第20話 写生大会で閃く

「本格的な活動は明日からなんだけど、今日はどのような感じに見えるのか、3人はそれぞれ書いてください」


 それってすでに、本格的な活動っぽくない?


 シャインは、リンクとルーカスにリオと同じ紙綴りを渡す。もらった2人は顔を見合わせ、少し眉を上げた。


「僕とマイヤー先生、リンカさんは、研究棟の横にあるラボの個人研究室を片付けて来ますね。ここじゃ広いし、授業が始まれば使えないから。明日までに皆さんがラボに入れるように、リンカさんに手続きしてもらいます」

 隣でリンカが何回か頷く。

「1時間後、ここに戻って来ますので、書いたものはマイヤー先生に一旦見せて下さい」


「では、片付けに行きますか」

「結構時間かかると思いますよー?」

「魔族の本は何冊かいりますよね」

 3人はそのようなことを言いながら出て行った。



 ポツンと残される3人。顔を見合わせる。3人で取り敢えず、よろしくと握手し、写生大会のようにガラス瓶を中心に輪になって座る。


 前世からリオは絵が得意だ。

 先生のリアル模写をして授業中回し、見た人々に笑いを与え、幸せのうちに同級生の腹筋をいい感じに鍛えた実績がある。授業中腹筋強化月間、という変なあだ名も授与されている。


 紙の中心にガラス瓶を描き、モワモワした感じを点で描写していく。濃いところは点がたくさん。薄いところは少し。ずっと書いていると濃淡が出て来て写真のように見える。


 動き方などの表現しにくい部分は、言葉にして雲のような吹き出しにして分かりやすく囲った。

 吹き出しを付けたら、なんだか卒業生に送る色紙のようになった。


「上手いね!」

 40分くらい経ったのだろうか、リンクが近くに立っていた。

「ありがとうございます」

「へぇー!そういう風に見えるのか」

 ルーカスも寄ってくる。ゆるいウェーブがかかったような短い金髪、アクアマリンのような瞳。見よ!これぞ王子様だ!という顔をした男子だ。


 銀髪、ダークブルーの瞳のリンクも負けず劣らずイケメンだ。

 あまりのキラキラさ加減に固まる。


 一体なんなんだ、君たちは。

 まるで、漫画みたいじゃないか??


 そこで、何かが閃く!


 そうか、漫画か!漫画の世界か。

 分かった。

 自分は死んだと思ったが、実は冷凍で延命されていて、夢を見ていて、それで漫画の世界に入ったのではないか?


 やるではないか、家族よ。死んだと思わせといて冷凍保存とか。

 城の中にカピバラだって常識的に考えて、おかしいよね。


 なんで漫画の世界なのかは謎だが、若い頃は漫画を好きで読んでいた。


 友達とも貸し借りしてたし、女子バスケ部部室も漫画とお菓子とジュースの部屋のようになっていた。

 あのバスケの漫画、月のなんちゃら星のなんちゃらとかいうのをみんなでキャーキャー読んで盛り上がっていたじゃない。

 あ!あの主人公も確か『りお』って名前じゃなかった?ここが何の漫画の世界か知らないけど、自分は今漫画の世界で夢を見ている。


 私は今〜マンガの一つの国入ってしまった〜♩


 ってな感じよ。でも何の漫画?

 マイヤーを思い出して青年誌を想像する。冒険とか探検もの?あのデカパイ鳥もそんな感じだったし…。


 ここは漫画の世界。

 そう思ってしまえばイケメン・イケジョは、漫画の世界観では、ごくごく普通の世界と言う事だ。


 ああ、なんだ。

 そうか…。

 自分は何が普通なのかという基準を、ずっと求めてたのか。


 何となくスッキリしたので、2人に向かって、ニッコリ笑った。

「お二人はどういう風に見えますか?」

「俺はこんな感じ」

 リンクが絵を見せる。同じようにガラス瓶、布に包まれた石、モワモワした感じがグルグルと乱暴に描かれている。

 絵はそんなに上手くなかったが、言いたいことはよく分かった。


 リンクの絵の違うところはガラス瓶の外側に、石に向けて矢印がいっぱい描いてあったことだ。

 説明も何も書いてはいない。

「この矢印は何でしょう」

「あー、これ?なんか空気の流れってか、俺自身は土系の魔術が使えるんだけど、それが石に集まってくるのが見えるっていうか、絵も難しいし、説明もしにくいのな、これ」

 ニカッと愛嬌の良い顔をして笑う。


「ルーカス君のは?」

 リンクが聞く。

「オレはこんな感じですね」

 ガラス瓶、布に包まれた石、周囲のモワモワ、とても陰影がついていて芸術的センスのある写実的な絵だ。

 リオとよく似た感じの絵なので、見え方は似ているのかも知れない。


「あらら、3人さん?検証をするのは私を混ぜてね?」

 一時間経過したのか、マイヤーが入り口に立っていた。


 3人は描いた絵をマイヤーに向けて並べた。ふぅむ、と腕を組みながら絵を見比べる。

「みんな煙が出ているのは見えるのね?」

「「そうですね」」

 男子2人は返事した。

「リオちゃんは紫?」

「うーん、今、ずっとこの瓶の中にあるので、以前よりかは黒っぽくなってきました」

「へぇー、色は変わるんだ。ルーカスさんは?」

「オレも濃い紫って感じですね」

「リンクさんは?」

「えーっと、俺だけ違うっぽく見えてるのかな、濃い紫なんだけど、ガラスの外側に黄色が外から集まって、ごちゃ混ぜになってる、そんな感じです。この黄色っていうのが土系っぽいんですよね」


 4人とも『うーん』と悩む。

 ここに頭の中を投影できる映写機のようなものがあれば!

 そんなものは現代でもなかったけど。


「取り敢えず考えながら個人研究室、略して『個研』へ行きましょうか」

「「「はい」」」

 マイヤーが扉をロックして赤扉に変えてから4人はゾロゾロとついて行った。

 

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