第65話 カミナリ親父

「あそこの山際まで追い込みますか!」

「「「「はい」」」」

 ペルルの指示通り、弓や投げナイフでチクチク攻撃して呼び寄せる。


「木は山を登れないのですか?」

 リオはペルルに聞いた。

「はい、自分自身が重くて登れないのです。降りてくる事は出来るのに」

「ちょっとした小山でも?」

「お嬢さんの言う小山がどんな山か分かりませんが、急な角度だと登れないようですよ。緩やかなのだと…ほら、ここは少し坂ですが、付いて来ているでしょう」

 振り返ると、でかい坊主のお爺さんが付いて来ているという、怖い場面だが、双子が勝手に名前を付けて呼んでいる。

「ウッドー!かわいいウッドー!」

「こっちだよ、ウッドー!」



 そういえば…、ふと木を倒したことを思い出す。

 ニールとマイヤーが土手を作り、リオが亀夫の水系で倒したのではなかったか?

 倒した後は…たしか、根が逆さまになり、そのままにして来たけど、あれに風系で乾燥させれば幹ごと燃やせないかな。


 名付けて「ひっくり返し作戦」!

 いや、そのまま過ぎるかな…、でも「昼間の根乾燥作戦」よりは良いかな。

 隣で投げナイフを投げるメイリンにリオは作戦を告げる。

「良いわね!根乾燥作戦で良いじゃない!」

「いいや、土手の功績が薄くて嫌だ。ひっくり返し根乾燥で」

「俺は昼間のひっくり返しで!」


 言い出しっぺで本当に申し訳ないが、みんなが白熱するほど、作戦名はどうでも良くなってきた…。

 ペルルも馬から降りながら、横で苦笑いする。

「俺は火系だから最後は燃やしますね」


 スウィングウィップは、もう登れないところまで来た。

 そこでケニーが土系で半円の土手を出す。やはりニールほどの魔力がないため、高さはない。

 だが、スウィングウィップの足止めは出来たようだ。

「良くできました!サイモンさん、出来ますか?」

「実はあまり残ってないかも…」

 なんと、葉を吹き飛ばす魔術でほぼ使ってしまったようだった。

「じゃあ、私の風と合わせましょう」

 メイリンが提案し、サイモンは頷いた。

「せーの!」

 メイリンとサイモンから木の幹上部に向けて、魔術を打ち込む。

 一瞬、攻撃に耐えたと思われた。しかし、ペルルが火を玉にして勢い良くスウィングウィップの目にあたる部分に投げつけた。

 必死に耐えようとしていたが、後ろに土手の段差があり、一歩下がれなかったようだ。


ドーン!


 轟音と共に、スウィングウィップは倒れた。


「乾燥します!」

 メイリンがマチェットを両手に美しく舞い、踊りと共にスウィングウィップが乾燥していく。

「火炎斬」

 剣を取り出したペルルが火で斬馬刀に変化させ、振り下ろした。


 グォォー!


 断末魔を残して焼き尽くされた。

 炭となり軽くなったスウィングウィップが、土手のガーブに揺られ、カラカラという音をたてた。


「やった!」

「やったな!」

 双子は両手を掴んでピョンピョン跳ね回り、メイリンはリオの肩にそっと手を置く。

「倒せたわね…」

「はい」


 丁度その時、草原の牛舎の方から騎馬隊が現れた。

 仏頂面のダルトンが先頭に立つ。

「スウィングウィップは」

「は、あの通り」

「炭になったか…しかし、いつもと形状が違うが」

 そこで、ペルルがチラリと双子を見る。葉がなくなった原因がサイモンにあることが言い出しにくいようだ。

「御子息様には実戦させ、生きた勉強をして頂いた結果にございます」

「ふむ…」


 木が土手にもたれるように逆さまになって、根が乾燥し、炭にまでなっているのは不思議な光景であろう。

 馬から降り、土手を触り、スウィングウィップの根を触る。

「何故、通常の攻撃にしなかった?葉はどうした?燃え尽きたのか?」

「いえ、葉は…」

 言い淀む。リオはポケットから落ちた時に入れた葉を取り出してみる。


 ん?んん?

