第43話 自宅へ薬剤補給

 リオの家は、母がこの地に居着く前は、農業用の小屋だったらしい。

 だから見た目は簡素だが、内部はそこそこ補強をしてきたようだ。隙間風があれば、そこを板で補強する。水が染み出してきたら、そこをまた板で補強する。

 間違った方法かも知れない。

 だが、素人ながらに頑張って改築をしてきたようだった。


 元貴族だと思われる母が、そこまでして貴族に戻らなかった理由は残念ながら聞けなかった。

 しかし、抜け出せて良かったと何回か呟いたのを聞いていたので、不自由な生活でも満足していたのだろうと思う。

 そんな家のことを考えながら、沼地を抜けようと救護用テントを後にした。


 遠目にマイヤー達のいた方を見ると、鳥に吹き飛ばされたのかテントはなくなり、ただの広場となっている。

 大量の騎士達が、鳥やドロドロと戦っているのが小さく見えた。

 みんなそれぞれか役割を果たそうと頑張る姿に、リオ自身も薬剤を持って帰る役目を自分なりに頑張ろうと決意する。



 家までの道のりは、まずこの沼地を抜け出る。途中、森に入り、獣道を通る。木が伐採されたところに池があり、それを超えて、また沼地を抜ければリオの家だ。ここから歩いて15分程度。


 沼地から森へ入ると、先程までの喧騒が嘘のように、一瞬静まり返る。パキパキと乾燥した小枝を踏む音がするので、リズミカルに歩ける。

 しかし、少し歩くとカーン、カーンと木を叩く音が静寂を打ち破った。

 木こり?こんな時に?

 不審に思いながら、リオは木に隠れながらそちらの方へ向かう。


「倒れるぞー」

「「ウィー!」」

 3人の屈強そうな男達が木を切り倒している。ヘルメットっぽいものをかぶって林業業者のようであるが、騎士団の胴付き長靴を着ていた。

 その1人が気配を感じたのか、素早くリオの方へ振り返る。

「お!あの、ちびっ子か!」


 木の幹に隠れていたはずなのに、見つかってしまう。他の気付いた2人も素早く振り返る。

「ちびっ子??」

「頑張ってた子?」

 ヘルメットで分からなかったが、その青髪の前髪…確か、イーヴァル兄弟!!

 沼でのホイホイ地獄を思い出す。


「どうしたんだ!ちびっ子よ!」

「服がしわくちゃだぞ、ちびっ子よ!」

「どこへ行くのか、ちびっ子よ!」

 会話のクセが強い!


「私の家へ薬を取りに行きます」

 3人が顔を見合わせる。

「危険ではないのか?ちびっ子よ」

「ここから遠いのか?ちびっ子よ」

「ついて行こうか?ちびっ子よ」

 切り倒した木をロープでソリに括りつける。

「急いでいますので、行きますね!皆様、伐採を頑張って下さい」

 心の中で『ペコリ』を言ってから、お辞儀をして、3人を後にする。

 あの伐採は、今回の戦闘に急遽必要になったものなんだろうかと想像した。それならば、リオが邪魔して良いわけがない。


「ごめんなさい、急いでおりますので」

 リオは申し訳なさそうな顔でお茶を濁し、その場を後にした。

 獣道を通り、本来伐採される地域に着く。

 左手に池があり、その水面から少し紫の煙が出ていることに気付く。


 今まで、こんなことなかった。

 周囲を見渡す。魔獣除けの煙を焚いているとはいえ、ここに魔獣がすでにいたなら対面は免れないからだ。

 もし、ウィッチャードッグが周辺に居れば面倒なこと、この上ない…。


 池の淵に近寄る。茶色の葉を敷き詰めた池は透き通り、空の流れる雲を映し出していた。

 深水の部分は暗く、奥の方まで分からないが、深みから紫の煙が出ていることが分かった。

 その深い部分が一瞬金色に光る。

「光ったの?」


 再度目を凝らすが見えない。

「光ったよね、ちびっ子」

「ワシも見たわ、ちびっ子」

「潜ってったぜ、ちびっ子」


「うわぁ!」

 背後から、ぬっと姿が水面に映りびっくりした。

「ごめんな、ちびっ子」

「脅かすつもりはなかった、ちびっ子」

「気になったんだ、ちびっ子」


 これ、関西お笑いのローテーショントークとか言うやつじゃないかな…。

 3人で言いたいことが完結している。


「気になったから付いてきたんですか?」

「「「うん」」」

 あ、そこはローテーショントークじゃないのね。

「では、家へ向かいます。よろしくお願いします」

「「「よろしく!」」」


 池を越えると沼地が見えてくる。水が侵食していないところを通るつもりだったが、その侵食していないところがない。

 靴が濡れるのが嫌なので、葉っぱや石の上を歩くようにする。

 ここまで沼地が水っぽくなったのは初めてかも知れない。王都へ行っている間に長雨でも降ったのだろうか、リオはそう思った。


 沼地からの水は、なんと家まで続いていた。

 沼地からの裏口から鍵を開けて入る。

「どうぞ」

「「「失礼します」」」

 イーヴァル兄弟にも薬を持ってもらえたらなぁと、少し打算的に家の中へ通した。


 3人は草や花のドライフラワーを珍しそうに見ている。

「これ、ポプリ?」

「だね」

「良い匂いする?」

「「するする」」

 大の男3人がポプリを小言で話しているのは、正直可愛い。


 あ、そうだ。お昼にはまだ少し早いけど、食べてもらおうかな。ここまで護衛して頂いたんだし。

 リオはかまどに火をつけて、紅茶を沸かした。保存用の缶詰から燻製の肉を取り出し、その上に焼いたチーズを乗せる。

 そして、次はとっておきの乾燥パスタを湯掻き、小麦粉を塩胡椒と混ぜて少し溶く。トロトロチーズと玉ねぎのみじん切りと粗挽き胡椒を次々と投入し、ぐるりとかき混ぜた。


 イーヴァル兄弟は喜んで食べてくれた。早朝から体力仕事だもんね!

 10分クッキング、5分で完食した簡単ランチだけど、少しずつ元気が出ました。良かった!



 お腹が膨れたところで、薬剤の準備に取り掛かる。

 リオは薬草棚を開け、今まで作成したものや、調合できそうなものを往診用リュックに入れる。飲み薬で粉末が飲めない人用の溶かす紅茶やお茶、軽い外科処置になりそうな時のハサミやナイフも入れる。そうだ、煮沸出来るようの缶に入れて…。

 どんどん詰めていたら結構な重さになった。


「皆様、ありがとうございました。帰りましょうか」

「「「こちらこそありがとう!」」」

 リオのリュックが重いのではないかと言う3人の協議を経て、少しずつ荷物を持ってもらう。ニヤリ、計画通り。


「さあ、こちらから出ましょう」 

と、裏口のドアを開ける。


「あ…ぇ?」


 ん?空中に浮く、鳥?


 デカパイ鳥。

 あれ?頑張りすぎて、お目目がおかしくなっちゃった?

 デジャブ?


 再び、鳥が宙に浮いていた…。

 

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