第44話 デカパイの鳥の再来
ちょっと待って。
裏にデカパイ鳥が居る?!
そんなことある?沼地にいたよね?
リオは一旦、ドアを丁寧に閉めて深呼吸をした。
後ろに控えるイーヴァル兄弟は不思議そうな顔でリオを見下ろす。
「えっとですね、あの、怖い鳥が…」
「「「?」」」
これは…百聞は一見にしかず。
小さい覗き窓から確認。1人、コンパクト望遠鏡を持っていたので、また交互に見てもらう。
3人はそれぞれ、似顔絵にそっくり!とか、鳥、胸大きい、恐怖、投げナイフで刺す?などジェスチャーで伝達し合う。
「皆様、武器はお持ちですか?」
3人は短剣など、胴付き長靴のポケットの中でも邪魔にならないような刃物を持っていた。それでは接近戦でないと意味がない。
何か武器は…リオは薬草棚横のスペースを思い出した。そこには弓矢が立てかけてある。
母が生きていた時、お客さんが毎月薬代のかわりに弓と矢を置いていくから、結構な本数になっていた。
それを3人に見てもらう。
兄弟はそれぞれ、良さそうな弓と矢を選んで装備した。
でも、弓矢が風魔術の鳥に効き目がなかったのは、一斉攻撃で体験済みだ。だから何かしら攻撃できそうな策を裏口扉前で、4人が膝を抱え練る。
あの時…鳥がテント上に現れた時、弓矢は一旦、鳥の近くまで飛んで行った。鳥はそれを上空へ飛ばし、逆方向へ転換させたはずだ。そのようなことを話し合う。
「では、巾着で包んだ強力な痺れ薬を、1人が矢の先に付けて飛ばします。その後、2人が巾着を破るように矢を放つ、そんな感じならどうですか?」
「追撃矢ということかな?」
「それなら手前で割れるか?」
「巻き上げられたとして…」
「粉だから吸い込む可能性がある」
「ワシらの腕にかかる…か」
「ふむ、出来ないことはないか」
3人の意見がまとまり、再度覗き窓を覗く。まだ遠目だが、こちらに向かっているようだ。
リオはマスクをしてから、痺れ薬を粉にしたものを、布の袋に入れる。これは熊のような大型動物退治用で、人間には危険だ。
魔族には睡眠薬や麻酔薬が効かない者もいるみたい。だから痺れ薬が有効かどうかはやってみないと分からないと思うの。
6個作り、それを矢の先に括り付ける。
やるなら今しかない!
リオが扉を屈んで開ける。
3人が並び立つ。
まず、1人が巾着付きの矢を放つ。
次に、2人が巾着を破るように矢を射る。
それを6回繰り返す頃には、鳥の周囲は白い煙で充満していた。
濛々とする煙の中で、鳥は「ギィー」と苦しそうな大声を上げる。
その時、店用玄関の方から大きく乱暴なノックが聞こえ、誰かがリオを呼ぶ。
「リオちゃーん、いるー!?」
女性の声に、4人が顔を見合わせる。
「取り敢えず、玄関へ行きます」
「じゃあ、俺たちは鳥を見張ろう」
「「うん」」
リオは急いで玄関の覗き窓から覗く。
そこに、ジェリスが立っていた。
「ジェリスさん!」
慌てて玄関を開け、招き入れようとした。が、ジェリスの後ろを見て、リオはびっくりする。
沢山の騎士団の人達が後ろに控えていたからだった。
「ごめんね、沼地の方から鳥を追いかけてきたら、ここに来たから」
「鳥は裏口にいます。今、痺れ薬を矢で放ってもらって…」
「え、矢で射ったの?」
ああ、これも説明するより見てもらった方が早いか!
リオはジェリスを連れて裏口へ回る。
イーヴァル兄弟がジェリスを驚いたような顔で見て、ジェリスもまた同じような顔をして見返す。
イーヴァル兄弟が、例のローテーショントークでジェリスに説明し、痺れ薬の効き目を確認する。
デカパイ鳥は地面にぼーっと立っていた。
「まぁ!今までにはなかった動きね!」
楽しそうにジェリスが小窓を閉めながら下を見た。
すると、ジェリスがリオにおかしなことを言う。
「リオちゃんの家の裏口って、沼と繋がっていたっけ?」
「どういうことですか?」
「だって、ほら…」
泥水がジワジワと、ドアの下から入り込んでいた。
『えー?!何これー!!』
さっきまで、イーヴァル兄弟と膝を抱えて作戦会議していたところなのに?
浸水する時は早いもので、あっという間に、水はリビングに到達していた。
どういうこと?!誰か説明してー!
叫びにもならない叫びがリオの中でこだまする。
「ちょっと一旦出るわね」
ジェリスはそう断って、外の集団へ事情を説明しに行った。
イーヴァル兄弟もジェリスの後についていく。
集団は裏口の鳥の方へ向かったようだ。裏口の地面も水浸しになっているので、ジャブジャブという音が聞こえた。
どうしよう…。
薬剤を届けないといけないのに、なぜ次々と問題が起こるのだろう。
裏口に鳥。床上浸水。薬剤配達。
この3つの中で優先順位はどれだろう。
ここは冷静に、元社会人らしく一つずつ問題解決に向けて、突き詰める事が大切だ。
まず、裏口の鳥。
これは騎士団の仕事。ジェリスが動いているし、リオ主体ではないから問題なし。放置できる。
次に、床上浸水。
これはリオの家のことなので、リオ自身の問題。だけど、すぐしなければならない事ではない。水が上がってきた原因を突き止めるには、時間がかかりそうだから。放って置くわけにもいかないけれど。
最後、薬剤配達。
これはリオが自ら言い出した役割。
怪我人も多い。無愛想な医師も待っている。
と、頭の中を整理して、やはり薬剤配達が優先順位が高い。
ということを考えれば、善は急げ!
きっと待っている患者もいるはずだ。
リオは玄関に1人でいるジェリスに、声を掛けた。
「これから薬剤を届けに行かないといけないのですが」
「そうなの?」
おっとりと首を傾げる。
「…リオちゃん、あのね…非常に言いにくいことを申し上げても良いかしら」
言いにくいこと?リオは首を傾げた。
「この家が、これから前線基地になるかも知れない」
断定ですか?ジェリスを見上げると、ちょっと眉毛を悲しそうに寄せた。
「ごめんなさい。でも確実に言えるのはテントが飛ばされたように、家も吹き飛ばされる可能性が高いの」
そんな…、家がなくなってしまうなんて。でも鳥がテントを吹き飛ばすのを見たから、ジェリスが大袈裟に言っているわけではないことが分かる。
でも、12年、ここで育ってきたし、母の作成したものや、残したものがある。
「か、回避する方法はないんですか?私、帰るところがなくなってしまうんです!」
ごめんなさい…ジェリスは屈んでリオを抱きしめた。
「なるべく、あの鳥をこの家から遠ざけるように誘導してみるわ。だから、あなたはここから出て、薬を届けてね。もし、リオちゃんのお家が前線基地になっても、擦り傷で済むように頑張るから」
私に出来ること…。
ここで戦闘に巻き込まれても、私、何も出来ない。
出来ることは、薬を届けて、負傷者を治すお手伝いをして…。
なんだか自然に涙が溢れ出てきた。リオの涙をジェリスが人差し指で拭う。
「リオちゃん、本当にごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」
リオはいいえ、と小さく首を振った。
誰かを責めることは出来ない。
「ジェリスさん、家をお願いします。そして、鳥に負けないように頑張って下さい」
ジェリスはうんうんと頷いて、リオのしわくちゃのスカートを真っ直ぐになるように撫でつけてから、ギュッと抱きしめて「分かった」と呟いた。
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