第7話 国境調査 by ジェリス
王国第二騎士団の副隊長であるジェリス・エル・ティンバーライトは、隊長であるナイジェル・クレムソンに呼ばれて執務室に向かっていた。
「ご機嫌ななめじゃん?」
執務室へ続く白い廊下。壁にもたれて腕組みをしている、キツネ顔のニヤニヤしているこの男は第一騎士団マック・ウイガー副隊長。
ふんわりとした茶色の髪の毛にエメラルドグリーンの瞳、眉目秀麗な男ではあるが、そのニヤニヤ顔が頂けない。
「なになに?よその国境の調査?」
ははは、と笑いながら軽い調子で聞いてくる。なんというか、軽いところがチョウチョのようだ。
「これから聞きにいくところなので、何も知らないけど」
こちらは無表情で歩いているのだ。ご機嫌ななめな顔?本当に失礼な奴だ。
「ふーん。小さいのが足手まといにならなきゃ良いけどな。そうそう、あそこ、3年前からだぜ?せいぜい気をつけな、姉ちゃん」
姉ちゃんって飲み屋かよ、と毒づきながら去り際に手を振るウイガー副隊長を睨む。
執務室に入るとクレムソン隊長に言われた。
「ラーンクラン国側の国境を調査せよ!」
あやつ、何か知ってたな?と言うかあれが調査を言い出したのかも知れない。
ウイガー副隊長とは腐れ縁だ。嫌いな部類ではあるが腕は認める。
あやつが絡むということは、可もなく不可もない調査で第二の案件ということは13歳のお荷物が、と考えていると
「聞いているのか!」
魔獣が唸るような声でダメ出し。
「エヴァを連れて行ってくれたまえ!」
「え!エルヴ...!いや、エヴァを?」
ウイガーのヒントで何となく分かっていたことだが、今はじめて聞きました的な演技で、撤回してもらえないだろうか?
「水が必要だろう」
「はい、確かに、いやしかし、危険では?」
「可愛い子には旅をさせろと言うことらしい!エヴァを連れて行ってくれたまへ!(本日2回目)今すぐ!」
三白眼で睨まれれば、ほら不思議。もう有無も言わせない環境が事務方の手によって整うのよ。
エヴァは悪い子ではないが愛想がない。最近声変わりしているのか喉の調子が良くないようで、ずっと顰め面をしている。それがまた仏頂面となり無愛想に拍車をかける。
「では、ソール村から行きましょうか。貧しい村だけど、よそ者の扱いは慣れてるらしいわ。だけど目立つからフードは着ていきましょう」
コクリ、エヴァが頷く。
王都を出発したのが朝、昼間馬を走らせ、湖畔で休憩。侍女が持たせた抗菌布巾に包まったサンドイッチを食べ、再び走る。
森を抜けると難民たちが通る国境の抜け道を超える。
許可証を発行されたため、正規ルートで国境を越えることを考えたが、何せ時間が惜しい。夕日が背中を押す。1人ならなんとかなるだろうが、エヴァがいる。暗闇までに村に着きたいと考えていた。
沼を超え、森を抜けた一本道に瓦礫を集めた壁が見える。あれがソール村のようだ。
門番が1人。2人は滞在許可証を見せ、特に怪しまれることなく村に入る。20世帯ほどの小さな村。ここで今何が起こっているのか、我が国に及ぼす影響があるかどうかを調査する。
聴き込むと確かに3年前から魔獣による被害が増えていた。魔獣が力をつけると下級魔族を呼ぶ。下級魔族が力をつけると上位を呼ぶという連鎖が起こる。
原因を確かめなくちゃね。
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