三話 質問させて!

「ええと、まず、わたしがそのさめ?に襲われていた所をあなたが助けてくれたんですか?」

「あぁ…うん、まあ」

「なるほど…」


って、いや、なるほどじゃないですよね。絶体絶命の危機を助けてくれたのですからここは、


「ありがとうございます」

「あ、いや…」

「そして、助けてくれたというのに出会い頭のあの態度、本当に失礼しました」

「か、顔を上げて!そりゃ僕だっていきなり知らない人について来いって言われたらああなると思うし…」

「…優しいんですね」

「いや、そんなことは…」


エルさん、とっても優しい人だなあと思いました。

人を簡単に信じちゃいけないとよく父に言われましたが、この人はなんだか信用できそうだと思いました。

なんかピュアで嘘つけなさそうですし。むしろ騙される側っぽいです。

…ていうか、


「エルさんがわたしをあのでっかいサメから助けてくれたんですか!?」

「うん、まあ」

「うそでしょ!?あんなでっかくて凶暴な魚を!?1人で!?こんなヒョロそうなのに!?」

「ヒョロっ……うん、まあ認めるけどさ。でも助けたのは僕一人じゃないよ。村の大人たちもだよ」

「大人たち…じゃあその人たちにもお礼を言わなきゃですね」


いやー、しかしエルさんがその大人たちに混ざってあんな恐ろしい魚に立ち向かったとは。

ヒョロくてピュアそうに見えて、実は運動神経抜群で肝が据わっている人だったりするのでしょうか?

…うーん、前言撤回。やっぱりエルさんもあまり信用できませんね。要観察です。

でも助けてくれた恩人ということには変わりないので、


「エルさんにだけ名乗らせておいてわたしは名乗らないというのも失礼なので名乗らせて頂きます。わたしはシェリルです。もうお分かりでしょうが、旅人です。どうぞよろしくお願いします」

「シェリルさんか。よろしくね」


わたしが名乗るってことは最上級の敬意や感謝を表しているってことです。わたしの故郷ではそうでした。まあここは異国なんで関係ないですが。

しかし、エルさんわたしの名前をなんの抵抗もなく言いますね。スラスラと耳に馴染む響きでした。まるで前からわたしの名前を知っていたような。

…いや、まあ、そんなわけないですけど。


「あ、そういえば、わたしが乗っていた船は…?」

「あ、もう壊れたよ」

「…あー、壊れましたか。………あーあー」


いや、まあ、分かっていたことですが。

そりゃあんな凶暴な魚にやられたらもう壊れてること確実でしょう。

うーん、でも意外とショックだなあ…祖父の形見の一つでしたし、わたしの唯一の旅の移動手段でもありましたし、なにより…


「あんなに大金を払ったのに…」

「え、あんなボロ舟で?」

「ボロ舟ぇぇえ!?!?」


壊れたことは仕方ありません。えぇ、もう受け入れました。

しかし、その言葉。

聞き捨てならん、聞き捨てならんぞ!!

ボロ舟とはなんですか!!あんなに大金を払ったんですよ!?わたしの国ではめったにない"きかい"が搭載されたハイテク船だったんですよ!?


「モーターがしょぼすぎるんだよね」

「しょぼっ……!」

「すごく脆かったからたぶんすぐ壊れてたと思うよ」

「もろっ……!」

「あんなので旅するとか自ら死にに行くもんじゃない?」

「……………」


ダメージ絶大です。

しかもエルさんがそれを控えめに笑いながら悪意なんてなにもなさそうなピュアな顔で言っているのが心に刺さります。

…ここはわたしの名誉のためにも嘘をついておきましょう。


「あんなしょぼくてもろいボロ舟で旅とか、ご冗談を。わたし、本当はほかの船で旅する予定でした。それはもう大きな大きな船です!」

「やっぱりそうだよね!あんな船で旅とかありえないから!」


ああ、ごめんなさい船…わたしはわたしの名誉のためにあなたを売りました。ごめんなさい…わたしが無駄にプライド高いせいなんです…あなたは悪くない…。

ていうかわたしの国はやはり文明レベルが低すぎたんですね…あんな高級品をボロ舟呼ばわりされるとは。

大丈夫、ボロ舟だろうがなんだろうが、わたしはあなたのこと絶対忘れません。そうですね、事がすんだらあなたを再利用しましょう。

物知りなエルさんなら再利用の方法を知っているはず。その"もーたー"というものについても教えてもらいましょう。

あぁ、また質問事項が出来てしまいました…。

分からないことだらけで、だからこそ知りたくて堪らないのです。


壊れてしまった船には申し訳ないですが、正直、今、とても楽しいです。


外の世界を知るって、こんなにもワクワクするんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る