第4話 リオの過去と宝物

 リオの前世は主婦である。乳がんを発症し、若かったために進行が早く50歳で家族に看取られた。乳房も切除したのだが、切り取った時点ですでに骨に転移していると診断された。

 家族は夫、社会人2年目の娘、大学生になったばかりの息子の3人。普通の生活をして、普通に暮らしていた。今になってその普通の暮らしの有り難みが分かる。


 特に子供には口うるさくマナーを注意していたので、今頃は「うるさかったね」なんて3人で笑い合っているかも知れない。いや、そうだったら良いなという希望を願わずにはいられない。


 前世については、家族には看取られたし、病死とはいえ身体の寿命を全うしたので満足している。また、自分が居なくなって困る想定の範囲での解決策を話し合ってきた。特に長女はしっかり者の姉御肌なので男2人を導いてくれているものとして安心している。


 心残りとしては孫に会えなかったのが残念なくらい。しかし今はリオとして生活していることもあり、ゆっくりと前世を忘れかけている。

 ただ、50歳でなくなり、その後6歳で前世を思い出し12年間をリオで過ごしたことを考えると足して62歳。そのことから子供ながらにしておばさん臭い性格となってしまった。

 みんなが容姿を褒めてくれるので、自分の見た目は子供らしい可愛いさのある顔だと思うのだが、どうやら性格は変えられないらしい。

 母には、小さなばあやがいるみたいと笑われたが、あなたの方が私より年下なのですよ、お母さん30歳でしょ?と、生きている間にぶっちゃけてみたかった。

 おばさん臭いなんて!現在はリオとして頑張って生きているのに、どのあたりがおばさん臭いのか、そういう事も含めて色々教えてもらいたかったのに母は多くを残さずに死んでしまった。


 母が残してくれたもの。先ずは羊皮紙。これは母の水魔法で羊皮紙から水分を抜き取り乾燥させることを定着させる。前世で言うなら乾燥紙?薬草を乾燥させる上でこの羊皮紙は必需品だから、リオの宝物だ。

 父はどこの誰だか分からない。母が話したがらなくて、優しい人とだけ聞いていた。薔薇の模様は母の指輪、剣の模様は父の指輪。これをネックレスに通してお守りとしている。亡くなる少し前に母が手渡してくれたものだが、これも宝物だ。


 しかし母は貴族の身分でなぜこんなところにポツンと一軒家的な場所に住むことになったのだろう?

 元々の家出の原因は、貴族社会では受け入れられない駆け落ちや若者特有の反抗期などじゃないかな、とリオは考える。

 この場所に決まったのは水魔法を活性化させる水源地が近いからと母は言ったが、リオにはその感覚が分からなかった。からっきし水魔法には縁のないリオだった。



 

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