切るよ?」

「切っても復元するんじゃね?」

「え、マジ?」

「知らんけど」

「知らんのかーい」

「そんなのよく魔族にあるじゃん、常識」

 双子もゴソゴソ相談し合っているが、まとまらないようだ。


 確か、鳥退治した時、ルーカスは木に布を巻きつけてたいまつにしたはずだ。

 射る矢が炎に包まれていたら?


 リオは小型ナイフを取り出して、スカートについている余分なフリルを切り取った。

 それを矢ジリの下に巻く。油分が足りないと燃え移らないかもしれないので、髪の毛を少し長めに切った。

 今日は侍女に椿オイルを塗ってから結ってもらったので、無いよりかは着火剤になるはず。


 火をつける前に、クロスボウの再セットをする。段々と慣れてきた。

 矢を番えてから、手をかざして火を付ける。

『サラちゃん、お願い』


 ん?手から出ない?


 え?発動しない?ずっと隠していたから拗ねたとか?

 握ってないとダメとか?いやいや、ぴん子は髪の毛にパッチンしただけでなるじゃんね?

『サラ様、お願い致します』

 改めて低姿勢でお願いする。


ボッ!と点火。

「わわ、火!」

 慌てて矢の布を押さえる。火が燃え移って、『もう火はいいです』とサラちゃんに断る。

 うはっ、敬語じゃないとお願い聞いてくれないタイプ?


 手から火が消えたので安堵しながら、狙いを定めて木に射った。

「リオ、本当に火が出せたんだな!」

「嘘だと思ってたぜ!」

 双子がリオに満面の笑みで駆け寄る。

 面白いおもちゃを見つけたような目つき、2人ともワクワクを抑えて頂きたい。


 上手く枝の部分に火矢が突き刺さり、残り火が葉の部分に燃え移ろうとしていた。

「良かったわね!枝に上手く点火したわ!」

 メイリンが叫んだ途端、火のついた枝がビョンと伸びてくる。

「そのまま、こっちへ!」

 誘導させるために双子は剣を抜き、伸びてきた木の枝を払うように切って行く。

「枝伐採ならナタの方ができそうだ」

「オノの方がいいんじゃね?」

 2人は剣に指を添わせ、ケニーは土系でオノに、サントスは水でぶよぶよに覆われた剣を作った。

「サントス、お前、それ失敗じゃね?」

「わっかんねぇべ?」


「また、枝が来るぞーぃ!」

 ケニーが叫んで土系のオノを野球のバットのようにスウィングさせる。

 バラバラと小枝が折れて、シュルンと枝が縮んだ。

「どーよ!」

 木の枝は片側だけ葉が無くなる。

 ケニーがメイリンとリオをドヤ顔で振り返った。特に反応は返さない。

「んじゃ、俺次やるわ」

 どりゃー!という叫び声と共にぶよぶよの剣を真正面から叩き込む。

「はぁ?どういうことよ」

「正面から??」

「縦切り?」

 見ていた全員が息を飲み、行く末を見守る。

 ぶよぶよだった水分は宙へ舞い上がり、握り拳大の玉になって木に降り注いだ。かなりの大技だ!


 バタバタバタバタ!


 大雨がトタンに打ちつけるような轟音がして、木全体の葉が全て落ちた。そして、リオが着けた火も消えた…。辺りは木の落とした葉だらけになった。

「やった!ほら、ケニーより多く落とした!」

 嬉しそうに振り返るサントス。


 違う!そうじゃない…。


 全員がそんな顔をする。

「サントスくん、葉じゃなくて枝を落として欲しかったんだけど…」

「ずっと、言ってたよな?枝をどうやって落とすかって」

「えー?そうだったっけね?」


 舞い上がった葉の一部が、リオの前に落ちて来た。

 それを拾い上げて、形状を見る。葉にしては、少しぶ厚くて多肉植物のよう、匂いはミントっぽい。


 そんなことを確認して、リオはスイングウィップの葉をポケットに入れた。


 葉を打ち落とされて、丸裸にされた木の顔は少しムッとしているように見えた。

 そのムッとした顔でリオの方へ、ドスンドスンと近寄ってくる。

 今まではアフロヘアーのおじいちゃんという感じだったけど、今は丸坊主のお坊さんという風体だ。

 怖い!

「山際まで、引き付けるわよ!」

 メイリンの声に、みんなが山を目掛けて走り出す。

 その時、長縄をぐるぐる回して馬に乗ったペルルが現れ、軽く木の枝に括り付ける。


「ナイス、ペルルさん!」

 ケニーの声に、ペルルは日に焼けた渋い顔で口端だけ笑い、木の周囲を回って巻き付けようとしていた。

 だが、木は枝を反対方向へ伸ばす。

「ペルルさん、危ない!縄を離して!」

 ペルルは手首に巻き付けていた縄を、腕を振って解いた。

 木の枝に巻き付いた縄がヒュンという音をたてて、リオ達の横を通り過ぎる。

 もう少しで、馬に乗ったペルルさんごとリオ達の前に引きずられて来るところだった。


 縄はそのまま木の幹に当たり、右枝と幹とを何周も巻き付けた。

「危なかったけど、上手くいったか!」

 どうどうーと、馬をいなしながら、立ち止まり、木に向けて振り返った。


「片方の枝は何とか使えなくなったな!」

 嬉しそうに双子が駆け寄る。

「いや、それより変じゃないか、このスイングウィップ。葉が一つもない」

 ペルルがお化けでも見たかのような顔で木を見た。

「ああー!そうだ、あの木、スイングウィップっていうんだったーー!」

 メイリンが悔しがる。自分で思い出したかったらしい。


「あの葉っぱをなくしたのはサイモン」

「そう、俺。すごい」

 双子は得意そうな顔で笑った。

 ペルルはそんな2人を残念そうな顔で見下ろす。

「じゃあ、どうやって倒しますか?」

「ん?枝を切り落として、幹を縦切りにするんじゃないの?」

 はぁ…、ペルルはため息をつく。

「主上に怒られることを覚悟された方が良いかも知れません。あの落としてしまった葉は風系で乾燥させたら、良く燃えるのです」

「あっ、そうか!それで枝が更に風を巻き起こし、勝手に燃え広がってくれたのね」

 ああー、とメイリンが嘆く。


「葉が落ちたスイングウィップを倒したことはないですからね、どうしましょうか。山の中まで誘導するにしても…」

 ペルルが続ける。

「山を降りてきたら最後。自分の重みでもう登る事はできないし、かと言って草原には置いておけないし、それに葉から増殖するし…これは困りました」

「「葉から増殖??」」

 双子は自分達のした事があやまちと気付き、顔面蒼白になっていたのだった。

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