第3話 容姿綺麗な来訪者

「ドンドン!ドンドン!ドンドン!」

 乱暴に叩かれる扉。

 落ち着かないと。リオは小さく息を吸い込み、小走りに扉へ駆け寄った。

「どうされましたか?!」

「夜分すみません!魔獣から逃げて来ました!国境沿いで撒いて来たんです」

 凛々しく応える女性の声だった。国境沿いと言う言葉から自警団を連想させる。


 村人たちはこの地域を『沼』もしくは『濁りの場所』と呼び、日が照る時間にしか来ない。ゆえに自警団か国境警備隊の人たちを想像しながら、扉を隔てた女性に呼びかける。

「合言葉、よろしいでしょうか?」

「もちろん」

「そもさん!」

「セッパ」

 鍵を外し女性を室内へ招き入れる。女性はリオを見ると少し目を見開いて、思ったよりも子供??と呟いた。

「連れがいるの、ごめんねリオちゃん」

 アイコンタクトで良い旨を返答し、フードを被った子供も招き入れる。女性は背が高く、足元を見ると革のブーツをはいていた。革はとても良い色に馴染んでいて古いが質の良いものだと分かる。

 子供の方はリオの身長より少し高いくらい。同じ歳くらいかな?と想像する。リオは今年で12歳だ。


 中へ通すと素早く鍵をかけ、扉を後ろ手に二人と向かい合った。女性はフードを取り、右拳をふくよかな胸に当て感謝の意を示す。

 宝石のような深い青色の瞳、金色の髪。前世で言うところの宮廷男装騎士麗人をリオは思い出す。

「私は王国第二騎士団のジェリスです。助かりました。満月に近いので魔獣系が思ったより多くて、私だけでは手に負えず、撒いて来たんです。さぁ、エヴァもお礼を」

 促された子供がフードを取る。銀色なのか少し水色っぽいのか、蝋燭の火でも分かるくらいに眩しい髪色、紫の瞳、人形のように完成された作りのとても美しい顔があらわれた。

 元々色白なのか、顔色が悪くみえる。リオは思わず診察するように顔を覗き込んだ。それに彼のお腹の付近からすごく嫌なイメージを受けるので、整腸剤が必要なのかも。ジッと見ていると、エヴァのお腹のあたりからどんよりとした濃い紫の煙が出てる。これは母と同じ煙じゃないかと、再び大丈夫なのかしらと心配そうに顔を覗き込んだ。

 エヴァは下から覗き込むリオと目が合うとびっくりしたように少しだけ瞳を大きくさせたが、次の瞬間には何も無かったかのように無表情に自己紹介とお礼を言った。


 蝋燭のみの薄暗いはずの室内が二人の髪色で明るくなったようにリオは思った。

「あの、よく合言葉をご存知でしたね」

「ソール村の人に教えてもらいました。ミネロスさん。もしこの小屋近くで何かあればって」

 ニッコリとした笑顔が美しい。同性ながらもドキドキしてしまう。

 ああ、ミネロスさん、あなたもときめいて思わず合言葉を教えてしまったのかしら?でも人の家を小屋と言うのはどうなの?と思わずにいられない。

 

 そもそもなぜ合言葉はその問答なのか。それはリオが転生者だからである。

 現地の人間が言う『沼』や『濁りの場所』は魔獣が多くなった。下級魔族である魔獣なら知力が高くないので問題ないが、高級魔族となると人よりも知力が高いため摩耶化して入り込もうとするからたちが悪い。

 特に満月になると魔族は活発化する。魔族は人が作り出した不安や憎悪が具現化したもので、一般的に澱みがあると生まれると言われる。

 それをリオは平安時代の妖怪やモノノケに似てるのかな?と思っている。高級魔族はそれこそどんな人間でも変化出来るらしい。

 とてもじゃないがこの社会に未熟なリオには高級魔族と人間の区別がつかないだろうと言うことで、母と合言葉を作ることになった。母がうーんと小首を傾げる。まだ元気だった頃の母。綺麗な顔でちょっと何かを企むような顔で微笑む。

「誰もが返答に困るような質問が良いんだけど」

「じゃあ、『そもさん!』」

「はい?」

「質問よ、お母さん!『そもさん』」

「え?そもそも『そもさん』って誰なの?そもさんの名前を言えば良いのかしら??」

 リオはニャハハと笑う。

「そもさんって、誰ーー?」

 という具合に返答に困ったようなので採用されたのだ。

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