第5話【ミアの才能】

前回のあらすじ


翔たちは初めての練習を終えて、帰宅後にミアから貰った、コートの半面が書かれているだけの紙と睨めっこしていた。

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大雅『もしもし?勉?』

勉『どうしましたか?』


大雅『ミアちゃんから貰った紙なんだけどさ?もう書いたか?』

勉『まだですけど?もしかして書くところが無くて困ってるんですか?』


大雅『ふざけんじゃねぇ!w 俺だってミドルは得意な方だ...たぶん。』

勉『じゃあ、その得意なミドルの場所を塗り潰せばいいんじゃないですか?』


大雅『そうだよな。で、勉はやっぱりスリーか?』

勉『はい、僕はスリーで得意な位置があるのでそこを塗り潰す予定ですね』


大雅『なるほど。ありがとな!また明日!』

勉『はい、また明日!』


この時誠也は、誰かに聞くまでも無く、自分の身長を活かせる、ゴール下付近を徹底して練習していた為、迷うこと無くそこを塗り潰していた。


3年生と2年生も、普段から得意な位置を、自覚して練習していた為、すぐに塗り潰していた。


翔とミアは、次の日の準備を済ませて寝ようとしていた。


『ねぇミア!俺の紙も要る?』


『いや、翔のはもう分かるからいいわ』


翔『けどこれって、みんなのポジション把握する以外に何か意味があるのか?』

ミア『私の実力を知ってもらうためよ』


ミアはそう言いながら、全員に配った紙を8枚取り出して翔に渡した。

その紙には、1枚ずつ名前が書かれていて、様々な場所が塗りつぶされていた。


翔『全員からもう連絡が来たのか?でも明日集める予定だったよね?』

ミア『集めるのは明日よ。これは、私が今日の練習を見て、全員の得意位置を書き出した物よ』


翔はそれを聞いて、自分の名前が書かれている紙に目が止まった。


翔『なんだよこれ!??』

ミア『それが翔が武器にできるポジションよ』

翔『けどこれって...』

ミア『自覚無いかもしれないけど、翔はもっと...』


ミアは何かを話そうとしていたが、疲れていたのか、話している途中で眠ってしまった。


『ミア?・・・まぁ、初めてこの人数の動きや、状態を観察したんだもんな。疲れてて当然か...また明日聞くとするか』


翔もそう言いながら、すぐに眠っていた。


・・

・・・


そして、次の日の放課後。


大雅『ミアちゃーん!これ書いてきたよ!』

勉『僕も書いてきました!』

ミア『ありがとう!また部活の時に全員に説明しながら集めるから、まだ持ってて』

誠也『俺はセンターだから確認するまでも無いかも。』

ミア『センターでも、ハイポスト、ローポストだったり、得意なサイドがあるでしょ?それを...』


ミアが説明しようとしていたが、キャプテンが体育館前から叫んでいた。


『練習早く始めるぞぉ!!走れー!』


『はい!すぐ行きます!!』


翔たちは、急いで準備を済ませて、体育館へと走った。


滝澤『よし、全員集まったな。急いでもらったのは、ミアちゃんからの提案とかも含めて、練習以外に済ませることがあるからだ。』

藤岡『んでさっそくだけど、この紙について聞かせてくれ』


全員が真剣な顔になり、ミアの方を見て静かになった。

ミアは自分の鞄から、ノートや紙を取り出しながら、説明を始めた。


『まず初めに。昨日配った紙を、全員前に並べてください!』


ミアの指示通りに、全員の紙がミアの前に並び、ミアも紙を並べだした。

それを見た全員が早くも度肝を抜かれていた。


大雅『まじかよ...マジック?』

勉『これは驚きましたね。』

誠也『さっき、少し細かく書き換えたのに...』


滝澤『これはどういうことだ?』

翔『これは、昨日の練習を見て、ミアが自分の観察力を、みんなに知ってもらうためにやったんですよ』


ミアが出した紙には、全員の記入していた紙と、少しのズレはあったが、ほとんど同じ場所を塗りつぶされていて、全員の紙と一致していた。


藤岡『たった2時間程度で...』

滝澤『これは驚いたな...』


ミア『皆さんには、今必要な練習や知識を、それぞれ自覚してもらって練習してもらう必要があります。そのためには、まず私の実力も知ってもらいたかったんです。』


大雅『ミアちゃんすげぇよ!』

勉『これは凄すぎますよ!』

赤司『流石は翔の幼馴染ってことか。』


滝澤『藤岡、まだ異論があるか?俺は無いわ』

藤岡『ふんっ。』

ミア『ありがとうございます!』


滝澤『それで、練習メニューはどうなった?』

ミア『はい!これです!』


全員に、練習メニューが書かれている紙を渡して説明を始めた。


『基本的な練習メニューは変わりませんが、祝日などの練習時間が長く取れる日だけ、個人練習がメインになっています。』


ミアが用意した練習メニューは、めちゃくちゃハード、ではなく、ごく普通の内容になっていた。

藤岡はこの内容を見て、すぐに質問した。


『これじゃ普通すぎないか?』


藤岡だけじゃなく、今回は全員が同じことを思っていた。


『はい!練習内容は大きく変えてはいません!流石は代表経験のある先輩たちです、むしろ変える必要がそんなにありませんでした。でも、その下の※印のところをちゃんと読んでください』


