その4 探し物

 飼い犬がどこにいるかわからない。いつも寝ている場所や愛犬あいけんのお気に入りの場所を何度も確認したが見当たらない。

 仕方なく母親に聞くと「そこに居るじゃない」とそっけなく言われる。

 見れば机の下に愛犬が寝ているではないか。

 しかし、しばらく目を離すとまた居なくなっている。見失うのとは違う、いる場所に目を向けたとしても見えなくなっている。

 見えなくなる度に母親にどこに居るのか尋ねる。そうすると認識にんしきすることができる。しかし、また見失う。


 認識と失見しっけんを繰り返し、家の中をうろついて愛犬を探していると、いつの間にか私の知らない部屋が出現していた。その頃には母親も知らない人になっていた。

 知らない人ではあったが、聞けば愛犬の場所を教えてくれた。愛犬を見つけ、私は安堵あんどしたが、それは黒いもやのような何かで、犬ではなかったが、たしかに私の愛犬だった。


 やがては知らない人ももやとなり、犬の場所を聞くこともできなくなると、何を探しているのかも私の頭の中から消えてしまっていた。すべての部屋は知らない部屋にわり、自宅じたくではなくなったその場所で何を探しているのかをずっと探していた。


――2018年8月3日

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