第二話「休日を遊ぶ二人」

「お待たせ、結人くん。……待った?」


「今来たところだよ……って言うのにずっと憧れてた。あぁ! 人生で初めてこのセリフ言う相手がお前でよかったよ、政宗」


「そ、そう!? これは光栄に思っていいのかな」


 五月一日、ゴールデンウィーク初日の昼下がり――駅にて待ち合わせた結人と政宗。


 いつぞやさりげなく遊びに行く約束をしていた二人だが、土日はマナ回収の疲れを思ってお互い遊びに誘わなかった。なので、こういったタイミングでなければ約束を果たせなかったのだ。


 さて、早速移動を開始――といきたいところだが、少なくとも結人的にこれはデート。となれば、それなりの振る舞いをしたいのが彼の心情である。


(女の子が気合い入れてきた服を褒めるのはデートの鉄則。しかし、政宗の場合はどうなるんだ……?)


 政宗が着ている服は男物。寒色系のボディーラインをぼかした服装で、おそらく「ボーイッシュな女の子が着てそうな服」を選び、なるべく男性的から逃れようとしているのが見て取れる。


 しかし、事実として男性の衣服。政宗にとって十全になり得ない服装を「似合っている」などと言ってはいけない気がしたのだ。


 とはいえスルーは違う気もして、結局は格好悪い手段に出るしかなく――、


「……その、政宗。正直、迷ってるんだが……俺はお前の服装を褒めてもいいのか? ほら、カッコいい服装をする女の人っているだろ? ああいう意味で言えば似合ってると思うんだけど、政宗としては嬉しい言葉じゃないのかなって」


 後ろ頭を掻き、困った表情で正直に語った結人。

 すると、そんな彼の葛藤や気遣いを思ってか政宗はくすくすと笑う。


「まずその気持ちが嬉しいな。あとボクも不自由な体なりに楽しめる部分は楽しんでるからね。褒めてくれたら嬉しいよ?」


「そうなのか? ……じゃあ、よく似合ってるぞ。政宗」


「うん、ありがと」


 顔を真っ赤にして小声で褒めた結人に対し、政宗もどこか気恥ずかしそうに体をもじもじさせながらギュッと目を閉じて笑む。


 そのようなやり取りを経て、二人は駅から歩き出した。


 ちなみにゴールデンウィークの直前になって遊ぶ約束をしたため、具体的な予定を立てられていない。


「とりあえずショッピングモールの方へ行ってみるか。店を見て回ってもいいだろうし、映画もアリだよな」


「いいね! 映画といえばボク見たいのがあるんだよね」


「そういえば政宗がどういう映画が好きとかも知らないな。この機会に知りたいよ」


「じゃあ、映画は決定ってことでよさそうだね!」


 特に予定のなかった今日という日がそれなりに充実しそうで結人はホッとした。


 さて、駅から数分歩いたところにあるショッピングモールへと辿り着いた二人。この建物は衣料品や雑貨、飲食店などが入っており、映画館も併設される総合施設。


 休日といえばこの場所。そしてゴールデンウィークならば尚更で、入り口から覗く店内は沢山の人で賑わってた。


「やっぱり連休だと人が多いね。映画もチケットが取れなかったりするのかな?」


「ネットで事前に予約しとくべきだったかもな。くそぅ、俺がもっとこういう外出に計画的な人間だったなら……」


「それは仕方ないよ。ボクだって慣れてないから気付かなかったし、映画はさっき決めたことじゃない。一緒に覚えていけばいいんだよ」


「そ、そうだな……」


 結人は政宗の言葉に救われるような思いとなりながら、入り口へと歩き出す。

 しかし、その歩む中でふと気付き、ドクンと胸を高鳴らせる。


(一緒に覚えていくって……それはどういう意味だ――!?)


        ○


「結人くんってどんな音楽を聴くの? やっぱりアニメの曲とかだったりするのかな」


「決して間違ってないけど、あくまでそれは一部だからな。俺だって何もかもを魔法少女アニメで全振りしているわけじゃない」


「なんか偏見持っててごめん……」


 映画までの時間を潰すべく、ショッピングモール内のCDショップへやってきた結人と政宗。


 ランキング形式となった新譜コーナーにて見つけたシングルCDを政宗は嬉しそうに手にし、裏面に記載された曲目を確認する。


「新曲出てる! すごく有名になっちゃったけど、前からこのアーティスト好きなんだよね」


「ネットから出てきた人だっけ。今やトップアーティストだよな」


「そうそう! 二枚目のアルバムに入ってる曲がきっかけで好きになったんだよね」


「へぇ、そうなのか! チェックしておこうっと」


 結人は教えてもらった曲名をスマホで検索し、楽曲をその場で購入。ダウンロードして聴けるようにした。


「で、結人くんはどんな音楽を聴いてるの? 教えてほしいな」


「俺はそうだなぁ……基本的には邦ロックかな? 洋楽とかも中学の頃、男子連中で流行ったみたいだけど俺は好きになれなかった。歌詞が分からない音楽は好きじゃないからな」


「結人くん、歌詞とかしっかり読んで聴くタイプなんだ?」


「そうだな。語感だけで作詞してる曲よりは、なんかこう胸に響く歌詞をした音楽の方が好きかな」


 結人は手にしたスマホのプレイリストを確認しながら語った。


 ちなみに、リリィと再会するまで結人は片思いや遠距離恋愛の曲を聞いて切ない気分になるのが好きだった過去がある。口が裂けても本人には言えない秘密だった。


 さて、そこから政宗は結人が普段聴くというアーティストのCDを探し、アルバム一枚を購入。ダウンロード購入で音楽を聴く結人に対し、政宗はアナログ派だった。


 そしてCDショップを出ると二人はウインドウショッピングを楽しむことに。季節を先取りしたレイアウトが印象的な服屋のショーケースを眺めながら二人はぶらぶらと歩く。


 楽しい時間のはずだった。しかし、政宗の憧れに揺らす瞳が結人には寂しそうに見えて心が締め付けられた。


 そんな流れの中で政宗はある店に飾られた一着の白いワンピースを見つめ、先ほどから送っていた羨望の眼差しをより一層強める。


(そういう服、着てみたいんだ。マナが貯まるまでの辛抱。……でも待てないよな。憧れは生まれてからずっとなんだろうし)


 ひとしきり見つめてショーケースから離れ、歩き出す政宗。


 その後を追うように歩み――しかし、ワンピースの前で足を止め、結人は意思を秘めた瞳でそれを見つめていた。


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