第19話 いざ研究棟へ参る

 研究棟に続く道。中庭を通ると、日が燦々と照り、気持ち良い風が通り抜けていた。

 綺麗な花が咲いていて、虫が食った跡もない。


 さすが管理がしっかりされているなぁと感心した。

「?」

 何かゴソゴソと動くものに気付く。

「あら?」

 バッチリつぶらな瞳と目が合う。

 パンジーのような花の横に、子供のカピバラがいた。

 

 カピバラ?


「お母さんは、居ないの?」

 あまりに小さいので、思わず聞いてしまった。

 カピバラはクンクンと鼻先をリオに向け、足元に近寄ってきた。足元でドテッと転がり、撫でてくれと言わんばかりに腹を向ける。


「ここ?気持ちいいね〜!」

 満足そうにヒクヒク鼻先を動かすが、リオは研究棟に向かわねばならない。

「ごめんね、また今度ね」

 またここに戻ってきたら会えるかな?

 立ち上がり、研究棟に向かっていると数歩後ろをカピバラが付いてきていた。


 え?付いて来てる?


 リオは小動物が大好きだ。前世でも猫と小型犬を、独身時代にはインコ、ウサギ、ハムスターを飼ってた。


「いいの?付いて来て」

 ツーン、そんな顔をしてカピバラがそっぽを向く。


 何?ツンデレ系?あ、先にデレッとして次にツンとしたから、デレツン系?

 なになに?娘だったら知ってたかもしれないけど、お母さん分かんないわ。


 リオはおかしくなって、ニコニコしながら廊下を歩く。

 気になって、振り返るとツーンとされる。ツーンとする顔も愛嬌があって可愛らしい。

 そんなことを何回か繰り返して研究棟前までたどり着いた。

 後ろを振り返ると、カピバラは建物横の防風林に入ったのか居なくなっていた。


「ああ、僕も今来たところ。部屋を開けるね…、あ、僕はシャイン・アーガイル。リオちゃんって呼んでも良いかな?」

 シャイン副部長はよく見ると20歳半ばくらい。ストレートの赤い長髪を後ろで三つ編みに結んでいる。

 スカイブルーの瞳に、目は少し垂れぎみだ。でもこの人も男前の部類に入る。


 ん?ちょっと待てよ?リオは考える。


 母親も勉強できそう系の美人だったし、ジェリスさんも色気ある美人さんだし、受付のお姉さんも可愛い系美人だし、エヴァさんは伸びしろイケメンでしょ?

 これから来るリンクさんも爽やか系イケメンだったし?

 なんだかんだでジェリスさんにちょっかいかけていた男、ありゃ名前を忘れたけど、狐っぽい顔だったけど、イケメンで?


 ちょっと!こ、この世界!イケメンイケジョしかいないんじゃない?!一体、どういうことなんだろう…。


 イケメン・イケジョからイケ子供が産まれてくるのは当たり前で、そのイケ子供がイケ子供と結婚して、またイケ孫子供が産まれて!

 自分でも何を言ってるかよく分からないが、とにかくこの世界ですごい大発見をしたと思った。


 もう少しで、何かが分かりそうなんだけど…。うーん、こういう風にキラキラした人たちが集まって…。


 ボーッとするリオにシャイン副部長は『ん?』と首を傾げた。まさかリオがイケメン・イケジョの大発見しそうとは思うまいて。

 

 シャイン副部長はドアの横にある、白い四角いものに手を置いた。

 一瞬でドアの色が赤色から青色に変わった。

「わぁ!色が!」


「ん?珍しい?これはね、魔力を登録して開けるんだよ。赤色は閉まっていて、青が開いた印だよ。…もう少し人が来るから、ドアを固定しとくね」

 室内は前世の理科実験室のようだった。6人掛けの机が12台ほどあり、どの机にも手洗い場が付いている。


 シャインはポーチからあのガラス瓶を取り出した。机に置きながら、

「字は書ける?」

 と、ノートとペンを取り出しリオに手渡した。


「どう見えて、どんな感じなのか、個人的…うーん、3人がどういう風に見えているのかを知りたいんだ。それで、このペンと紙綴りで絵や感想を書いて欲しい」

「ありがとうございます。頑張って書きますね!」

 紙綴りは縦型ノートのような感じ。ペンは羽ペンで、インクも貰った。こういうのを公的に貰ったのって、前世の小学生以来?嬉しいかも!


 リオは紙綴りの表紙に『リオの研究日記』と書いた。

 「わぁ!上手にかけたね!」

 シャインは嬉しそうに微笑んで、リオの頭をヨシヨシと撫でた。


「「遅れてすみません」」

 2人の男性がシャインに駆け寄った。

 第三騎士団のリンク・エンバーと、研究員ルーカス・アーガイルである。


 顔合わせは3人だけではなく、研究室事務方のリンカ・ロンハート、魔族研究所長マイヤー・ミルウォークという女性陣も加わる。


 リンカは20代前半の黒髪ストレートでお姫様カット、ぱっちりした瞳はダークブラウン。

 日本人っぽい印象だ。寮の受付嬢と同じ紺のロングワンピースを着ている。多分、事務方の制服なのだろう。


 マイヤーは20代半ばの茶色いショートヘア、グリーンの瞳。

 赤の開襟シャツにスリットの入った黒のロングタイト、上に白衣を羽織っている。

 お色気担当なのか豊満な胸の谷間がたまにみえる。なんか、青年誌にこういう人達いない?ステレオタイプ?


 それぞれ自己紹介が終わり、シャインとルーカスが従兄弟で家名が同じだということが分かった。

 親戚ではなくても同じ家名が多いため、下っ端は名前で呼ばれることの方が多いらしい。


 リオへの呼び方について、みんなニコニコしながら協議した。シャインに倣い、その場に集まったもの全員『リオちゃん』と呼びたいらしい。


「どうぞ、よろしくお願いします」

 リオは営業スマイルで微笑んだ。



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