ミアの説明で、全員がそこに注目していた。

そこには、こう書かれていた。


※追加ルール

ミス1回につきダッシュ1本、エンドラインからエンドラインまで1往復。

(ミスとなる行為、ドリブルミス、シュートミス、パスミス、キャッチミス、明らかにミスを避けるプレー)

これを連帯責任で行う。


これを見た全員が動揺した。


藤岡『おい!これじゃ足引っ張られたら最悪じゃねぇか!』

ミア『確かにそう思うかもしれませんが、バスケはチームプレーで成り立ちます!』

赤司『そうかもしれないけど、いくら何でもこれは...』

滝澤『いやでも、ミアちゃんの言う通りかもしれなぞ?』

藤岡『おまえ...』

滝澤『考えてもみろよ、俺たちが挑もうとしてる場所はどこだよ』

ミア『このペナルティーで、雰囲気が悪くなることがあるかもしれません。』

翔『でも、これくらい団結して乗り越えないと、勝てる相手じゃないってことだろ?』


『すみません!!!!先に謝っときます!!』


大雅が大きな声で、謝った。


大雅『俺めちゃくちゃミスして、足引っ張るかもしれません。でも!絶対ミス減らして、試合でも活躍できるようになるので...!』

勉『え?なに言ってるんですか?』

赤司『ミス減らすとかの前に試合に出れるようにならないとな!w』

大雅『ちょっ!お前ら!!』


滝澤『よし静かに!とりあえずこの内容でやってみよう!』

藤岡『おい!本気で言ってんのか!?』

滝澤『誰にでもミスは絶対ある。でもそれを乗り越えなきゃ俺たちに先は無い!』

藤岡『チッ。お前ら足引っ張んじゃねぇぞ!』


全員まだ乗り気では無かったが、キャプテンが言うことに、不思議と誰も反論しなかった。

この時ミアは1年全員に、一言だけアドバイスを施した。


『いい?正直ミスをしても仕方ないわ。でも同じミスは絶対にしないこと。それと、ミスを怖がっちゃダメ!常に思いっきりプレーして!』


翔『うん。分かってる!』

誠也『分かりました!』

大雅『よっしゃ!やってやるぜ!!』

勉『大雅くん?ミスをですか?』

赤司『あぁ、ミスを、だな。』


大雅はからかわれても、珍しく反論せずに大人しかった。

そうこうしているうちに、滝澤が開始の合図を掛けた。


『じゃあ練習始めるぞぉ!!』


全員はストレッチを十分に済ませて、最初のメニューの、ハンドリング練習を始めた。

内容は、基本的で簡単なハンドリング方法を数種類、24秒間に1種類ずつ、ひたすらこなしていくだけだ。


大雅『あぁ!!クッソォ...やらかしたぁ!』

藤岡『おい!しょうもないミスすんじゃねぇよ!』

大雅『すみません!』


大雅だけじゃなく、ドリブルが苦手な誠也と2年の涼も、ミスをしていた。


ミア『ハンドリングでのミスが、合計7回なので、7往復ダッシュです!』

滝澤『よし時間も無いから早く走るぞ!』


流石に7往復ダッシュは、全員の体力を吸い取っていた。


ミア『次、レイアップシュートです!』

滝澤『よし!始め!!』



ペナルティーを消化しながら、最後の練習メニューになった。


ミア『ラストは、事前に発表した組み合せで1対1です!このメニューでのペナルティーは、負けと引き分けにやってもらいます!』


『おぉ...!』


全員少しやる気になっていたが、かなり疲れていて、元気が無かった。

この時すでに、前の練習メニュー中にミスが重なり、合計42往復ダッシュしていた。


そして疲労がピークの中、大雅と勉の勝負が始まった。


2人は全員と比べて、体力が劣っていてかなり疲れていた。

先行は勉からで、2人は話すこともなく位置に着いた。


そして勉は、笛の合図とともに、右側へ大きく展開するドリブルをして、ディフェンスを剥がそうとしたが、大雅も負けじとくらいついてきている。


そして次の瞬間、勉の早いステップバックからの3P!!


