第5話 久々の楽しい食事
「あら?良い匂いがするわね?」
ジェリスがフードを脱ぎながらニッコリ笑った。
「ジェリスさん、フードをこちらに、えと、ハンガーは私がかけますので」
リオがフードを貸してと手を出すと、私がやるからとジェリスがハンガーを取ろうと手を出した。
いえいえ、お二人はお客様ですし。いえいえ、かくまって頂いている身で、と少し押し問答となり、エヴァがふぅとため息をつく。ごめんね、お腹が空いてたのかな?
「そうです、今からご飯を食べようとしていました。ご一緒にいかがですか?足りなければ作りますね!」
ハンガーをリオから無理やり受け取ったジェリスが窯を覗き込む。
「まあ!素敵な夜食ね!」
「いえ、実は夕食なのです。作業してて、時間を忘れてました」
「若いって素敵ね、時間を忘れるだなんて!」
ジェリスがウインクし、リオは顔が熱くなるのを感じた。マジ男装麗人の威力半端ない。
リオは思わず無言を貫くエヴァを見たのだが、少し目が合った途端フィッと逸らされる。それを見たジェリスがまた楽しげに微笑む。
「ごめんなさいね、明け方までここ居させてもらえるかしら?」
王国騎士団が見回るということは、何か訳ありなんでしょうね。
「はい、このような所で良ければ」
リオは温め直したシチューとポテト餅を皿に盛った。ジェリスがポテト餅とシチューを少しずつ食べ、ニコッとエヴァに微笑む。それを見てからエヴァも少し食べ小首を傾げてからパクッと一口。一瞬で華やかな顔になる。
「あ、これ、美味しい!俺、好きかも」
声変わりの時期なのか、ハスキーな少年っぽい声だった。息子の変声期を思い出して胸が熱くなる。
良かった、暖かい場所、温かいものを食べたから腹痛は治ったのかな?とリオは思った。
ポテト餅のモチモチした感触が好きなのか、エヴァが頬を緩めた。
「それはポテト餅です」
「「ポテトモチ?」」
2人の言葉が被ったので、3人で笑った。
あらそうね、餅ってこの世界にはないわよねと考え、
「じゃがいもと小麦を混ぜたものなのです。外はカリッと、中は感触がぷにぷに、モチモチとしてて、私は便宜上ポテトモチと呼んでいます」
「なるほど、これがモチモチとした感触かー、外はカリカリ、中はプニプニはしてるけど。ポテトぷには言いにくいか」
エヴァが小声でぶつぶつ言いながらフォークで半分にしたり、そっと押し当てたり感触を楽しんでいた。
その後、2人はシチューも美味しいと絶賛し、リオはとても得意そうな顔で微笑んだのだった。
食事が終われば皿洗いをエヴァが申し出てくれ、リオはその洗い終わったものを布巾で拭い、ジェリスが棚に戻すという作業をした。
実に2年ぶりの一家団欒のような、でもすぐに終わるままごとのようなものである。
少しくすぐったい、体が震える妙な感じがして、リオは涙が出そうな感覚に陥った。
「お気に入りの紅茶を持ってきますね」
リオは自室に入りすぐにフゥと息をはいた。グッと上を見上げて涙が出ないように堪えた。
油断した。
暖かい雰囲気であのまま居てたら涙が出そうになって迷惑をかけるところだった。
こんな、たった数時間で人恋しくなるなんて。リオ自身にも不安はあった。この世界の12歳という年齢がそうさせるのか、それとも62歳という精神の年齢からなのか。
あと何年一人で生き抜いかなければならないのだろう。国境沿いに住むということは、魔族以外にも国同士の争いに巻き込まれるかも知れない。
もちろん、国が違っても薬草を使って人を助ける気持ちはある。だけど、助けたいと思う人達から自分が信用してもらえるかどうかは話が別だ。
1人で毅然として立ち振る舞えるには何をしなければならない?この国のこと、隣国のこと、実は境目に住みながら何も知らなかった。
そうね、まずは現状理解からかな?王国騎士団の2人が訪ねてきたのは何かの運命なのかも知れない。
リオは数種類の紅茶葉の入った瓶を持って台所に戻り、ジェリスとエヴァにお茶を出しながら近隣地区のことについて尋ねてみることにした。
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