第16話 可視テストは大混雑
研究所は騎士団執務室から離れた場所のようで、庭園の見える渡り廊下や訓練場横を通りながら向かった。
訓練場は田舎の中学校のグラウンド2面分の広さがあり、馬上での模擬戦や弓矢で的を射抜く練習をしている人がいた。
ジェリスが左手で人差し指と中指を立て(指を閉じたピースのような形)、右腕に肩の方からそれを這わすと右手の先から青い小鳥が現れた。
その小鳥を飛ばす。
「すぐ来るから待っててね」
何が来るのか分からないが、それよりもジェリスが鳥を出したことに驚いた。
「ジェリスさん、鳥を魔法で出したのですか?」
「そうそう。伝令の鳥ね。私は風の魔術を使えるから、風に乗る形状のものが出しやすいの...あ、きたきた」
遠くから走ってきたのは銀髪の凛々しい若い騎士だった。
「ジェリスさん、お久しぶりです」
「久しぶり、って3日前じゃない」
「3日も会ってないなんて!あ、それよりこちらのお嬢さんは」
「こちらは薬師のリオさん、リオさん、こちらは第三騎士団第2班のリック・エンバー班長です」
「「よろしくお願いします」」
双方ニコッと挨拶をした。
「至急みんなを集めて、可視テストするから研究棟第四実験室の方へ向かって。かなりご立腹だから悪いけど休暇者も呼んでほしいの。一団は知ってると思うけど、見かけたら声かけてくれる?」
「はい、了解しました」
「よろしくね。じゃ、リオちゃん行きましょうか」
研究棟、実験室?なんだか大学のようね、リオは行き先が楽しみになった。
再び廊下を歩き、中庭を横切り、どこをどう歩いたのか分からなくなった時、上半分が白い、半分レンガの建物が見えた。
「訓練場に寄ったから遠かったでしょ?ここが研究棟よ」
扉を開けると薬品の独特な匂いがする。扉の前で中の廊下を見てると後方から騎士団の集団が走ってきた。慌てて扉横の壁に張り付く。
ジェリスを見た集団は口々に挨拶をしていく。そりゃ、セクスィー美人さんだもの、一言でも言葉を交わしたいはず。
「じゃ、私たちも第四へ行きましょう」
第四実験室は階段式の大講堂となっていた。後ろの引き戸から小さくなって入っていく。
すでに検証は行われていて、教壇には人だかりができて活気があった。
どこかでドリェェェ!とかウリィイとか聞こえるのだが、何がどうなったらそんな叫び声になるのか。
前面のボードには「ガラス瓶内部の煙が見える者は、すみやかに申告せよ」と書かれている。
「相変わらず、私には何も見えないわ」
最後列席に座ったジェリスが頬杖を付きながらつまらなそうに言った。
「そういう表情、めずらしいね」
左にいた集団の中からニコニコした男が現れる。笑っているのに目は笑っていない、細マッチョ系のイケメンだが、曲者っぽい印象を受ける。
「一団の方は?いたの?」
面倒臭そうにジェリスがそのままの姿勢で呟く。
「いないねぇ…お嬢ちゃんだろ?見える子って。紹介してよ」
ジェリスの横からヒョイとキツネのような顔を覗かせた。
「嫌よ。彼女は貴重な方なの。あなたに悪用されるを断固拒否するわ」
「えー?連れないなぁ」
いつもこういうやりとりをしているのか、作り笑顔を絶やさず男性は動じない。
前方のほうで動きがあった。男ばかりなのでドヨッと騒めき、一部でハイタッチ、ウリィイーーー!が始まる。
「じゃ、行きましょうか」
ニッコリ、ジェリスがリオに向けて手を出したので、そのまま手を取り教壇の方へ進んでいった。
影を感じて振り返るとキツネ顔の騎士がついてきており、小声で、
「俺はマック・ウイガー、よろしくね」
とウインクした。
教壇までは段差がある。足早に誘導されるとリオは返事も出来ず、足がもつれないようにヨロヨロと降りながら、頭だけを下げた。
教壇には隊長に怒鳴られていた研究者がおり、羊皮紙を丸めた拡声器を片手に声を張り上げ、逆の手で瓶を持ち上げていた。
ハッピを着ればアメ横の年末大セールのようだ。
「あー、もう、机にしがみつくんじゃない、教壇にも乗るなー!リンク以外に見える人!いるか!?」
入り口付近がまた混雑し、ローブを着た集団が入ってくる。まるで、前世テレビで見た都会の初詣のようだ。
「シャイン副部長、もう一回言ってー!」
「ああ?…このガラス瓶の中の煙が見える人!」
ローブ集団からドヨッと、またどよめきが起こる。
「おお、誰だ?ん?ルーカスか?!見えたか!?見えたら、俺のところへどんな色か伝えに来い」
ルーカスと呼ばれたローブ姿の人は教壇へ上がる。
シャインはクイズ番組の司会のように拡声器越しに答えを聞いた。
「ふんふん、ふんふん、そんでそんで?」
あー、そうそう!目が見開く。
「正解!」
「「「「おーーーー!」」」」
ローブチームから歓声が沸き上がる。
「これにて!可視テスト終了します!第二騎士団クレムソン隊長に報告させて頂きます。リンク・エンバー第2班長、ルーカス・アーガイル研究員には、追って上司から連絡してもらいます。以上!ご協力ありがとうございました。」
上司がいない場合の体育会系のノリなのか、司会者のシャイン副部長はもみくちゃにされ見えない。
「あーらら、今行ったら大変ね。みんなが行く前に食堂へ行きましょう。お腹すいたかな?早く行けば良いことがあるの。リオちゃんは何でも食べられる?」
何事もなかったかのように、ジェリスはリオを廊下へと連れ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます