第3話【希望】

前回のあらすじ

帰り道の公園で、バスケの上手い同じ年くらいの人を見かけた翔とミアは、

その人のことを気にしつつも、これから始まる生活に期待を膨らませていた。

___________________________________



ピピピッピピピッ!! カチャ


『おはよう翔〜。あれ?もう居ないじゃん!どこに行ったの…』

ミアが眠そうに起床すると、外から音がした。


ダムダムッ、ザッザッザ! シュパッ!!


ミアはすぐに音のする方に行き、

翔を見つけると、驚きを隠せずに言った。

『翔!あんた朝から何やってるのよ!』


翔『あ、おはようミア!朝練だけど?なに?』

ミア『それは見れば分かるわよ。そうじゃなくて...朝練でかく汗の量じゃないでしょ!!!』


翔は、笑いながら答えた。

『いや昨日は全然バスケしてなかったからさ、何だか我慢出来なくってつい』

それに対してミアは、呆れた顔をしながら言った。

『どんだけバスケが、好きなのよ...』


そこへ翔の母が来た。

『翔ー‼朝ごはんできたわよー‼…あらミアちゃんもおはよう、

手を洗って早く来なさーい』


母に言われ朝食を済ませ、学校へ行く支度を済ませた。


『いってきます!!』


2人は家を元気に出て学校へ向かった。


学校へ向かう途中、翔はいつも通りのスピードで自転車に乗っているミアを離さんとばかりに走っていた。

ミアは、必死に食らいついていた。


すぐに学校に着くと、昨日の帰りに公園で見た人を見つけた。


翔がすぐに声をかけようとした、

『あ、あの!!』


???『ん?何?』

翔『名前と学年を、聞いてなかったんだけど』

???『赤司 春斗(あかし はると)1年だけど?』

翔『同級生だったんだ!昨日も説明したけど俺が翔、こっちがミア。』

ミア『よろしくお願いします!』

赤司『あ、同級生だったんだね』

翔『あれ?なんでバスケ部に入らないの?』

赤司『部活?そんなお遊びしてる暇ないから。じゃあ行くから...』


翔が引き留めようとしたが、赤司はその場を立ち去って行き、

その時、学校のチャイムが鳴り響き、2人も慌てて教室へ走った。


・・

・・・


午前中の授業が終わり昼休みになり、翔のもとへミアが来た。


『ねぇ、赤司くんを探さない?』


『いいけど、他の部員にも声かけておこう!』

翔はそう言うとすぐに立ち上がり、別のクラスになった3人のもとへと急いだ。


そして1年の全員が集まり、翔が昨日の出来事を話した。


大雅『まじかよ!その赤司ってやつは、翔とミアちゃんが驚く程上手いのか?』

勉『じゃあ赤司くんに入部してもらえば百人力ですね!』

大雅『だな!けど、赤司のクラスは聞いたのか翔?』

翔『……、聞いてないから片っ端から探さないといけない。ごめん!!』

ミア『ほんと翔は、バスケ以外に頭が回らないよね』


ミアの言葉に全員が声を出して笑った。


誠也『でも僕たちは、その人を見て無いから分からないよ?』

翔『それなら大丈夫』

大雅『なんでだ?』

翔『赤髪で身長が俺と同じくらいなんだ!』


『赤髪!!?』

全員が驚いた。


勉『もしかして、ヤンチャな感じの人ですか?』

大雅『おいおい本気か?』

ミア『赤髪ってだけでそんな人ではなかったよ。多分地毛だと思うよ!』

翔『でも、入学式も部活見学にも来てなかったから、なにか理由があるのかも』

誠也『確かに赤髪なら、入学式とかでも目に付くはずだけど、見かけてないかも』


するとそこへ、今話をしていた特徴と一致する人物が通りかかった。

それが赤司だと、全員が聞くまでもなく気が付いていた。


翔『あ、ちょうどよかった、少し話できない?』

赤司『何を話すの?』

翔『部活に何故入らないのか聞きたくて』

赤司『理由なんてないよ。朝も言ったけど、俺には遊んでいる暇がないんだ』

翔『遊びってどういうこと?』

大雅『俺たちのバスケがお遊びって言いたいのか?』

赤司『まあ、そうとらえてもらって構わないよ』

翔『じゃあ、俺と勝負しようよ』

勉『翔くん?勝負してどうする気ですか?』

赤司『いいよ分かった。俺が勝ったらもう誘ってこないでくれ』

翔『わかった。俺が勝ったらバスケ部に入ってもらうから』


赤司は鼻で笑いながら、余裕の表情を見せていた。

この展開に周りは少し戸惑っていた。

しかし、ミアだけは嬉しそうに期待の笑みを浮かべていた。


ミア『翔?勝てるの?』

翔『分からない。けど自信はあるよ』


2人は、わくわくしていた。


翔『じゃあ赤司、放課後体育館で待ってるからね!』

赤司『負けても知らないからね。』

大雅『翔はめちゃくちゃ上手いぞ!!舐めてたら痛い目に合うぜ』

勉『なんでそこで大雅くんが偉そうにするんですか!』

大雅『う、うるせーよ!ともかく絶対来いよ!』

赤司『あぁ言われなくても分かってる。じゃあまた』



そして放課後の体育館.........

全員が集まり赤司が来るのを待っていた。


大雅『遅くないか?まだ来ないのかよ...』

翔『大丈夫だよ赤司は来るよ』

大雅『なんでわかるんだ?』

翔『赤司はバスケの腕に自信があるみたいだから、必ず勝負してくる』

勉『なるほど、翔くん頑張ってくださいね!』


体育館の正面の入り口に赤司の姿が見えた。

赤司は、堂々とした立ち振る舞いで、全員が想像もできないほど礼儀正しく体育館に一礼をして、落ち着いた様子で翔たちのもとへ来た。

全員その様子に少し見惚れていた。


赤司『ごめん少し遅れた。さあやろう!』

翔『待って!』

赤司『なに?早く終わらせたいんだけど...』

大雅『なんだよ翔、怖気づいたのか?』

翔『いやそうじゃない、赤司は今来たばかりで体が出来てないから』


全員が少しハッとなって落ち着きを取り戻した。


翔『赤司のタイミングで始めよう!』

赤司『なに?余裕って言いたいの?』

翔『そうじゃない、終わって言い訳されたくないからね』

赤司『上等だ、後悔するなよ!』


そして赤司がウォームアップを始めた。

普通のウォームアップとは、明らかにレベルが違うのを見ていた全員が、一目でわかった。

赤司は30分程の入念な準備運動を済ませて、コートを軽めに走った。

シュート練習をせずに翔のもとへ来た。


赤司『もう十分だ。始めよう!』

翔『文句なしで正々堂々やろう!』


ついに2人の真剣勝負が始まった。

全員が息を呑む中、翔が赤司にボールを渡した。


翔『スリーポイント無しの10点マッチでやろう』

赤司『あぁ...分かった』

翔『赤司からでいいよ』

赤司『後悔するなよ』


赤司は先行を譲られた事に対して、少し不満そうにしながらも位置に着いた。

翔もほぼ同時に位置に着き、ディフェンスの構えをとった。


赤司がドリブルを数回してから勝負が始まった。


そして次の瞬間、翔の視界から一瞬で赤司が消えた。

翔の右脇腹を瞬く間に抜き去った、それを見た周りは何が起きたかを理解できていなかった。


赤司がそのまま、レイアップシュートをするためにボールを持とうとした瞬間、赤司の手元からボールは無くなっていた、置き去りにされていたはずの翔が即座に赤司のスピードに反応して追いついて来ていたのだ。


赤司の顔から、余裕が無くなっていたのがその時見ていた中で、ミアだけは気付いていた。

そしてボールは、後から来たはずの翔がしっかりと両手で持っていた。

これを見ていた全員が興奮していたが、ミアと翔だけは納得できていなかった。


翔が赤司にボールを返した...


翔『今最後の一歩で油断して、手を抜いて減速しただろ』

赤司『やるじゃん...これほどできるとは、正直思ってなかったよ』

翔『もう一度やり直しだ、次からが本当の勝負』

赤司『そんな余裕あるのか?』

翔『いいからやろう!』


大雅『おい勉...今ので全力じゃないってまじか?』

勉『僕に言われても知りませんよ!』

大雅『やべぇよあいつら、もしかしてすごい選手になるんじゃ...』

誠也『俺もそう思う』

ミア『赤司くんは分からないけど、翔は昔からものすごい量の練習をしているよ』

勉『才能と努力ですか、凄いですね』

ミア『いや、始めたばかりの頃は私より下手で、才能の、さ、の字も無かったわ...』


ミアが言った言葉に全員が耳を疑った。


大雅『そうなのか!?』

ミア『とても負けず嫌いで私に勝つことを目標に猛練習してきたのよ。そして、そのままバスケに夢中になってるの』

勉『てっきり、才能の塊かと思ってました。』

ミア『確かに人より運動神経は優れているけれど、バスケを始めたころは周りに馬鹿にされていたくらいよ。』

大雅『そうだったのか、羨ましく思ってたけど努力家だったとはな...』

誠也『やっぱり努力すれば必ずものになるよね。』


全員はそう話しながら2人を見ていた。

するとそこへ、キャプテンの滝沢が来た。


『おい、何やってるんだ?』


翔『お疲れ様です。新入部員の入部テストです。』

赤司『は?まだ入部するとは言ってないだろ』

翔『赤司は確かに強いけど、俺とは相性が悪いよ』

赤司『相性?俺のほうが弱いって言いたいのか?』


滝沢『なんだ?ようするに、勝負次第で入部が決まる感じか?』

翔『はい。やらせてください!』

滝沢『わかった、これで部員も揃うことだし、いいだろう。』

翔『ありがとうございます!』


赤司『早くやろう』

翔『うん!始めよう』


2人がまた向き合うと、体育館は静まり返り、コート内の空気が重く張りつめているのが、見ていた全員が感じていた。


赤司が気合を入れて吠えた。


『いくぞ翔‼』


そして、赤司がドリブルを数回して、一気にトップスピードまで上げて走りだした。

翔も身構えたが、一瞬反応が遅れていた。


赤司が素早く右にドライブを仕掛けた。

しかし、翔はすぐに反応して止めた。

赤司は翔が止めることを予想していたかのように、反対側に''クルッ''とトップスピードのままロールターンをして、翔を一瞬で抜き去った。


さすがの翔も、これには反応できていなかった。

赤司はそのまま翔を置き去りにしたままレイアップシュートをフリーで決めた。


翔は悔しそうにしながらも冷静に攻守を交代した。


赤司『そんなもんなの?俺は負けない...』

翔『じゃあこの攻撃を止めれたら、赤司の勝ちでいいよ』

赤司『は⁉ふざけるな!最後まで楽しませろよ!』

翔『まぁやれば分かるよ。じゃあ行くよ‼』


翔はドリブルを始めて赤司を左右に軽く揺さぶる様に、小刻みにフェイントをした、しかし、赤司のディフェンスにもなかなか隙が無い。


それを見ているバスケ部の全員が少し焦り始めていた。

この勝負の様子を1人だけは楽しそうに見ていた。



『なんで手を抜いているの...』


ミアが誰にも聞こえないような小声で呟いた。


そして次の瞬間その声が聞こえていたかのように、翔の動きが見るからに変わった。

誰が見ても赤司が遊ばれているように見えるほど、レベルが違っていた。


『おい...まじかよ。』


あまりの変わりように、ミア以外の見ていた全員が絶句した。


そして翔は、赤司が一瞬も反応できないうちに抜き去って簡単にシュートを決めた。

赤司は一瞬、抜かれたことにも気づけていなかった。


赤司『.........。』

翔『どうしたの?次赤司の番だよ?』


赤司は動揺を隠しきれずに膝をついていた。


『次なんてやらなくても今なら分かる......俺の負けだ。』


『最後までやろう!』

翔は赤司にボールを渡した。


赤司『いや本当にもう十分だ。』

大雅『なんだよビビッちまったのか?』

勉『ちょっと大雅くん!』

大雅『だってそうだろ?男なら最後まで諦めてたまるかよ。』

赤司『確かに大雅の言う通りかもしれない』

大雅『じゃあなんでやらないんだよ』


大雅が煽るように責めていたが、赤司はかなり冷静に答えた。



『翔はまだ本気を出していないからだよ...』




つづく…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る