二話 辿り着いた島

目が覚めたときには、わたしはどこかの島の浜辺に倒れていました。

身体中が痛いし、全然記憶がないです。

確か、2回目の嘔吐をした後調子に乗ってスピードを上げて、それが予想以上に辛くて3回目の嘔吐をして、そのまま4回目の嘔吐をしようとしたら、何かよくわからないでっかい魚に遭遇して驚きのあまり吐き出そうとしたモノが逆流してきて────


「あの、大丈夫?」


誰かに声をかけられました。

痛む身体を頑張って起こして声の主を見ると、白髪で少し痩せた少年がそこにいました。

大体12歳とか13歳ぐらいでしょうか。小さい身長に幼い顔立ちをしています。

とりあえず、わたしの記憶にその少年はいないので、


「…誰でしょうか?」


そう聞くと、少年は少し驚いたような顔をしました。


「え、覚えてないの…?」

「はい、なにも」

「そっか…まあ無理もないよ」


優しい少年はわたしの手を取って立ち上がらせます。

うう、体が痛い……


「とりあえず村長から君を連れて来いって言われてるんだ。村まで僕が案内するよ」

「村…?ていうかここどこなんですか!?」


今更なことに気づくわたし。そうですよ、どうしてわたしはこんなところに辿り着いたんですか!?ここどこですか!?


「てか本当にあなた誰ですか!?」


知らない人にはついて行くなとよく父母から言われました。わたしの周りはいい人ばかりだったしほぼ全員見知っていたのでその言葉を当時は真面目に聞いてはいませんでしたが…今、その言葉の意味が分かりました。

どうせその村長とやらにわたしを連れて行って乱暴するんでしょう!?この前こっそり見たどこかの本でそんなシーンがありました。女の子を甘い言葉でおびき寄せ、何も知らない女の子はノコノコそれに付いて行ってしまう…そして……あぁ、思い出すだけでおぞましい。あれは今まで読んだ本の中でもトラウマ級の本でした。

やっぱり異国は怖いですね。まさか旅に出てすぐこんな本のようなシーンに出会うなんて。でも大丈夫、わたしは自己防衛が出来る子です。

わたしは白髪の男の子の手を振り払いました。その時初めて自分の手が震えていることに気付きました。

ええ、正直とっても怖い。もし、あの本のようなことをやられたらどうしよう。怖い。怖すぎる。でも、そんなことおくびにも出しては駄目。そう、"あのとき"のわたしの様に、堂々としていればいいんです。


「あなたはだれですか、答えなさい。」

「あ、あの、えーっと…」


わたしの剣幕に押されたのか、男の子が口篭ります。

あと、もう一押し。


「答えなさい」

「…僕の名前はエル。この島に住んでるただの子供だよ。君に接触したのは村長に頼まれたから。村長も悪いことを企んでいるわけじゃないよ。ただ、大海原でサメに追われている君を助けたから…」

「……え??」


やっぱりわたしの言葉は効いたようですごすごと答えてくれたエルという男の子。ていうかその内容についていろいろと聞きたいことがいっぱいあるのですが。

順々にエルさんに聞いてみましょう。


「えっと、さめ?ってなんですか?」

「……え??」


今度はエルさんが困惑する番でした。

何を言っているか分からないという顔をしているので質問に補足を付けましょう。流石わたしってば優しい。


「わたしが気を失う少し前に遭遇したあの頭らへんに変なトンガリがあって牙が鋭いでっかい魚ですか?」

「…うん。そうだよ。それをサメっていうの。知らないの?」


そも知ってるのが当たり前という顔をされました。

そんなことを言われても…あんなおぞましい魚初めて見ましたし…旅にでてすぐなのに本気で死ぬかと思いました。


「ごめんなさい。わたし世間知らずなんです」


とりあえず謝っておきましょう。頭を下げりゃあ何とかなりますよ大抵は。

…それはさすがにないか。


「…いや、いいんだ」


エルさんは諦めたような顔で笑いました。

ごめんなさいね、救いようの無い世間知らずで!

とりあえずわたしの質問には答えてください。


「あの、あと…」

「ゴメンね、早く案内しないと村長に怒られるんだ。質問は歩きながら聞くよ」


わたしの話を遮ってエルさんが言いました。

随分焦っているご様子。そんなに村長さん怖いんでしょうか。

まあいいでしょう。質問には答えてくれるのなら。

そして、わたしたちは歩き出しました。

が、すぐになにかに引っかかってコケそうになりました。

いや浜辺でコケそうになるってなんなんですか?ありえなくない?と思い下を見ると、


「うわあ……」


浜辺はお世辞にも綺麗とは呼べないものでした。木の棒、布切れ、へんなお水が入ったボトル(ぺっとぼとる、と書かれていました)、大きな"てれび"…

浜辺には、"きかい"がいっぱい転がっていました。わたしの故郷では"きかい"は高級品で、"てれび"だってわたししか持っていないし、わたししか知らないはずなのに、ここではそんな"てれび"や、わたしの見たことのない"きかい"が沢山あって、それらがまるでゴミの様に扱われています。

やっぱり、ここは異国だ。わたしは改めてそう認識します。まずは、ここがどんなところなのか把握しないと。たぶん、"きかい"を簡単に捨てれるほど文明レベルが高いのでしょう…と思いエルさんとわたしが向かっている進行方向を見ると、


「木がいっぱい…」


わたしの故郷も木がいっぱいでしたがこんなにおおくは無かったです。

そしてそんな木たちの中には木の棒と葉っぱだけで作られた家たちがぽつぽつと建っています。

えええ…?こんなのわたしの故郷の方が家の建築のレベル高かったですよ…?

ここ、文明レベル高いのか低いのかどちらなんでしょう?


「どうしたの?」


わあ、エルさんがいつの間にか先に行ってる!

きっと村長さんに怒られてしまうから急いでるのでしょう。焦りが顔に出ています。

わたしも早く行かなきゃ。わたしのせいでエルさんが怒られるなんてあってはならないです。

それに、こんなこの国についての考察を延々と1人でするよりエルさんに聞いた方がよっぽど早いです。


「ごめんなさい、今行きますね」


最後にもう一度だけ振り返り、ゴミだらけの浜辺を見て、その向こうに広がる海を見ました。

わたしの故郷は、もう見えない。

当たり前です。もう異国に来てしまったのですから。もう旅に出てしまったのですから。


「お父さん、お母さん、ごめんね」



「いってきます」

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