第61話 リズム


 「なんか意外~~」


 「な、何がですか・・・・・?」


 夕方の闘技場で、識と志保、それに小次郎が立っていた。


 「小次郎君って、リズム感ないんだね・・・・・」


 「というか、体を音楽に合わせることそのものが苦手だろう」


 (リズムなんて意識して、戦闘はしませんよ)


 「ふむ。せっかく望月が提案してきたことだが、1週間で仕上げるのは無理だな。さ、仕事に戻ろう」


 何やら考えている識の横で、志保はホッとした表情を作りながら教官室に足を向けた。


 「待って、しほりん!」


 その肩を、識ががっしりとつかむ。


 「な、なんだ?」


 「逃がさないよ~。しほりんがこういうの苦手なのはわかるけど、ただでさえ男っ気ないんだから、こういうときにアピールしとかなきゃ!」


 「い、いったい誰にだ!」


 「まあまあ、誰でもいいじゃない。それよりも、小次郎君がダメなら、2人でやろうよ。ダンスかなんか」


 「・・・・・・ほ、本気か?」


 「私のモットーは? 前言ったけど、覚えてる?」


 満面の笑みの識と、引きつった泣き顔を作っている志保。2人は正反対の表情を惜しげもなく披露している。


 「ゆ、有言実行・・・・・」


 「はい、ということでやるよ~」


 「ちょ、ちょっと、」


 「志保先生」


 「あ、こ、こいつを止めてくれ! こいつと2人でステージに立つなどまっぴらごめんだ!」


 必死の声を上げる志保に、小次郎は深々と頭を下げながら笑い交じりに言った。


 「僕は、仕事やりますね。ステージ頑張ってください」


 「お、お前もか・・・・・・」


 「あ、もしもし、香耶ちゃん? 私と志保でダンスやるから枠押さえといてね~」


 -------------------------


 「おい、武器を集めろ。ないとは思うが、ここにも手が回るかもしれん」


 さきほどまでバーにいた5人は、郊外の安アパートの一室に集結していた。


 「はいはい」


 「・・・・・わかった」


 「あたし、重いの無理。パス」


 「僕も忙しいから。よろしく」


 大男と根暗がてきぱきと作業を始めたのに対して、女はソファに転がると携帯をいじり出した。


 少年は、パソコンを操作している。


 「おい、若き少年よ。労働に手を貸したまえ」


 「なんの真似だ?、それは。おそろしく似合わないからやめろ」


 大男がふざけて言うと、少年は画面から顔も上げずに毒を吐いた。


 「・・・・隊長」


 「どうした?」


 根暗が、書類廃棄をしていた隊長に話しかける。差し出された細い腕には、重そうな木箱がのっていた。


 「これは、どうします?」


 「・・・・・いいものがあったのを、忘れていたな」


 ※次回更新 7月24日 金曜日 0:00

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