 葉っぱから葉っぱが生えてる??

 何これ、気持ち悪い…。流石ホラー。


 横で姿勢を正していたメイリンも、リオの手の中の葉を見た。

「リオちゃん、それって、まさか…」

「そのまさかです…」

「イー」

 鳥肌が立ったのか、歯を食いしばって小さく悲鳴を上げるメイリン。

「…ってことは、あの落ちた場所に沢山これと同じ状態で?」

「だと思われます」

「イー」


「なになに?」

 気になったのか、前にいた双子も振り返り、リオの持つ葉を見てゴクリと唾を呑んだ。

「あ、あれか、葉っぱから葉っぱが生えるから物凄く増えるとか?」

「ヤバくない?」

 2人が顔を見合わせて振り返った。

「俺が落とした葉っぱ、今どうなってるかな…」

「もしかして、いっぱい子供出来てる?」


「そうだと思う」

 メイリンは低い声で呟いた。

「なら、大変じゃね?」

「俺ら大変な事したんじゃん?!」

 双子が騒ぎ始めてしまったので、ダルトンの顔がこちらを向いた。


「言いたいことがあるなら、こちらを向いて言え!!コソコソするな!!」

 双子の身体が姿勢を正したままシャキーンと硬直し、髪の毛も逆立って見えた。


 デジャブ。ジェリスと一緒に、初めて通された隊長の部屋で怒鳴られたのと一緒、だからデジャブ。

「お父様!」

「何だ!」

「本来、スウィングウィップの葉はどうあるべきなのですか?」

 真面目な顔でダルトンに尋ねるが、質問内容が気に入らない様子で、なにぃ?と小さく呟いた後、のけぞるほどの大きい声で叱咤される。


「お前達はそんな事も知らずに討伐したのか!恥を知れ!」

「ここはわたくしから…」

 圧倒されて無言になったペルルのかわりに、ダルトンの背後にいた護衛が囁いた。

「いらん!」

「御意」

 護衛は頭を下げ、一歩下がる。

「いいか、よく聞け!この葉は草原に1枚でも落ちれば、20は確実に芽を出す。この大きさの木ならば、5000枚を優に越す。最終的に何枚になる?」


 えっと、リオは上を向いて計算した。

 10万…?

 メイリンの顔が真っ青になる。


「拾いに行かないと!」

「お前らでは遅い!場所を言え!」

 鬼瓦のような顔付きのダルトンに睨まれ、双子は弱々しく「あっち」と指した。

「走って付いて来い!けりは付けてもらう!」


 ペルルの誘導にメイリン達は付いて行く。なだらかな丘を駆け下り、到着する頃には夕方になっていた。

 キラキラとオレンジ色の光が峰から届いている。その中を何か小さな物が蠢いていた。

「葉っぱの子じゃない?」

「ってことは、私のポケットの中のも!?」

 リオのが葉っぱを取り出す。葉から葉が少し大きくなって、胎児のように身体を丸めたのが14体ほどついていた。

 うわぁ、何これ、怖い!

「日に当たってなかったから、成長が遅れて活動してないですね」

 後ろからペルルが覗き込んでいた。

「中々見られる光景じゃないですよ。夜になると分からなくなります。さぁ、狩りに行きましょう」

 リオの持っていた葉はペルルに渡した。ペルルは手に包んで、ボッと火で燃やす。

「可哀想ですが、巨大化したらこの牧場は潰れますからね」

「巨・大・化!」

 なんだろう、その戦隊ものみたいな感じは。


 それからリオも小型ナイフで小さな葉の子を追い立て、火系の魔術で燃やしてもらう作業が延々と続いた。


 家に帰る頃には、4人ともクタクタになっていた。

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