『やっぱりそう来たか!』


大雅は読んでいたと言わんばかりに、勉の方へジャンプした。

だが、勉はジャンプしていなかった。


『流石にフェイントくらい使いますよ!』


勉は大雅がジャンプしてきたのを見て、タイミングをずらして3Pを決めた。

そして大雅は、思わず叫んでいた。


『ぬぁっ...くっそぉ‼』


思っていた以上に好勝負だったため、見ていた全員は小さく歓声を上げていた。

そして、攻守が入れ替わり、今度は大雅が好プレーを見せようとしていた。


笛の合図が鳴り、大雅も右サイドへと素早くドライブを仕掛けた。

それに勉も反応して食らいついたが、大雅は素早くステップバックを決め、勉を完全に引き離して、ミドルシュートを放った。

勉は完全に、やられた...と思って、そのシュートされたボールを眺めることしかできなかった。


ガンッ!!


大雅『だぁ!!外しちまったぁ!!』

勉『ふぅ...危なかった。』


翔『二人ともナイスプレー!』

滝澤『うん!初にしてはいい感じだったぞ!』


『ありがとうございます!』


大雅と勉はこの時、確かに少しだが手応えを感じていて、素直に心の中で喜んでいた。


大雅『次は負けねぇからな勉!』

勉『僕も負けるつもりはありませんよ!』


滝澤『じゃあ次!涼さんと誠也!』


2人はセンタープレーでの勝負になった。

先行は涼からで、ここで普段、あまり見ることの無かった涼の動きに、誠也は手も足も出なかった。


涼はゴールに背を向けて、誠也を背中にしたまま力強いドリブルをして、ゴールにじわじわと近付いていた。

誠也もそれに全力で抵抗していたが、涼のパワーだけじゃない技術に、完全に押し負けていて、戸惑っていた。

そして、誠也は一瞬涼を見失った。


滝澤『大人げないぞー!w』

涼『いやいや!負けられないですよw』


そう言いながら涼は、余裕を見せながら綺麗なターンをして、誠也を置き去りにした。そして、簡単にシュートを決めた。

誠也は悔しそうにしながらも、目を輝かせていた。


誠也『涼さん!俺もそれくらい上手くなりたいです!』

涼『センターは、力だけじゃなく、駆け引きも大事だからね!僕が教えれることなら教えるから、何でも聞いてね!』


そして攻守が入れ替わり、誠也がさっき涼がやっていたのを見様見真似で、涼をゴール下へ押し込もうとしたが、涼は全く動かなかった。

誠也は涼の気迫に押し負け、その場でターンして、無理やりシュートをしたが入らなかった。


滝澤『誠也ナイスファイ!』

藤岡『涼のくせに大人げねぇな...』

涼『いちを先輩として負られないですよ!』


誠也は完全に負けていたが、涼の強さを知って逆にやる気が湧いていた。

周りで見ていた翔たちも、先輩の威厳、というやつを再認識していた。


滝澤『じゃあ次、翔と赤司!』


赤司は正直乗り気じゃなかった。

だが赤司も負ける気はなく、真剣な表情でディフェンスに着いた。


赤司『本気で来い!!』

翔『言われなくても!』


翔は笛の合図と共にドリブルを始め、赤司の様子を見ていた。

赤司は、守っていても勝てないと分かっていたため、積極的にボールをカットしようと、前に出てディフェンスをしていた。


翔は、ここまでボールを取りに来るディフェンスをされるのが初めてで、少し戸惑っていた。

しかし、押しているように見えた赤司の視界から、いつの間にか、ボールだけが消えていた。

そして赤司が、見失ったボールを探そうとした瞬間、翔は赤司の目線が外れたのを確認して、背中から赤司の頭上に、ふわっと上げていたボールを、バウンドする前にキャッチして、一気にゴールへ走り、レイアップシュートを決めた。


翔のプレーを初めて見ていた藤岡が、赤司に声をかけた。


『赤司!なるほどな!wけど、諦めんなよ!!』


赤司は藤岡にそう言われて、攻守を変わった。


赤司『翔、ディフェンスで負けても、ドリブルは止めさせないから!』

翔『あぁ!全力で止めるよ!』


赤司は、笛の合図とともに、トップスピードで翔の右側へドライブ、と見せかけて3Pラインまでステップバックをして、シュート体勢に入ろうとした。


勉『この動き...さっき僕がやった動き。しかもスピードが段違いに速い!』

大雅『流石の翔も反応できないか!』


しかし翔は、それに追いついてブロックしようと手を挙げた。

だが、翔が手を挙げるために前へ出た瞬間に、赤司はまだ、ボールを片手でキープしたままで、翔が前へ来たと同時に、赤司はクロスオーバーをして、翔を置き去りにした。

あっという間の勝負に、息をする暇も無かった。

そして赤司も、フリーでシュートを決めて終わった。


翔『くっそおぉ!!』

赤司『よしっ!』


周りで見ていた全員も、練習とは思えないくらい盛り上がっていた。


滝澤『二人ともナイスプレー!』

藤岡『俺たちも負けてらんねぇな!?』


そしてついに、3年生対決が始まろうとしていた。





つづく...

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空を翔る Stitch君 @Stitch_kun3

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