第三話「打ち砕かれた想いの行方」
「じゃあ、マジカル☆リリィの正体は男だっていうのか!? ……あ、確かによく見たら顔は同じだ! じゃあ俺は藤堂政宗……お前が変身した姿を好きになってたのか?」
「まず、ボクが魔法少女に変身してるって気付いてなかったの!?」
お互いの勘違いが露呈し、狼狽する二人。結人は抱いていた恋心が砕け散り、政宗は正体バラし損という誰も得しない状況だった。
冷静さを欠く事態。だが、リリィはあっさり落ち着きを取り戻していた。
理由は結人の酷い落ち込み具合である。膝から地面に崩れ落ちる光景を目の当たりにし、リリィはシーソーのように冷静さを回復したのだ。
「お、俺が今日まで抱いていた気持ちは……何だったんだ? はは、ははは」
「なんかゴメンね……。ボクがこんな紛らわしくなければ君も傷付かなかっただろうに」
「っていうか、お前……どうして男の身でありながら魔法少女やってるんだよ?」
「そ、それは……えーっと、色々あってさ」
「本当に色々あったのかよ? 明確な理由がないとそうはならないと思うけど」
立ち上がった結人は何か隠しているリリィを訝しんで見つめる。
「……どうしても知りたい?」
「そりゃ知りたいよ。正体が男だったとはいえ、好きな人のことなんだから」
「まぁ、そうだよね……話した方がいいよね。うん。君は勇気を出して告白してくれたし、ボクも話すべきなのかな」
決心した表情を浮かべ、リリィは頷いた。
「これはボクにとって魔法少女よりも隠さなきゃいけない秘密で、家族にも話してないんだけど――悪い人じゃなさそうだし、告白してくれた君だけには教えるね」
リリィは不安げに胸へ手を当て、深く息を吸う。そして、男の身で魔法少女をやっている理由を語り始める――はずだったのだが。
「あ、いけない! ボク助けに行かなきゃいけないのに忘れてた!」
「こ、このタイミングで思い出すのか!?」
「必ず魔法少女をやってる理由は話す。だから待っていてくれないかな?」
「助けに行くって……どこに?」
「駅前の銀行だよ。今、強盗が立てこもってるんだ。ボクはそれを助けにいかなきゃならない。必ず戻ってくるから――ちょっと待ってて」
建物の壁を蹴って昇り、ビルの屋上を足場にリリィは駅前の銀行へと向かった。
リリィを見送った結人はそのままビルの隙間から望む空を見つめ続けていた。やがて我に返ると両頬を手で叩き、表情は決心を秘めたものに変わる。
「……いやいや、マジカル☆リリィの正体が男だったからって何だよ。それで俺の恋心が冷める理由になるのか? 生半可な気持ちなのか、俺は確かめたい! そのためにもリリィさんの仕事を見届けるべきだ!」
結人はその場から走り出した。向かう先はリリィが助けに向かった銀行である。
○
「こんなとこ侵入して……誰かに見つかった怒られるよな」
結人は周囲を警戒しながら現場となる銀行を見下ろして呟いた。
駆けつけていた警察によって銀行の周辺は封鎖されていた。そのため雑居ビルの屋上に侵入し、そこから銀行入り口を覗くことに。
店内ではこのご時世「嘘だろ」と思うようなテンプレ的銀行強盗が客と従業員を人質にし、警察を牽制していた。
目出し帽に拳銃、そして紙袋を持った犯人。
モデルガンでしたというオチかと思ったが、不意に犯人が鳴らした銃声が結人のいる場所にも届き、凶器の咆哮が恐怖と危機を感じさせる。
(ほ、本物かよ!? あんな場所に乗り込んでリリィさんは大丈夫なのか? 撃たれたらいくら魔法少女でも命が危ないんじゃあ……?)
できることなら代わってやりたい、と考えるほどに心配する結人。だが、それら一切は杞憂に終わる。
トラックの衝突にも耐えたマジカル☆リリィが、弱いはずがないのだ。
結人が覗く入り口向こうの光景にリリィが姿を現した。左にリリィ、右に犯人といった構図。
リリィは何やら犯人に説得のための言葉を告げている。だが逆効果だったようで、犯人の身振り手振りから激昂が見て取れた。
外から見守る警察がざわつく中、犯人はリリィに向け銃を発砲。
またもや響く銃声――同時にリリィが姿を消した。
「も、もしかして……撃たれたのか!?」
瞬きも忘れ、結人は瞳を震わせる。
嫌な予感に目を塞ぎたくなる――も、
(魔法少女は不可能を可能にし、最後に必ず正義を成す存在。リリィさんは俺が憧れた魔法少女だ――この程度で負けたりしないはず)
信じる気持ちが彼に見届ける勇気を与え――それは報われる。
いつの間に移動したのか犯人を背後から蹴とばすリリィの足が見えた。大の字になって地面に倒れる犯人。
すると、その隙を逃さなかった警察が一斉突撃。起き上がった犯人が
「おぉ! やっぱりリリィさんは凄い! あの時のまま、危険を顧みず誰かを助ける素敵な魔法少女だ!」
ヒーローを前にした子供のように目を輝かせる結人。
すると――、
「あ、見ててくれたんだね。一瞬撃たれたと思ってビックリしたんじゃない?」
夢中になっていた結人の背後、いつの間にかリリィが立っていた。気配もなく存在していたリリィに結人は驚き、尻もちをつく。
「う、うわぁ! いきなり後ろにいる方がビックリするよ! さっきまで銀行にいたはず……」
「驚かせちゃった? あの路地に戻ろうとしたら君の姿を見つけたんだよ」
「そりゃ驚くよ……。でも、銀行から出た様子もまったくなかったのに」
いくら魔法少女の身体能力が人並みを外れていたとして、この場所まで到達するには時間がかからなすぎる。そんな疑問にリリィは人差し指を突き立てて得意げに語る。
「気付かなかったよね? これはね、魔法少女としての能力なんだ。説明は難しいんだけど……」
「……時間停止?」
「えぇ!? なんで分かったの!?」
「分かるよ。最近の魔法少女アニメで一番有名な能力といっても過言じゃないから」
「あ、アニメ? そ、そうなんだ……?」
意味の分からない理由で能力を看破され、困惑するリリィ。しかし、表情はすぐに強ばったものに変わる。
……まぁ、当然だろう。何せこれから、自分にとって一番の――そして、両親にも打ち明けていない秘密を語ろうとしているのだから。
話を切り出すべく咳払いをするリリィ。
「じゃあさ、さっきの話の続き……ボクが魔法少女になった理由、話していいかな?」
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