「すれちがい」
「……久しぶりね」
「そうだな。一年ぶりだ」
「仕事が忙しくてなかなか来れなかったの。ごめんなさいね。今日だって仕事切り上げてきたのよ」
「ありがたいこった。こうやって会えるだけでもうれしいよ」
「あ、これお酒。結構いい日本酒にしておいたわ」
「このやろー嫌がらせか~? 俺が飲めるわけないだろが!」
「あとこれも。でも、あなただったら花より団子だったかしら?」
「……ま、そうだな。そこ置いといてくれ」
「……」
「なんだよ押し黙って……久しぶりの再会なんだから色々聞かせてくれよ」
「……そう言えば恵のこと覚えてる? あの子、今年結婚したのよ」
「知ってるわ。恵本人から聞いたっつーの。相手は同じクラスの村上だ」
「驚きよね。私達が結婚する年になったってことが」
「そうだなぁ。俺には想像つかねえな」
「そう言えば、田畑君のこと覚えてる? あの子今ベンチャー企業の社長で、テレビに沢山出てるのよ?」
「知ってるっつーの。でもやべえ脱税してるらしいぞ。本人が『誰にもいうなよ』とか言いながら俺に喋ってたわ。あの調子じゃそのうちパクられるかもな」
「あと、佐伯さん。いたでしょ? クラスのマドンナ。あの子、女優業やるって言ってたけど、今どうしてるのかしら」
「あー。あいつはとっくに女優業やめて普通に結婚してるよ。大見得きって女優やるって言った手前、クラスの連中には恥ずかしくて言えないんだとさ。確かもう子供二人いるぜ」
「……みんな、今どうしてるのかな。全員とそんなに仲良かったわけじゃないけど、年齢を重ねるとクラスメイトって貴重だったなってしみじみ思うわ」
「……ああ、いい連中だよ。毎年会いに来てくれるなんてさ」
「不思議。あの頃は毎日嫌でも顔を合わせていたのに、今となっては仲の良かった子以外は、もう顔も名前も思い出せない。あの頃は忘れるはずないって思ってたのにね」
「……皮肉なもんだな。俺の方が連中について詳しいなんてよ」
「……あなたは人気者だったから、もしかしたらまだみんなのこと覚えてるかもしれないわね」
「人気者って程のことはなかったけどな。モテたりもしなかったし」
「文化祭実行委員とかやってたじゃない。結構女子から人気あったのよあなた」
「そうだったのか。それはもったいなかったな。でも俺はお前のことが一番好きだったけどな」
「……」
「……おい、なんか言えよ。流石に恥ずかしいだろ」
「……私ね、こんど結婚するの」
「……そう、か。唐突だな」
「相手はね、会社の人。あんまりカッコよくはないけど、優しい人よ」
「……そうか。それは、よかった。優しいのが一番だよ。ってお前、こんなとこ来てよかったのか? 浮気とか疑われないか?」
「……私、ね。知ってたよ。あなたが私のこと好きだったこと」
「……」
「ずっとずっと気づいてた。でもね。それを言っちゃったら何かが終わっちゃうような気がしてね。ずっとなんにも言えなかったの」
「……泣くなよ。昔のことだろ」
「私もね、本当はあなたのこと好きだったの。大好きだった。でも、言葉に出すのが怖かった。だから、あなたが卒業式で告白してきた時、思わず逃げちゃったの。でも、すっごくすっごくうれしかったの。すぐには無理だったけど、時間をかけてこたえていきたいって思えたの。だけどあなたはそのあとすぐに……」
「……」
「ひどいよね。私。あなたのこと知ってたはずだったのに。あなたは勇気を出してくれたのに。逃げて、都合よく解釈して……傷つけたよね? 苦しかったよね? 本当にごめんなさい……ごめん……なさい……」
「……いや、悪いのは俺だよ。もっと早く告白してれば、もっと早くお前のことに気づけてれば、こんなことにはならなかったんだから。優しいお前のことだ。今の旦那と付き合ってる時も、俺のことちらついてたんだろ? 俺に悪いとか思ってたんだろ? そんなこと、気にしなくていいからよ。俺はもう……」
「……ごめん。こんなこと今言ってもしょうがないよね。何言ってんだろ、私」
「いや……」
「……ごめん。そろそろ行くね」
「……ああ。来てくれてありがとな。旦那によろしく」
「……」
「……」
「ねえ」
「でもよ」
「……どうして返事してくれないのよ」
「……やっぱ生きてるうちに言って欲しかったな」
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